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〜私の恋は妖精の魔法と少しのドジで始まりました〜  作者: 石田あやね
第1章【少女、妖精と出会う】
7/10

7話 解けない魔法

 テーブルの料理が綺麗に無くなったタイミングで理人が満足そうな顔をしながら話し始める。

「それにしても、何がどうなって俺とお兄さんが入れ替わっちゃったんですかね? これって病院でなんとかしてもらえますかね? こう電気とかビリビリっと」

 兄とは思えない発言だと、葉月は呆れを通り越して笑いが込み上げてきた。

「ビリビリって……電気ショックでもする気ですか?」

「だいたい受付に症状を話した瞬間に頭のおかしい奴と冷ややかな視線を向けられながら精神科の受診を勧められて終わりだよ」

 恭太は表情を変えずに空の皿を重ね、洗い場へと向かった。

「お兄さん、俺がやります! いきなりご馳走になったんで、洗い物ぐらいさせてください!」

 席から立ち上がり、後を追うとする理人を恭太は即座に制止する。

「心配ない。この家の全ての家事は俺がやるルールだ。気にせず席に座っていなさい」

「そ、そうなんですか?」

「食後のお茶を出すから、寛いでくれ」

「はい」

 テキパキと3人分のお皿を洗う恭太の姿を葉月は今も信じられないと言わんばかりに見つめた。

「葉月の兄貴、すげーな」

 席へ戻ってきた理人が小声で葉月に言う。

「さっき食べた料理作ったのも兄貴なんだろ? 顔もかっこいいし、仕事もできそうだし、いい兄貴がいて葉月は幸せ者じゃん」

「そうだね」

「てか、葉月の親は? もしかして単身赴任で居ないとか?」

 葉月は曖昧に微笑んで、そっと席を立つ。

「ごめん、ちょっと部屋に行ってくるね」

「オッケー」

 気にしていなさそうに理人はオッケーサインをした。


 自室へ入り、そっと部屋の鍵を閉めた瞬間にある場所へと目線を送る。窓辺に置いた金平糖を呑気に頬張るアモールへと足音を立てながら近付いた。

「何を考えているんですか?」

「葉月さん……ごめんね。まさかお兄さんに矢が刺さっちゃうとは思わなくて。けど、中身がお兄さんみたいな人なら葉月さんも嬉しいでしょ? 見た目も王子様で完璧!」

 自分の魔法にご満悦な様子だったが、重苦しい視線に気がつき上を見上げる。

「あのー、葉月さん?」

 鋭い睨みを向ける葉月に気が付いた瞬間、アモールの顔から一気に血の気が引いた。

「もしかして……まずかったでしょうか?」

 その問い掛けに葉月の顔はグッとアモールに近寄る。

「当たり前です。好きでもない相手の身体で、中身は私の兄なんです。それが完璧に見えますか? 見える訳ありませんよね。即刻二人を元の体に戻してください」

「ああー、えーっと……今すぐですか?」

「はい。今すぐにです」

 見る見るうちにアモールの額に不自然なほどの汗が吹き出す。妖精なのに顔色が悪い。

「何か問題でもあるんですか? まさか解き方を知らないとか馬鹿な話はないですよね?」

「解き方はあるよ! もちろん、あるとも! ただ……」

 肝心な話になると口を閉ざしてしまうアモールを見兼ね、葉月は金平糖の袋を乱暴に取り上げた。

「あなたを呼び出したのは私です。恋のお願いをしたのも私ですが……こんなにはちゃめちゃな事をされたら正直困ります。もしも二人の身体を戻してくれないなら、直ちに私はあなたにしたお願いを撤回します!」

「それだけはやめて! お願い、葉月さん! 僕を……見捨てないで」

 いきなりボロボロと泣き始めるアモールに葉月はギョッと目を見開く。泣き出すというい予想外の展開に、さっきまで頭が爆発しそうだった怒りがどこかへ消えていった。苛立ちが鎮まり、冷静に頭が回り始める。

「ごめんなさい。少し言い過ぎました……けれど、私の恋のためにもあの二人には元に戻ってもらわないといけません。見た目は違っても、中身が兄なら恋愛感情なんて芽生えませんから」

