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〜私の恋は妖精の魔法と少しのドジで始まりました〜  作者: 石田あやね
第1章【少女、妖精と出会う】
19/24

19話 拒絶と苦悩

 カラオケ屋を出たのは19時を過ぎた頃だった。

「それじゃあ、俺はこっちだから」

 駅前で恭太だけが自宅のある方向へと足を向ける。

「うん。休みの間にちゃんと弟くんと話せるといいね」

「ああ」

「もしも喧嘩したら、葉月の家来たらいいじゃん! 今日は私もお泊まりで一緒にいるしね〜」

「お兄ちゃんは恭太くんなら大歓迎だから遠慮しないで、もしもの時は頼って」

「ありがとう」

 そう言って恭太は背を向けた。

「大丈夫かな?」

「何なに? そんなに誰かを心配するなんて葉月にしては珍しいじゃん……恭太のこと気になる感じ?」

 肘でツンツンと突く柚子に葉月は困ったように首を振る。

「別に特別な感情があるわけじゃないよ。ただ……友達には心から笑ってほしいって思うから」

「友達か」

 柚子が少し残念そうに言う。そんな柚子の反応に葉月は小さく微笑んだ。


 恭太は重い足取りで自分の家の玄関を開ける。リビングには灯りが付いていない。今日は母親も帰りが遅いのだろう。今日は塾のない日のため、この家には今二人しかいない。それは恭太にとっては絶好の機会だ。

「よし」

 気合いを入れ、恭太は恭介の部屋の前に立った。


 ーーコンコン。


 控えめなノックをしてみる。応答はない。

「恭介、居るんだろ? 今日のこともそうだけど……今までの俺たちの関係について話がしたいんだ」

 だが、中から返事が返ってくる気配はない。

「俺はお前に謝らなくちゃいけないことがある。だから、話がしたい! 悪いけど入るぞ!」

 相手の返答を待たずドアのぶに手を当て、力強く回した。しかし、鍵が掛けられているのかドアは開かなかった。

「恭介、お願いだから話をしよう」

 微かに中から物音がする。そして、小さな足音がゆっくりとドアの方へと近付いてきた。

「今更……なに? 俺は兄貴となんて話することなんてないから」

 冷たい恭介の声がなんとかドア越しで聞き取れる。

「確かに今更だけどさ。今からでも俺はお前と向き合わなきゃいけないって思ったんだ」

「なに? あの女になんか入れ知恵でもされた? どうせ話がしたいとか言って……あの女にしたことを責めに来たんじゃないの?」

「確かにお前が今日葉月にしたことは謝るべきことだけど……今はお前を責めるために話したい訳じゃない」

「安心していいよ……もう俺は兄貴とは別の世界にいるって思うことにしたから、金輪際(こんりんざい)あの女とも関わらない。というか、もう関わり合いたくもないよ。これからは俺たち他人として生きていこう」

「俺は今でもお前を……恭介を大事な弟だって思ってる!! だから他人として生きていくなんて無理だ!」

「だったら! なんで俺に()()()()を押し付けたんだよ……今更兄貴ヅラして歩み寄られても迷惑なんだよ!!」

 ドンっとドアを殴る音が響き、恭太は出かけた言葉を飲み込む。

「俺は望んでなかった!」

 最後に放たれた恭介の声はあまりにも苦しそうで、それ以上言葉が見つからなかった。けれど、再度思い出す。葉月が言った言葉がそっと恭太の背中を押した。

「全部悪いのは俺だ。それは認める……俺を許せとも、仲良し兄弟に戻ろうとも言わない。たださ……もし恭介が今の生活に何か悩んでいるんなら俺は力になってやりたいんだ。今抱えている悩みはきっと俺が原因だから、少しでも恭介の力になれるなら俺は今度こそ逃げずに立ち向かう」

 またドアの向こうは沈黙が流れる。

「いきなりこんな風に言われても恭介だって混乱するよな……俺たちずっと兄弟らしくなかった。兄弟なのに、兄弟をしてこなかったから、今すぐに距離を詰められても困るよな。けど、俺はもう一度お前とちゃんと話がしたい……それで理解し合えないなら、お前が言うように他人として接してくれて構わない」

 玄関に向かう足音が聞こえる。きっと母親が帰ってきたのだろう。

「明日! 午後2時に学校近くの公園で待ってる! 恭介が少しでも話がしたいと思ったなら来て欲しい……俺はお前が来るまで待ってるから」

 それだけ言って恭介の部屋の前から離れる。その瞬間、玄関扉が少し乱暴に開かれた。

「恭太……居たの」

 恭太を見るなり、母親は不快そうにため息をつく。

「恭介の勉強の邪魔だけはしないでよね。最近あの子イライラしてるみたいだけど、原因はどうせあなたが何かしたからなんでしょ?」

 否定したい気持ちもあったが、思い当たる節もあったために否定も肯定もできなかった。何も言い返してこない恭太をチラッと見た後、軽く舌打ちをした。

「昔はあんなにお母さんやお父さんの言ったことを守る素直ないい子だったのに……今はすっかり落ちぶれてしまったものね。こんな風になるなら最初から恭介だけを可愛がるべきだったわ」

 恭太の横を通り抜け、リビングへと向かう母親に恭太は思い切って声を上げる。

「母さんはもう俺は家族とは思えない? 成績でしか家族の価値を測れない?」

 ぴたりと動きを止めるも、母親は背中を向けたまま面倒くさそうな声を出す。

「そりゃ成績がいい方が世間からの目もいいからね……それが私たち家族の価値と言われれば否定はしないわ。けど、今のあなたの姿はどう? 世間からも後ろ指を差されるような姿。勉強もできない、見た目も不良、そんな息子を家族なんて恥ずかしくて呼べやしない。お父さんだってそう思ってるわ」

 そう言い終え、リビングへと入っていった。

 恭太は肩を落とし、そのまま自室へと入る。

「勉強できたらできたで、兄弟を比べて差をつけるくせに……世間から恥ずかしいのはどっちだよ」

 思わず口から零れるのは本音。そして頬からは冷たい涙が一雫。

「こんなの家族って言えないだろ」

 脳裏に葉月の笑顔が浮かぶ。恭太はそっと顔を上げ、必要最低限の荷物を大きめの鞄に詰め込み、部屋から飛び出した。リビングから母親が何か言っている声がする。けど、それを聞き返すこともせずに恭太は家を飛び出した。

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