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〜私の恋は妖精の魔法と少しのドジで始まりました〜  作者: 石田あやね
第1章【少女、妖精と出会う】
17/24

17話 拒絶の意思

 掃除を終え、玄関へと走ってきた恭太はすぐ柚子に声を掛ける。

「岸谷! 待たせて悪かったな」

「お疲れ〜」

 スマホを片手に答える柚子の隣に居るはずの葉月の姿がないことに気付き、恭太は辺りを見回した。

「あれ? 葉月は?」

「なんかさっき恭太の弟が葉月に話あるって連れていちゃったよ」

「は? 恭介が?」

「そう。葉月と知り合いだったなんてビックリしたよ」

「二人がどこに行ったか分かるか!?」

 取り乱したように恭太が柚子の肩を掴む。

「え? なんかまずかった?」

「あいつ絶対なんか誤解してるんだ! 葉月にもしかしたらひどいこと言ってるかもしれない!!」

「そうなの!? 多分あっちに歩いていったから、特進クラスのある校舎に行ったかも!」

「分かった!」

「待って! 私も行くから!」

 勢いよく駆け出した恭太を見て、柚子も靴を履き替え後を追う。


 急いで特進クラスのある校舎へとやってきたまではいいが、どの教室に葉月と恭介が居るのかまでは分からない。恭太は左右、長く続く廊下を見渡してから柚子へと目線を移した。

「岸谷が来て正解だったかもな……一緒に探すよりも手分けして探した方が良さそうだ。早く二人を見付けないと」

 恭介が葉月に何かするつもりではないかと焦りを隠せない恭太に対し、柚子はどこか冷静だった。いや、もはや楽観的だった。

「大丈夫だって。いくらなんでも先生や他の生徒の目がある場所で変なことなんてしないって! 特進行けるほど頭のいい弟なんだから、自分が損する行動なんてやらないんじゃない?」

「そうかもしれないけど……万が一何かあったら俺のせいだ」

「まあ、その万が一? が起こったとしても、葉月一人なら楽勝で対処できるから心配いらないって」

「そんな悠長な……とりあえず急ごう! 俺はあっちを探すから、岸谷は反対の教室を探してくれ」

「りょ〜」

 ますます緊迫感を漂わせながら葉月を探す恭太の姿を柚子は苦笑いしながら見送る。

「本当に心配いらないけど、葉月を見付けないと遊ぶ時間減っちゃうし……よーし! 頑張って見付けるぞ!」

 えいえいおー! と掛け声を上げ、柚子もようやく行動を始めた。


 恭太と柚子が各教室を見回る中、葉月と恭介は重い空気に包まれた教室内で沈黙を続けていた。

「葉月さん、大丈夫ですか!? ボクがお助けしましょうか!?」

 いつも呑気なアモールが異様な雰囲気に耐え切れなくなったのか姿を現す。恭介の前でオロオロと杖を構えるものの、結局のところ妖精アモールに何かできる筈もなかった。

 すると、葉月はそっと顔を上げる。

「悲しいですね……恭太くんはあなたにとって血の繋がった兄弟で家族なのに、消えろなんて残酷なよく言えましたね。私なら言えません」

「消えて欲しいから消えろって言っただけだ! お前には関係ないだろ!?」

「本当にそう思ってるんですか? それがあなたの本心なんですか? だとしたら、私はあなたが嫌いです」

 はっきりと言い放った葉月の言葉に恭介は動揺したように目を見開いた。

「恭介くんの何が気に入らなくて言ってるかは知らないけど、自分の家族の良さが分からないで攻撃する人……私は大嫌いです!」

 先ほどよりも強い口調で言うと、恭介の顔が見る見るうちに赤くなり、羞恥と怒りに震える。

「他人の癖して偉そうに……俺を嫌い? 俺だってあんたみたいな女大っ嫌いだよ!!」

 恭介の右手が大きく振り上げられた。アモールがもうダメだと自分の手で目を覆う。

 だが、静寂の空間に響いたのは意外にも恭介の声だった。

「いててっ……!!」

 アモールが指の隙間から覗くと、振り下ろされた恭介の手首をすんでのところで掴み、叩かれるのを防いでいた。

「やるじゃないですか、葉月さん!」

 すると、教室のドアが勢いよく開け放たれる。それは恭介の声に気が付き、駆け付けた恭太だった。

「葉月!!」

「あれ? 恭太くん、掃除は終わったんですか?」

 予想していた場面ではなかったせいか、恭太の思考が一時停止指定しまう。

「それなら今日はここまでで良いですか? あまり遊ぶ時間が減ってしまうと柚子が拗ねちゃうかもしれないので」

 掴んでいた恭介の手首を離すと、葉月は軽く頭を下げた。

「ごめんなさい。あまり強くは握らなかったけど、痛むようなら冷やして湿布でも貼ってくださいね。あとこれ以上のお話を私にしても無意味だと思います……だから、言いたいことがあるなら正々堂々と恭太くん本人に言ってみてはどうですか? 唯一血の繋がった兄弟なんですから、いがみ合ってても人生楽しくないですよ」

 にっこりと嫌味を込めた笑顔をする葉月に、恭介は何も言えずに俯いた。

「恭介……お前」

「恭太くん、今日はここまでで……お互い頭を冷やしてからの話し合いをお勧めします」

 行きましょうと手を引かれながら、恭太は最後まで目を合わせずにいる恭介を見つめていた。

「おお! 葉月、発見!!」

 恭太の声を聞きつけた柚子が嬉しそうに葉月に駆け寄り、感動の再会でもしたかのように抱き付く。

「柚子! ごめんね、ちょっと時間掛かっちゃって……今から映画館は難しいかもだから今日はカラオケにでも行こうか」

「いいね〜。カラオケ楽しみすぎる。てか、恭太の弟はなんの用事だったの?」

 その問い掛けに、葉月は「うーん」と難しい顔で唸る。

「ごめんな……俺のせいで葉月を巻き込んで悪かった」

 申し訳なさそうに恭太は頭を下げた。

「全然。私は気にしてないから謝らなくていいよ」

 葉月がちらっと黙ったまま俯く恭介に目を向ける。

「けど、今度はちゃんと兄弟で話し合えるといいね」

 その言葉に恭太も恭介に目線をやるも、そっと静かに逸らした。

「もうこれ以上、葉月に迷惑は掛けられないからちゃんと話はするよ。けど……恭介は俺を許してはくれないだろうな」

「ちゃんと話せば理解し合えるかもしれないよ。それでダメだったらその時また考えよう……一緒に悩むぐらいなら私にもできるから……あとうちのお兄ちゃんも恭太くんの味方だから一人で抱え込まないでね」

「ありがとう……葉月」

「友達なんだから当たり前でしょ」

 さらっと言った葉月の言葉は恭太の心を少しだけ軽くした。

「高校で最初にできた友達が葉月ってさ、俺実はすげー幸運の持ち主かもな」

「何それ」

 二人はクスクスと笑い合う。

「ちょっと〜! 二人とも喋ってたらカラオケ歌う時間減っちゃうよ!」

 なかなか玄関まで辿り着けない二人に痺れを切らしたのか、柚子が頬を膨らませて仁王立ちしている。

 葉月と恭太はおかしそうに笑いながら同時に駆け出した。

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