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〜私の恋は妖精の魔法と少しのドジで始まりました〜  作者: 石田あやね
第1章【少女、妖精と出会う】
10/24

10話 細やかな疑問

 早く目が覚めてしまったのと、自分の家の中があまり落ち着かない状況ということから、葉月はいつもよりも早く家を出た。黙々と通い慣れた学校への道のりを歩く。

「いや〜、清々しい天気ですね」

 頭上でアモールが呑気にそう告げた。本当に昨日のことを反省したのかと思うほど、緊張感のない笑顔で葉月の視界を何度も飛び回る。

「魔法はどうですか? 回復してるとかって実感はあるんですか?」

「心配しないでください。順調に力は回復してますよ! 明日の朝にはお二人を元の姿に戻すので任せてください!」

「なら良いですけど……というか、学校にわざわざついて来なくても良かったんですよ?」

「これからはしっかり葉月さんのことを知って、今度こそ葉月さんの理想の恋のお手伝いをしたいんです!」

 ボクのことはお気になさらずに、なんて言われたものの、葉月には不安要素しかない。

「アモール、ちょっと遠回りして行こう」

 葉月は人気の少ない裏路地へと方向転換した。

「いつも通りの道は人が多いので、時間にも余裕があることですからこっちから行きましょう。アモールには少し聞きたい事があるんです」

「なんですか?」

「昨日アモールが使った魔法について、いくつか確認したい事があるんです」

 いくら人気が少ないとはいっても全く人通りがない訳ではない。本題を口にする前に葉月は一度周囲を確認した。家と家の間の細い道。自転車と擦れ違うのもやっとなほどだ。だから、前から人が来れば直ぐに確認できる。数メートル先にも、後ろからも人が歩いてくる気配はない。葉月は気を取り直してアモールに目を向けた。

「初めに恭太くんに使った魔法はどの程度の威力なんですか? 強制的に好きにさせる訳では無いにしても、少なからず私に好意を向ける効果はあるんじゃないんですか?」

 クラスメイトではあるが学校をサボり気味で、まともに会話すらしたことのない恭太がいきなり葉月に執着するのはどう考えてもアモールの魔法の力が関係している。普通の女子ならば、こんな急展開でも恋のきっかけになるのかもしれないが、葉月はそうではなかった。

「私は絵本や漫画の中の主人公みたいな運命的な出会いをするのが夢でした。現実はそんな出会いなんてほんの一握りの人間しか経験できないことだし、王子様が実際この日本にいないのもちゃんと理解はしてるんです! でも、それに近いときめくような恋がしたいのが今の気持ちです。ただ私を好きになったのがアモールの魔法のせいなら相手に失礼な気がします。好きでもない私を好きにさせるのはどうにも納得できません」

「待って待って……葉月ちゃん」

「兄にかけた魔法は中身が入れ替わる効果だけなんですよね? まさか兄まで私に恋愛感情が芽生えるとかは心配ないんですよね?」

「落ち着いてよ、葉月ちゃん!」

 慌てて声を大きくするアモールを見て、葉月は我に返る。

「ごめんなさい……ちょっと取り乱しました」

「いいんだよ。ボクが失敗しちゃったせいなんだし……けど安心して。妖精の魔法は葉月ちゃんが思ってるほど威力は高くないんだ。そもそも見習いのボクはもっと力が弱い。だから強制的に心を変えるみたいな魔法は使えないんだよ……あくまで妖精はきっかけをつくるお手伝いをするだけなんだ」

「なら、恭太くんは?」

「昨日恭太くんに当てた矢は心に眠っている恋心を目覚めさせるためのものなんだ。ボクはその恋心を応援するために少しだけ手助けしたに過ぎない。そもそも恭太くんが葉月ちゃんに対してなんの感情も持っていなかったら、あの矢を打っても効果はないんでよ」

「それって恭太くんは初めから私に少しは恋愛感情があったってことなの?」

「そういうこと!」

 俄かに信じ難い。あまり接点もない恭太が葉月を好きになるような場面などあっただろうか。

 葉月は思わず記憶を遡り、過去を思い出す。しかしながら、恋が芽生えるようなきっかけとなる事は微塵も思い出せなかった。

「その魔法……確かなんですか?」

 そのために一瞬アモールを疑ってしまう。

「そんなこと言わないでくださいよ〜」

 情けない声で言ったアモールだったが、何か思い出したのか難しい表情に変わる。

「ただ……ボクも気になってることが一つあるんですよね」

「何?」

「恭太くんと葉月さんのお兄さんの中身が入れ替わった事です。あの矢も葉月さんになんの感情も持たなければ効果もないし、間違って矢が当たったとしても効果がないはずなんですよ。お兄さんが葉月さんに対する感情に少なからず恋的な感情が混じっていた……という事なのでしょうか?」

「いやいや有り得ないです。血の繋がった兄妹ですよ? そんな感情をお兄ちゃんが持ってる訳ないじゃないですか!」

「おかしいな〜」

「家族に対する愛情に反応しちゃったとかじゃないんですか?」

「そういう事なんですかね? なら、ボクが失敗しちゃったって事ですね……今後あの魔法を使う時は気をつけないとダメですね」

「そもそも中身を入れ替えるなんて論外です。もうあの魔法は使わないでくださいね」

 お願いしますよと念押しすると、アモールは静かに頷いた。

「とりあえず二人の身体が戻ったとしても無闇に魔法は使わないでください。使うにしても今度からは一度私に確認してからってことにしましょう」

「はい」

 アモールはしょんぼりとした顔で返事をする。

 そこで細い路地から大きな道へと出た。

「ここからはもうお喋り禁止ですよ」

「分かりました〜」

 都合が悪くなったのか、アモールは音もなくパッと姿を消す。

 朝の段階なのにひどい疲労感を感じつつも、葉月は学校へと向かった。

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