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〜私の恋は妖精の魔法と少しのドジで始まりました〜  作者: 石田あやね
第1章【少女、妖精と出会う】
11/24

11話 予想外

 遠回りをしていたために学校に着いた時間は普段とあまり変わらなかった。自分の教室に近付いた時、待っていたかのように柚子が駆け寄ってきた。

「葉月、おはよう! ちょっと聞いてよ〜!」

「どうしたの?」

 柚子のこのパターンは彼氏と何かしらあった時。葉月は慣れたもので素早く聞き役になる。

「彼氏がさ、別の学校の子達と合コンしてたらしくてさ。その中の子と連絡取り合ってたんだよ!!」

「わー、それはダメだね」

「でしょ!? 昨日せっかく葉月と夏はダブルデートって燃えてたのにさ、彼氏の友達経由でそれ教えられて気分急降下だったわ」

「彼氏さんとは話したの?」

「速攻で電話して問い詰めたら白状したよ。その瞬間、バッサリと振ってやりました」

 ドヤ顔をする柚子だが、葉月にはそれが強がりなんだと分かっていた。普段、弱音や愚痴を口にしない柚子がこうやって気持ちを打ち明けてきた時は、精神的に限界が近いという証なのだ。長年友として近くにいたからこそ、葉月は柚子が本当は辛いと訴えてきていることを察する。

「柚子はいい子だから、次はきっといい人と出会えるよ」

 よしよしと、幼い子供にするように頭を優しく撫でた。すると、柚子の瞳は一瞬にして涙で覆われた。

「葉月、ありがとう〜!! 今日泊まりに行きたい! こんな少しじゃ足りないもん。今日行ってもいい?」

「きょ、今日? 今日か〜、どうかな〜?」

 現在問題を抱えていなかったら快く受け入れただろう。

「今、お兄ちゃんが仕事で忙しいみたいだから……放課後にでも確認してみるね」

 そう返したものの、きっと今日中に二人の身体が元に戻るとは到底考えにくい。しかしながら、こんな柚子の姿を見てしまったら葉月としては親身に話を聞いてあげたいのが素直な感情だった。

「あ、けど私バイトじゃん」

 柚子はガクッと膝を曲げ、ショックという表情を浮かべる。

「休みたいけど、夏休みいっぱい遊ぶためにお金稼ぎたいしなー」

「なら、明日の放課後一緒に遊ぼ……久しぶりに映画でも観に行かない?」

「それ賛成! 今めっちゃ観たい映画あるんだよね! なんか一気にテンション上がってきた!」

 さっきまで元気のなさそうだった柚子にいつも通りの笑顔が戻る。

「明日ならお泊まりしても大丈夫だと思うし……次の日休みだから、思いっきり語り明かせるよ」

「葉月マジ好き〜」

 ぎゅーっとハグをしてきた柚子の髪から甘いシャンプーの香りが漂う。甘え上手で、愛嬌のある彼女を葉月は心底羨ましいと感じる瞬間がある。きっと自分も柚子のような可愛らしさが備わっていたならば、今頃は彼氏の一人もいたのかもしれない。それか、もしも自分が男として生まれてきていたら、きっと柚子と付き合いたいと懇願する男の一人になっていただろう。

 数秒の間、葉月はそんな事を考えた。

「よし! 元気出てきたから教室に戻るね!」

「うん、またね」

 手を小さく振り合いお互いの教室へと戻る。

 席に座り、やっと一息ついた葉月はぼんやりと窓へと目を向けた。

「今日でなんとか問題が解決できればいいんだけど」

 妖精アモールが起こしたアクシデンが無事に解決できれば、葉月の悩みはだいぶ軽くなる。恋がしたいのは本音だが、あの能天気なアモールに任せるのは少々不安が大きい。できれば、穏便にアモールとの契約はなしにしたいというのが今の葉月の正直な気持ちだった。

「おはようございます」

 どこかで聞いたような声が葉月の耳に入り込む。それと同時に教室にいた生徒がざわつき始め、同じ方向を見つめた。一体何事かと葉月も目線をみんなと同じ方向へ移すと、驚きの人物が目に入った。

「葉月、おはよう」

 その人物は自然な笑みを浮かべ、葉月の近くに歩み寄る。

「え……なんで」

 その人物は家に居るはずの恭太の姿をした理人だった。

 理人はそっと葉月に顔を寄せ、辺りに聞こえないよう小声で告げる。

「悪い、こいつの席ってどこ?」

「わ、私の右斜向かいの席だけど……なんでいるの?」

「それはまた昼休みにでも話すから」

 そう言って理人は何食わぬ顔で恭太の席に座った。

 ここ最近休んでいた恭太が突如教室に現れたことで周りの生徒はざわつき出す。そして、生徒の注目は恭太だけでなく、私にも向けられていた。

「藤堂さん……渡辺と仲良かったの?」

 普段話したこともない女子からそんな質問を投げ掛けられる。

「いえ、仲が良いという訳ではないんですけど」

「だって、学校に来たのも数回ぐらいでクラスの人と喋ってるの見たこともないのに、急にきたと思ったら藤堂さんに話しかけてるからビックリしちゃってさ」

 一人が私に話しかけたことで、興味を示した他の女子までが自動的に近寄ってき始めた。

「渡辺って中学の時に喧嘩しまくってかなりの問題児だったって有名だよ。今も不良と連んでるって噂だしさ……藤堂さん気を付けた方がいいよ」

「藤堂さんって大人しいし、か弱そうじゃん? それにお人好しなイメージあるから付け込もうとしてるんじゃないかな?」

「お金とか取られたりしてない? なんかあるなら助けるから、なんでも相談してよ」

 笑顔で葉月を気遣うような素振りをするも、言葉のあちらこちらに悪意を感じた。確かに恭太の見た目は高校生にしたら少し派手ではあるが、そこまで悪人のようには思えなかった。どこから湧いたか分からない、尾ひれはひれの付いた噂話を信じて、悪びれもせずに言葉の棘を飛ばす。そして、歪んだ善意で相手を油断させ、噂のネタを探ろうとする性悪さ。なんとも胸糞悪い。

 葉月は静かな怒りを感じた。ただ、それを表情には出さない。

「ご心配ありがとうございます。けど、みんなが想像するようなことは一切何もありません」

 きっぱりと言い切った葉月に、女子たちはそれ以上何も言えず、そそくさと自分の席へと戻っていった。

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