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24話 擦れ違いと誤解

 午後2時。

 葉月と柚子は草陰に隠れ、公園のベンチで恭介を待つ恭太の様子を見守っていた。恭太は自分一人でも大丈夫だからと言って出て行ったが、やはり不安は拭えない。万が一殴り合いの兄弟喧嘩に発展したら大問題だ。

「と言うかさ……本当に弟くん来てくれるかな? あれだけ恭太のこと毛嫌いしてたら来てくれないんじゃない?」

 柚子は難しい顔を浮かべながら、葉月の肩に座るアモールに目を移す。

「アモールの魔法で何とかならないもん?」

「契約者以外の人間のお願いを聞くのも御法度ですからね〜。それは出来兼ねます」

 アモールはハッキリと断ると、柚子は残念そうに項垂れた。

「このまま弟が来ない場合は話し合いにもならないし、来たら来たで関係が拗れる可能性もあるし……せっかく血が繋がった兄弟なのにさ。憎しみ合うなんて勿体無いよね」

 柚子にも実は二つ年上の姉がいる。今は大学へ通っているため、実家を離れて一人暮らしだ。前から仲良し姉妹で、葉月にも姉のように接してくれていた。自分とは正反対の兄弟仲の恭太と恭介を不憫に思う気持ちは何となく分かる。

「けどさ……私はそうじゃないと思うんだよね。きっと弟くんは心の底から恭太くんを恨んでるとか思ってないと思うよ」

「え? なんで? だって葉月にまで文句言うぐらいなのに?」

「私が恭太くんにちょっかい出す嫌な女だと思って心配したから文句を言いに来たんじゃないのかな? 恭太くんを悪く言ってはいたけど、本気で憎んで嫌ってるなら私にわざわざ会いに来ないと思うんだよね。関わらず放っておくものでしょ? だから、裏を返せば弟くんは恭太くんが大好きなのかもしれない」

「そ、そうなの?」

「好きだからこそ、ちょっとした誤解で憎しみが強くなってるだけなんだと思う。けどそれは、弟くんのせいじゃなくて……きっと周りの環境が原因なんだと思う」

「あ! 来たよ!」

 柚子がさっと頭を下げ、葉月もそっと隠れる。ベンチに座る恭太へゆっくりと近付く人物。それは紛れもない恭介だった。


 何とも気まずそうな顔をしながら近寄ってくる恭介に恭太は苦笑いを浮かべる。

「来てくれてありがとうな。塾は終わったのか? お疲れ……母さんにはなんか言ってきたのか?」

「いや、友達と塾で自習もするから迎えは要らないって言っただけだから」

「そっか」

 そこから動こうとしない恭介を見兼ねて、恭太は自分の隣に座るようにと合図を送る。一瞬だけ躊躇いはしたものの、恭介は静かに恭太の隣に座った。

「恭介はさ……俺のこと嫌いか?」

 その問い掛けに恭介は答えない。ただ沈黙する。

「初めはさ、俺たち仲良かったよな。けど、小学生の時から母さんが俺のテストの結果が良かったのをきっかけにだんだん変わっていた……初めは母さんが褒めてくれるのが嬉しかったし、勉強するのが楽しかったから気付かなかった。俺の知らないところで恭介がどんな思いでいたのか……母さんや父さんが露骨に俺だけを可愛がるのを見てたら面白くなかったよな。ごめんな、気付くのが遅くなって」

「それで嫌ってたわけじゃないから」

 ボソッと恭介が呟く。

「え?」

 意外な答えに恭太は見開く。

「けどさ……中学あたりから俺ともあんまり喋ってくれなくなったし、俺と一緒の塾に通ってた時だって距離置いてただろ? それって俺が嫌いだったんじゃ」

「家で兄貴に話し掛けると母さんがいい顔しなかったから。俺が勉強の邪魔になるって……塾では自分なりに勉強を頑張ろうって思ってたんだ。けど、兄貴がいると意識して勉強に集中できなくなりそうで距離を置いてた」

「は? 何だよそれ……母さんそんなことしてたのかよ」

「今の兄貴と同じ状況だった。まあ、俺の時は兄貴や父さんのいない所で言ってたから……みんなの前ではそんな露骨な態度はされなかったけどさ」

 知らなかったと恭太は深い溜息を漏らす。

「悪い。俺の前ではそこまで恭介に変な態度は取ってなかったから……ただ、俺だけが褒められてるのが面白くなくて怒ってたとばかり思ってた」

「そりゃ、兄貴ばかり褒めて依怙贔屓(えこひいき)してるのが面白くなかったのは正直なところあったよ。けど、俺が兄貴に怒ってるのはそこじゃないから」

 そう言われ、恭太は深く考え込む。だが、それ以外に思い当たる節がない。

「俺、お前に何かしたか?」

「俺のためにわざと成績落としただろ?」

「それで怒ってたの?」

 あまりにも予想外で恭太は軽く笑うも、それに対して恭介は怒り口調で言い返した。

「俺は実力で兄貴と競いたかった!! 別に母さんが兄貴ばかり褒めるのも、俺に対して冷たいのもどうだってよくて、俺は兄貴と対等になりたかったんだ。それなのにわざと成績を落として、兄貴が嫌われる役目を背負ったのが許せなかったんだ。俺はそんなの望んでなかった!」

「恭介」

「兄貴は俺を思ってやってくれたのかもしれないけどさ。俺は兄貴の身代わりで母さんの愛情を背負わされた気がして嫌だった……あんなの愛情でも何でもない。ただ頭のいい子供だけを猫可愛がりする毒親だ」

 恭太はどう反応していいものかと悩む。

「高校へ入ってからは髪を染めて、ピアスまでして……学校をサボるまでになった。特進のクラスからは兄貴の良くないデマの噂を耳にしては否定したい気持ちと、兄貴自身が悪い人間だと思わせていることへの苛立ちで……いつも頭の中がぐちゃぐちゃだった。そんな時に今度は女までって思ったらさ……居ても立っても居られなくて、兄貴に悪影響な女なら俺が追い払おうって思ったんだ」

「えーっと……恭介は俺に怒ってたんだろ?」

「怒ってたよ!!」

「なら、何で葉月を追い払うんだよ。俺に怒ってたんなら葉月は何も関係ないだろ」

「そんなの言わなくても分かれよ!!」

 恭介がその場から立ち上がると、「もういい」と立ち去ろうとした。

「どうしてはっきり伝えてあげないんですか?」

 その声がした瞬間、恭介と恭太の目が一瞬にして同じ所へと向く。そこには隠れて見守っていたはずの葉月がいた。

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