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〜私の恋は妖精の魔法と少しのドジで始まりました〜  作者: 石田あやね
第1章【少女、妖精と出会う】
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9話 初めての朝

 翌日、少し早めに目が覚めた葉月はそっとベッドから立ち上がる。机の上を見ると、アモールは呑気な寝顔で熟睡していた。何度見ても妖精らしくない。葉月は昨日の出来事を思い出し、やれやれと首を振る。

 キッチンからはトントンと包丁の音が聞こえた。

「おはよう」

 恐る恐るリビングへ行くと、キッチンで朝食の準備をする恭太の姿が目に入る。

「おはよう、葉月。いつもより起きるのが早いな」

「なんか早く目が覚めて」

 そっとリビングに目を向けると、ソファで寝息を立てる理人がいた。中身が入れ替わるという一大事が起こり、尚且つ昨日初めて会ったようなクラスメイトの家でぐっすり眠れる恭太はある意味大物ではないだろうか。

 葉月は呆れよりも面白さが込み上げ、ふっと口元が緩む。

「あまり見るな……俺が間抜け面して寝てるみたいで恥ずかしいんだ」

「お兄ちゃんの寝顔なんてあんまり見たことないから、つい……」

「俺はあんな間抜けな寝顔はしてないからな」

「そうなんだ」

 そっと恭太の側へと寄っていくと、彩りのいいお弁当が三つ並んでいた。

「3人分作ったの? 今日は私しかお弁当いらないんじゃないの?」

「俺はリモートで仕事だから、昼時間がズレることもあるし、なら最初から弁当を作っておけば相手を気にせず食べれるだろ? そもそも、よく知らない男の顔を見ながらご飯食べるのはあいつだって気まずいだろ」

 その通りだと思う。葉月からしても恭太は昨日まで他人のような存在だった。親しくもない相手といきなり同居して、顔を合わせて食事なんて想像しただけでも気まずさしかない。しかもお互い中身が入れ替わっているというヘンテコな事態が起きているのだから尚のことだ。

「葉月、朝ごはん用意しておくからさっさと準備してこい」

「うん」

「あ、あとなんだが」

 恭太が何か言いかけようとした瞬間、理人が伸びをしながらムクっと起き上がる。

「あ、葉月おはよう。お兄さんもおはようございます」

 寝ぼけながらも、理人は笑顔で挨拶した。

「おはよう。ソファで寝て大丈夫だった?」

「全然! 快適だった……てか、めっちゃいい匂い」

 くんくんと鼻を動かす理人はまるで子供のように映る。

「葉月、先に支度しておいで」

「うん」

 言われた通りに葉月は身支度をするべく、まずは洗面台の方へと向かった。


「葉月が終わったら次は恭太くん行っておいで。ふたり揃ったら朝食にするから……後、お昼はお弁当作っておいたから、俺は気にしないで時間で食べてくれていいよ」

 淡々と話を進めながら、お弁当に仕上げのミニトマトを添えて蓋を閉じる。

「俺、誰かが作ったお弁当なんていつぶりかな〜。お昼の時間が待ち遠しくなっちゃいましたよ」

 ニコニコと屈託のない笑顔を浮かべる理人を見ていると、恭太の顔も自然と和らいでいった。

「お前は見た目はあれだが……いい奴そうだな」

「え、ありがとうございます。なんか褒められ慣れてないんで照れちゃいますね」

 本当に褒められ慣れていないらしく、ほんのり頬に赤みが浮かび出る。ここまで純粋そうな心の持ち主にも拘らず、その親はどうしてあそこまで恭太を嫌悪しているのか今ひとつ腑に落ちなかった。

「そういえば、身体が戻るまでは学校を休むしか他ないけど……出席日数は足りてるのか?」

「あー、えーっと……ちょっとマズいかもしれないっすね。けど、こうなったからには仕方ないから大丈夫ですよ」

 ヘラっと笑い、間の抜けた返答をする姿に恭太は盛大に溜息を漏らす。

「お前な、根は素直なんだから学校くらいは真面目に行けよ。進級できなかったらお前自身の評価がダメになあるんだぞ」

「まあ、そうですね」

「家の環境もあるんだろうが……お前はお前自身を大事にしろ」

「はい」

 さっきまで笑っていた理人がしゅんっと肩を落としてしまう。自分が落ち込む姿を見るのは複雑で、恭太は余っていたタコさんウインナーを理人の口へ突っ込んだ。

「お前が進級できなくなるのは、いくら無関係な立場の俺でも気にするから何か対策はするよ……だから、この身体が元に戻ったら休まずに学校にだけは行けよ。勉強も分からないなら俺で良ければ教えてやるから」

「お兄さん……めっちゃ良い人」

 落ち込んでいたと思えば、今度は目をキラキラと輝かして尊敬の眼差しを送ってくる。

「ありがとうございます!! 俺、お兄さんに一生着いて行きます!!」

「着いて来なくていい! それと()()()()呼びはやめてくれ。名前でいいから」

「分かりました、理人さん!!」

 こんなやり取りを交わしていると支度を終えた葉月が少々困惑した顔をしながら近寄ってきた。

「どうかしたの?」

「いや」

 恭太が口を開くも、遮るように理人が興奮気味に葉月に近寄った。

「葉月、理人さんめっちゃ頼りになる良い兄貴じゃん!! 俺、葉月と同じクラスになって良かったよ! 身体戻ったらさ、俺ちゃんと学校行くからさ……学校でも仲良くしてくれな」

 あまりにも素直な言葉と笑顔で言ってくれた理人に思わず葉月は目を見開く。

「う、うん」

「ありがとう!! 俺こんなんだけどさ、葉月には絶対に迷惑とか掛けないから、よろしくな!」

 ぎゅっと手まで握られ、葉月は気恥ずかしさに目を泳がせた。

「わ、分かったから……顔洗っておいで」

「おう!」

 パッと手を離すと、理人はスキップでもしそうな足取りで洗面台へと向かった。

「なになに? お兄ちゃん、恭太くんと仲良くなったの? 一体何があったの?」

「まあ、それはまた時間のある時に説明するよ。とりあえず、あいつはああ見えて悪い男ではなさそうだから一緒にいる間は面倒見てやってくれ」

「分かった」

 恭太の思わぬ言葉に首を傾げながらも、葉月は朝食の準備を手伝う。

 本日の朝食は鮭の塩焼き、だし巻き卵、具沢山の味噌汁と日本らしい和食。

「今日も美味しそう」

 先ほどの違和感は葉月の頭からすっかりと消え去っていた。

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