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〜私の恋は妖精の魔法と少しのドジで始まりました〜  作者: 石田あやね
第1章【少女、妖精と出会う】
18/24

18話 過去の話

「私、飲み物取ってくるね〜」

 カラオケ屋に来てから一時間が経過し、空になったグラスを手に柚子は部屋から出ていく。それを見計らったように恭太が勢いよく葉月に頭を下げる。

「今日は俺の弟が本当に悪かった!! 絶対あいつ酷いこと言っただろ? 腹も立っただろうけど、俺に免じて今回は許してやってほしい」

「そんな謝らなくてもいいよ。別に恭太くんが悪いわけじゃないし……弟くんにはさっき言い返したから正直そんなに怒ってないよ」

「それでもさ……あいつがあんな風になったのは俺のせいでもあるんだ。だからごめん!!」

 これは謝罪を受け入れないと終わらなさそうだと思い、分かったとだけ葉月は伝えた。

「ありがとう、葉月」

 恭太は安堵の笑みをこぼす。

「お待たせ〜」

 コップに並々と注がれたジュースを持って、柚子が戻ってくる。すると、場の空気を読んだのかニヤニヤとしながら席についた。

「なになに? 私がいない間に何いい雰囲気になってんの〜?」

「そんなんじゃないよ」

 葉月はキッパリと否定した。

「それよりさ、葉月って何かやってたのか? あいつの手首、グオーって捻ってただろ?」

「何その効果音、ウケるっ」

 柚子がケラケラと笑う。葉月は苦笑いを浮かべつつ、恭太に質問の返事を返した。

「実はお兄ちゃんがもしもの時のために習った方がいいって、中学生の時に護身術を習ったことがあるんだ」

「なるほど、そういうことか。理人さん、葉月のこと本当に大好きだもんな……親が近くにいないから余計に心配になるよ」

 恭太の言葉に葉月はきまずそうに頷く。それを見ていた柚子もそっと目線を外す。

「ごめん、俺もしかして何かまずいこと言った?」

「ううん。全然……別に隠すことじゃないから今言うね。私の親はもう死んでるんだ」

「え……あ、俺また無神経に……悪い」

「大丈夫だよ。もう昔の話だから気にしてないよ」

 カラオケの賑やかな部屋がなんとなく静かに感じた。

「私が10歳の時に飛行機事故で二人とも亡くなって……私の家族はお兄ちゃんだけになったんだけど、その頃お兄ちゃんも高校卒業したてで兄妹だけで暮らしてはいけなかったんだ。お兄ちゃんはすっごく嫌がってたんだけど……お兄ちゃんがちゃんと自立して安定した生活を送られるまで私は父方の親戚の家にお世話になることになったんだよね」

「そんな時期もあったね〜」

 柚子は既に事情を知っているようで、うんうんと懐かしむように相槌する。

「私を引き取ってくれた親戚には感謝はしてるんだけど……ずっと疎遠だった親戚で、私と歳の近い子供が三人居たからか、私だけ異物みたいに感じてね。そこで過ごした1年間は本当に孤独だった」

「辛かったな……理人さんも心配しただろう」

「お兄ちゃんには言ってない。心配かけたくなくて……けど、お兄ちゃんはもしかしたら何か察してたのかもしれない。高校卒業して仕事しなが大学に通ってたにも拘らず一年で迎えに来てくれたのは想定外だったし」

 葉月の事情を聞いたせいか、恭太が閉ざしていた過去を口にし始めた。

「俺と弟も最初の頃は仲がいい普通の兄弟だったんだ。俺が余計なことをしたせいで……兄弟仲がギクシャクしてきたんだと思う。俺が間違わなかったら、葉月と理人さんみたいにお互いを思い合える兄弟になったかもしれない」

 もうカラオケを楽しむ雰囲気はどこかへ行ってしまった。柚子も興味津々という顔で恭太に注目する。

「俺と恭介が小学校高学年になった頃、兄弟でちょっとた差が生まれたんだ。俺さ、こう見えて昔は勉強が好きで……とにかく新しいことを学ぶことが楽しくて仕方なかったんだ。その反対に恭介は勉強はできる方だったけど、俺ほど勉強に取り組むってわけではなかった。そのせいもあって、テストの点数に差が出始めたんだ」

 柚子は優等生時代の恭太を知っていたためか、なるほどね〜と察したように呟いた。

「俺が毎回テストで良い点数を取るようになってから、父さんと母さんはあからさまに俺だけを可愛がるようになったんだよ。父さんは弁護士で母さんが高校教師やってたから、俺に期待が膨らんだのが原因だったと思う……それをきっかけに俺と恭介の間に溝が出来てきたんだ」

 葉月もここまで聞いてから何となくだが、なぜ恭太が今ではこんな見た目になったのか分かってきた気がした。

「父さんはあまり家に居なかったから露骨な態度はしなかったけど、母さんは成績のいい俺ばかりを依怙贔屓(えこひいき)して、恭介には冷たい態度ばかりするようになった。最初は褒められて、欲しいものを買ってくれる環境が嬉しかったけど、どんどん家族の輪から外されていく恭介を見て辛くなっていったんだ」

「もしかして……それで弟くんに立場を譲ったの?」

 葉月がそう訊くと、恭太は小さく微笑んだ。

「中学になって高校受験を意識し出した母さんが俺と恭介を同じ塾に入れた。恭介は俺の成績に追いつきたくて寝る間も惜しんで勉強してたけど、模試の結果はいつも同じだった……恭介だって勉強ができる方だったけど、母さんは成績が良い方にしか愛情を持てないみたいで、そのせいで俺と恭介の関係はどんどん酷くなっていったんだ。そんなある日、俺見ちゃったんだ……恭介が一人で泣いている姿を」

 恭太は自分の髪の毛をわざとらしく掻き回しす。

「それ見て決めたんだ。これからは俺が冷たくされる側に回ろうって……そうすれば母さんと父さんの愛情は恭介に向けられる。今度は恭介が愛される番だって……だから、塾を勝手に辞めて、わざとテストの点数を悪くして成績を落とした。高校入学後は髪も染めてピアスもして、学校もサボった。母さんと父さんの目は一気に恭介に向いたよ」

 これで問題解決と言うように話す恭太だが、その顔は明らかに喜びは微塵も感じない。

 葉月はむっと怒った顔をした。

「それは恭太くんにとっても、弟くんにとっても良い方法ではなかったね。もしも私がお兄ちゃんに同じことをされたら怒ってたと思う」

「分かってる。多分、恭介は葉月と同じように俺に怒ってる……だから間違った俺が悪い」

「けど、もっと許せないのは兄弟のことを成績でしか見ない親です。子供の良いところを見付けて、認めてあげるのが親であって……兄弟を格差するのは違うと思う! 家族はそんな偏った愛し方しちゃいけない!!」

 葉月は感情が爆発しそうだったのか、勢いよくマイクを握り立ち上がる。そして叫んだ。

「恭太くんは素晴らしい人間だよ! きっと弟くんも分かってくれるはず! だから、ちゃんと兄弟で本音を話すべきだよ!!」

「そうだな……そうだよな! 俺、ちゃんと恭介と話すよ!!」

 恭太も立ち上がり、葉月と同じようにマイクを持つ。

「いいねいいね! 私も応援するよ〜!」

 柚子も賛同するように声を上げた。

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