21話 賑やかな夜
コンビニでアイスとお菓子を買い、人通りの少ない道に入ったところで柚子はワクワクした顔で話し始める。
「アモールだっけ? 妖精ってことは、魔法とか使えるんだよね? そしたら、葉月の運命の相手とか見付けてくれたりしてくれるってことでしょ!? やばいぐらい羨ましいんだけど」
「いやいや……魔法は使えるけど、運命の相手を見付けられるような凄い魔法を使える訳じゃないんだよ」
「え? そうなの?」
ちょっと期待外れと言いたげな柚子に笑ってしまいそうになりながら、葉月はこれまでの経緯を話した。アモールはどんな魔法を使えるのか、その魔法でこれまでどんな事が起きたのか、事細かに説明する。柚子はその話に時折相槌を打ちながら、真剣な面持ちで聞いていた。
「なるほどね。だから急に恭太と葉月の距離が近くなったのか……てか、恭太と理人さんが入れ替わってたとか面白すぎなんだけど」
「笑い事じゃないよ。二人にアモールのこと話せないからさ……あの時はどうしたらいいのか、本当に困ったんだから」
「まあまあ、今はちゃんと戻れたんだからいいじゃん。てか、もしかしてあのお昼休みの時……恭太が私のこと見てもあんまり反応しなかったのって、中身が理人さんだったからなんだ。あの時は恭太が私のこと忘れたんだとばっかり思ってたけど、次会った時は普通に喋るからおかしいなっとは思ってたんだよね。その話聞いて今すっごい納得できた!」
家に着くまで待ちきれなかったのか、先ほど買ってきたアイスを袋から取り出し、柚子は躊躇なく口に頬張る。
「さっきご飯食べたばっかりだよ」
「アイスは別腹だって」
同じ年なのに、たまに柚子を妹のように感じてしまう瞬間がある。葉月は「もう、子供みたい」と笑いつつ、自分もアイスを取り出した。
「葉月だって子供じゃん」
「子供だよ。だってまだ高校生だもん」
そう言い合いながら歩いていると、柚子のスマホから軽快な着信音が鳴り出す。
「あれ、恭太だ」
どうやら恭太からの着信だったようで、柚子は「はいはーい」と明るい声で対応した。
「え? 葉月なら隣にいるけど……ちょっと待って」
出て間もなく、柚子は自分のスマホを葉月に差し出した。
「恭太が話があるみたい」
「え?」
葉月は恐る恐るスマホを耳に当てた。
「もしもし」
「悪い。二人で楽しんでた時に電話して……今って家にいる?」
「ううん、柚子とコンビニ行って帰ってるとこ」
「そっか。実はさ……今俺、葉月の家の前に居るんだよね」
さっき別れたばかりの恭太がなぜ家にと驚き、葉月は目を見開きながら柚子に目を向けた。
「何? なんかあったの?」
「恭太くんが今、私の家に居るみたい」
葉月の耳に恭太が小さく「悪い」と一言呟いた声が聞こえた。
電話の後、葉月と柚子は急いで家へと向かうと、入り口近くに恭太が一人ポツンと佇んでいる。見るからに元気のなさそうな様子に、きっと恭介と何かあったのだろうと察した。
「悪いな……いきなり来て。勢いで家から出てたものの、行く当てもなくてさ」
「いいよいいよ。気にしないで……お兄ちゃんには連絡しておいたから」
「ありがとう、葉月」
申し訳なさそうにしながらお礼を言う恭太に、柚子はずばっと聞く。
「それで弟と何があったの?」
こういう躊躇いもなしに聞きづらい事を聞ける柚子の度胸を葉月はいつも見習いたいと思う。
「いや、話をしようとしたんだけど部屋から出てこなくて……途中で母さんが仕事から帰ってきたから、話すら出来ずじまいだったよ。けど、明日に会おうって待ち合わせ場所と時間を伝えたから、そこに恭介が来てくれればいいんだけど」
「なるほどね。ってかさ、恭太って葉月の番号とか知らないの?」
「ああ、葉月に連絡しようって思ってたんだけど……そう言えば聞いてなかったのを思い出してさ」
「葉月の家に泊まったこともあるのに、連絡先交換してないってダメじゃん!」
柚子の指摘に恭太は苦笑いを浮かべる。
「いや、あの時はそれどころじゃない状態でさ」
「なら、今すぐ交換しなよ! 葉月とは友達になったんだから」
「それもそうだな」
柚子に押され、恭太はそっと自分のスマホを葉月に差し出した。
「ってことで、葉月の連絡先教えてくれない?」
「あ、うん」
葉月のスマホに理人以外の異性の情報が登録される。友達とは思ってはいても、内心ドキドキしていた。
「よーし! じゃあ、理人さんも混じってみんなで騒ごう!!」
「あんまり騒ぐとご近所迷惑になっちゃうから控えめに騒ごうね」
「いやいや、俺らの中に理人さんを混じらせるのは逆に申し訳ないって」
そんな事を話していると玄関の扉が勢い良く開く。
「玄関先で騒いでる時点で近所迷惑だよ! そんなところで話してないでさっさと中に入ってこい!」
葉月たちの話し声が理人の耳に届いていたようで、少し怒った顔で現れた。
「理人さん、今日はまた突然お邪魔してすいません」
ぺこりと頭を下げると、理人は軽く恭太の肩を叩いた。
「今日はうるさい岸谷がいるんだから、恭太一人増えても別に迷惑でも邪魔でもない。さっさと中に入って飯を食え……どうせ夕飯もまだなんだろ」
「ありがとうございます!! ご飯もご馳走になります!!」
理人と恭太が変な信頼関係を築いている様に、柚子はそっと葉月に耳打ちをした。
「ねえ、アモールの魔法……理人さんと恭太くんに悪影響与えたりしてないよね? なんか、葉月以上に二人の親密度増してない?」
「だよねー。もしかしたら、二人の仲がいいのはアモールの魔法のせいかもね」
「葉月の恋の手伝いのためにいるのに、関係ない理人さんと恭太の仲を取り持ってどうすんのよ……アモール、大丈夫か? いや、あの二人が恋に落ちたら落ちたで面白いけどさ」
「いやいや……それは勘弁してよ」
柚子の発言は葉月にとっては冗談には聞こえず、アモールに対して不安が過ぎる。
いくら見習いだからといっても、そんなヘンテコな間違いはしないだろうと思い直すも、入れ替わり事件があったからか、その日の夜は眠りにつくまで心配が頭の片隅に居座っていた。