「そっか。そうだよね」

 優しく言うとアモールは徐々に泣き止み、葉月の言葉を受け入れるように深く頷いた。

「悪いのはボクだ。葉月さんは何も悪くないよ」

「理解してくれてありがとう。それで、二人にかけた魔法は解けるんですか?」

「解けるよ。けどね、今すぐには解けないんだ」

「どうして?」

 気まずそうにしながらアモールはゆっくりと口を開く。

「実は今日一日で魔法を2回も使っちゃったから……もう力がほとんど残ってないんだ。だから、魔法が使えるようになるまで少し時間がかかっちゃうんだ」

「少しってどのくらい?」

「早くて明日の夜か、明後日の朝かな」

「思ったほど長くなくて安心しました。なら、なんとか二人を誤魔化して明日大人しくしてもらうしかありませんね」

 立ち上がった葉月に合わせ、アモールも羽根をパタパタさせながら浮き上がる。

「あの、葉月さん……二人が戻ったらボクは必要なくなっちゃうんだね」

「もういいですよ」

 肩を落とし、落胆した様子を見兼ね、優しい声で話し掛けた。

「今後は勝手に魔法を使わずに、必ず話し合ってから行動してくれると約束してくれるなら……また私の恋のお手伝いをお願いします」

「葉月さん」

 アモールの目がうるうると潤む。

「私は恋というものがいまいち分かっていません。今まで誰かを好きだと思ったことがないので恋に関してはど素人です。そしてアモールは妖精見習い……だったら二人で成長できるように協力していきましょう」

「ありがとうございます!! ボク、葉月さんのために頑張ります!!」

「頑張るのはほどほどにね」

「きっと葉月さんの恋を成就させて、ボクは立派な妖精になりますね!」

 落ち込んでいたアモールは途端に目を輝かせ、クルクルと宙を飛び回る。

「元気になったのは嬉しいけど、空回りしないように気を付けてくだいよ」

「任せて!」

 ウインクで返すアモールがまた危なっかしく感じ、葉月は呆れ笑いを浮かべた。

「ひとまずアモールは魔法が使えるまで大人しく家にいてください。私はお兄ちゃんと恭太くんを明日一日家から出ないよう上手く説得してきます」

「分かったよ」


 自室から出ると、食器を洗い終えた恭太は食後のお茶をテーブルに並べていた。しかし、コップは葉月と理人の二人分しかないことに気が付く。

「あれ? お兄ちゃんはお茶飲まないの?」

 すぐさま疑問を口にした葉月に、恭太は上着を手に取って答えた。

「これから渡辺くんの家に数日分の荷物を取りに行ってくる。中身が入れ替わった原因は話しても解決策なんて出てこないだろうから、まずは現実的な問題をクリアしていかないといけない」

「現実的な問題?」

 理人はお茶を飲みながらきょとんとする。まるで危機感がないのが不思議でならない。

「中身が違うのだから、ここにいる俺たち以外の人間と接触するのは極力避けた方がいい。渡辺くんが俺の代わりに仕事をするのは到底無理だし、俺の身体では家にも帰れない。俺がよく知りもしない君のフリをして、初対面の家族と暮らすのだって厳しいからな……だったら、問題が解決するまでは三人一緒にここで暮らすのが最も無難な解決策だ」

「なるほど! お兄さん頭良いですね!」

 なんともお気楽な理人の返答に、恭太は文句言いたげな顔をしながら溜め息を零した。

「今から荷物を渡辺くんと一緒に取ってくるから、葉月は家で待っててくれ。お風呂の準備はしてあるから、先に入って休んでいなさい」

「分かった」

「渡辺くん、悪いけど道案内頼むぞ」

「は、はい!」

 自分の分のお茶を飲み干し、理人は慌てて玄関へと向かう恭太の後を追う。二人を説得する必要がなくなった葉月は静かに二人を見送った。

「あれ?」

 葉月はそこでようやく最大の問題点に気が付く。

「私……恭太くんと一緒に暮らすんだ」

 短い期間とはいえ、初対面に等しいクラスメイトとの同居生活に憂鬱さを感じるのだった。

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