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〜私の恋は妖精の魔法と少しのドジで始まりました〜  作者: 石田あやね
第1章【少女、妖精と出会う】
16/24

16話 誤解

 放課後になり、即座に隣のクラスから柚子が飛んで走ってきた。

「葉月、恭太! 遊びに行こう!」

 柚子が叫んだ名前に恭太が入っていたせいで、ようやく静まりつつあった教室がまたもざわつき始める。

「え? なんであの三人がいきなり仲良くなってるの?」

「藤堂さんと岸谷さんって不良の仲間だったの? 岸谷さんは男遊びしてそうだからちょっと納得」

「わかるー」

「藤堂さんも大人しそうな顔してるけど、岸谷さんと前から仲良かったから案外そういうタイプだったってこと? 人って見かけによらないね」

 好き勝手に膨らんだ妄想を口にして、クスクスと嘲笑う。人の全てを知った気になって、ありもしない噂話を楽しそうに語る。わざと不快にさせたいのか、耳に届く声量で話すところが葉月の怒りを駆り立てた。

「悪いんだけどさ……俺のことはどんだけ言ってもいいけど、関係のない二人のことまで言うのはやめてくれないかな?」

 葉月が言い返す前に恭太がクラス全員を見回しながら告げる。

「俺はこんな見た目だし、ろくに学校も来なかった奴にこんなこと言われても面白くないかもしれないけど……これからは悪く言われないように努力していくって決めたからさ、少しだけ見守ってもらえないかな。ちゃんとクラスメイトとして認めてもらえるように頑張るから……今更だけどよろしくお願いします」

 言い終えると、恭太はスッと頭を下げた。その姿にクラス中が驚きの声を漏らす。信じられないと顔を見合わす者もいれば、自分の発言を後悔したように俯く者、気まずそうに目を逸らす者、反応はそれぞれだった。教室は嘘のように静まり返る。

「よし! 今日の掃除当番は俺がやるよ。ってか、来週も俺が代わりにするから! だから、藤堂と岸谷に対して勝手な噂はやめてくれな!」

 恭太は明るい声とこれまで見せたことのない笑顔で告げた。

「勝手なこと言って悪かった」

 一人の男子がそっと恭太に近寄る。クラスのムードメーカー的存在の田嶋(たじま)だった。

「見た目で変に誤解して……よく知ろうともしないで悪口言ってごめんな」

「いや、気にしてないから余裕で大丈夫!」

 田嶋が話し掛けたことをきっかけに周りの男子は次々と謝り始める。すると、その雰囲気が居心地悪かったのか女子たちも口を開く。

「藤堂さんと岸谷さんのこと悪くいってごめんね」

「私たち誤解してたみたい。だからさっき言ったことは聞かなかったことにしてね」

「本当はあんなこと思ってなかったの」

 上辺の謝罪ではあるが、これで暫くは変な噂話を聞くことは無くなるだろう。葉月は静かに頷いた。

 ただ、柚子は違う。

「私は別に何言われても葉月が味方だから気にしないけど、また葉月の悪口聞いたらそん時は許さないからね!」

 言われたらしっかり言い返すタイプのため、しっかりとクラスメイトに釘を刺す。女子たちは「分かったよ」と苦笑いを浮かべ、そそくさと帰り支度をして教室から逃げるように出ていってしまった。

「あれ? 私まずいことしちゃった!?」

「いや、全然大丈夫」

 柚子もそうであるように、葉月もまた一人味方がいればいいと思っているタイプだったため、もし気まずくなっても構わないと思っていた。なので、葉月は普段通りの笑顔を柚子に向ける。

「葉月も岸谷も俺のせいで悪かったな」

「え? 別に恭介が悪い訳じゃなかったじゃん」

「そうだよ。恭太くんが気にすることじゃないよ」

「二人ともありがとうな」

 恭介は嬉しそうに笑った。

「てな訳で、俺は掃除当番になったから今日は二人で遊びに行ってこいよ。俺はまた今度誘ってな」

「何言ってんの! 余裕で待ってる。ね?」

 柚子の言葉に葉月は力強く頷いた。

「分かった。なら頑張って早く終わらすから待ってて」

「オッケー、玄関で待ってるね。行こう、葉月」

「う、うん。また後でね」

 ワイシャツの袖を捲り、やる気満々の恭太に手を振り、葉月と柚子は玄関へと向かった。


「まずは映画観て、それからカラオケとか行っちゃう?」

 下駄箱の前に来て間もないのに、柚子はウキウキした顔でこれからの予定を考え始める。

「今日はそんなには無理じゃない? どれか一つが限界だよ」

 葉月はスマホの時計をチェックしながら言った。

「そっかそっか……葉月は門限があったね。相変わらず過保護な兄に愛されて羨ましい……てか、今日は泊まりオッケーなんだよね!?」

「うん、もちろん」

「やったー! 久しぶりに理人さんのご飯てべれるじゃん」

 柚子は楽しみが増えたからか、最近お気に入りの曲を口ずさみながら靴を履き替える。葉月も靴を履き替えようと自分の下駄箱へと手を伸ばしかけた時、痛いほどの視線を感じた。

「藤堂 葉月」

 低い声でフルネームを呼ばれ、葉月はゆっくりと声がした方へと顔を向ける。そこには葉月を睨み付け立つ、恭介の姿が目に入った。

「え? 恭太の弟?」

 いち早く葉月の後ろで柚子が声を上げる。

「なになに? 葉月って恭太弟とも知り合いだったの?」

「知り合いってほどじゃないんだけど」

 そう言いつつ、葉月は気まずそうに恭介に向き合う。

「あの……恭太くんならまだ教室にいます」

「別に恭太には用事はない。今日用事があるのは藤堂、お前にだ……ちょっと顔貸してくれないか? 二人で話がしたい」

「良いけど」

 どうして一度顔を合わせただけの自分にと疑問にも感じたが、葉月は素直に従うことにした。

「ごめん、柚子。すぐに戻るから待ってて」

「分かった」

 葉月と柚子のやり取りと見てすぐ、恭介はそのまま背を向けて歩き出してしまった。葉月は仕方なくその後を追いかけた。


 特進クラスは外にある渡り廊下を使わなくてはならない。一般クラスの人は用事でもなければこの渡り廊下には近づかないだろう。恭介は無言で渡り廊下を進み、誰もいない空き教室へと入っていってしまった。葉月は少し躊躇いながら、静けさ漂う教室に足を踏み入れる。

「あの……こんなところまで来て私に何の用事ですか?」

「単刀直入に聞く。お前、恭太とはどういう関係な訳? まさか彼女?」

「か、彼女?」

 一体何をどう見て判断したのだろう? と、疑問符が頭を埋め尽くしていく。先日、しっかり恭太の関係を説明したと思っていたのだが、どうやら京介の誤解はまだ解けていなかったようだ。

「あの、この間も言ったと思うんですけど……私と恭太くんは別にそういう関係じゃなくて、普通のクラスメイトです。というか、そんなのあなたには関係ないと思いますけど」

「関係あるよ……お前みたいのが恭太の周りをウロウロしてたら変な噂が広がって、俺の耳にまで入ってくるのが迷惑なんだ!! 同じ学校ってだけでも目障りなのに、あんなクズみないな兄貴がいるせいで俺も同類だって思われる……本当、あいつも、あいつと仲良くするお前も消えてくれればどんなにいいか」

 普通こんな理不尽な言葉をぶつけられれば怒りが込み上げ、自我を見失うほど荒れ狂っていたかもしれない。それなのに、今の葉月はひどく冷静だった。

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