第9話 生徒会長も憂鬱
■道路脇(街の中)
姫「私……腐女子としての自分を見つめ直すために、山へ修行に行きます」
王子「腐女子って、山で修行したら見つめ直せるものなの?」
姫「山で修行して駄目だったら、海に行きます! サヨナラーッ!!」
──パタパタパタ…
と遠ざかっていく姫
王子「待って藤吉さん!! ……って、もうあんなに遠くに!!」
御曹「この辺には山も海も無いが、あの女はどこへ行く気なんだ?」
王子「藤吉さんを追いかけるのを手伝ってください!」
御曹「フン、仕方ないな」
──ガチャッ
バタン
ブロロロ…
と車に乗り込んで発車
王子「あっ、藤吉さんがいた! 車停めてください!」
御曹「…………」
──ヴゥゥンッ
と車はスピードを上げて姫を追い越してしまう
王子「ちょっと! なんで通り過ぎるんですか?!」
御曹「最初からあの女を本気で追う気なんて、無かったんだろ?」
王子「はい?」
御曹「夜景が綺麗な所までドライブに連れて行って欲しくて、車に乗ったのはわかっているぞ」
王子「会話を成立させる気が無いなら誘拐犯として通報しますよ」
御曹「冗談に決まっているだろう。チッ、仕方ないな……」
──キッ!
と車が停まる
──ガチャッ…
と王子が車のドアを開けて降りる
──たったったっ
と王子が姫の所へ走る
王子「藤吉さん!」
──ガシッ
と姫の腕をつかむ王子
姫「は、離してください! まさかこんなにすぐ捕まるなんて!」
御曹「そりゃあ、ただ走っているだけの人間を車で追いかけたら、すぐに追いつくだろうな」
王子「一回通り過ぎましたけどね……」
姫「私のことはほっといてください」
王子「だって放っておいたら、山か海に行く気なんだよね?」
姫「そうです! エベレストという過酷な環境下に身を置き、真の腐女子として出直してくるんです!」
御曹「どこに行くのかと思ったら、エベレスト」
姫「ついでに山頂でエベレストを制覇した記念に、写真を撮ってきます!」
王子「にわかに真実味が薄れてきたけど、危ないからやめなよ」
姫「でも、私は罰を受けなきゃならないんです」
姫「だって私が邪魔をしなければ、BL王子はイケメン御曹司と恋に落ちていたんですから!」
王子「落ちない落ちない」
御曹「おい、そこの女。なぜ俺が御曹司だと知っている?! さてはお前も金目当てかっ!」
姫「本屋さんで名札を見ました。名前を表記する所で、御曹司アピールしてるなんて変な人だなと思いましたけど」
王子「いや……。それアピールじゃなくて、この人のフルネームだよ……」
姫「そうなんですか? 変な名前ですね」
御曹「ふざけるな! 王子という名前の方がどう考えても変だろう!」
王子「あれ? なんで俺がdisられてるの?」
姫「はあ……。もうそんな事はどうでもいいですよ」
王子「いや良くないよ。俺は悪口言ってないのに流れ弾がきたよ」
──ちらり…
と王子を見る姫
姫「とにかく私は行きますから、追って来ないでくださいねっ」
王子(いつもあんなにテンションが高い藤吉さんが、本気で落ち込んでる……)
──チラチラッ
と王子を何度も見る姫
姫「サヨナラBL王子っっ」
御曹(さっきから引き留めて欲しそうにこちらをチラチラと見ているが、本当に行く気はあるのだろうか)
王子(もう奥の手を使うしか無いのか?!)
王子「待って藤吉さん!」
姫「なんですか?! 私の事はもう構わないでくださっ……!」
王子「協力してください、御曹さん!」
──ぎゅっ
と御曹に抱きつく王子
御曹「……どうした?」
王子「じ、じっとしていてくださいね!」
──チュッ!
と御曹の頬にキスする王子
御曹「…………」
姫「ほ、ほっぺにチュウ?! しかもBL王子から!!」
王子(ううう……。藤吉さんを引き留めるには、これしか方法が無かった……)
御曹「やめろ、不愉快だ」
王子「はい?」
御曹「俺はノリノリで迫られると引くタイプなんだ」
王子「面倒くさい人ですね! 少しは藤吉さんを励ますのに協力してくださいよ!!」
御曹「協力? こうすればいいのか?」
──ぐいっ
と王子をお姫様抱っこする御曹
王子「うわっ! な、何???」
御曹「お前を抱いたまま車へ運ぶ。女子はこうすると喜ぶらしいからな」
王子「やめてください! 俺は女子じゃないし!!」
御曹「おい、暴れるな。落ちたら危ないだろ」
姫「イケメン御曹司がBL王子をお姫様だっこ?! 確かに(腐)女子は喜びますね!」
御曹「ほら、喜んでいるじゃないか」
王子「確かに女子が喜んでるのには変わりませんけど……」
──スタスタ
と御曹が王子を抱えたまま車まで行き
──ドサァッ
予め開けていた後部座席のドアからバックシートに王子を下ろす
王子「は……? どうしてバックシートに下ろすんですか?」
御曹「決まってるだろ。こっちの方がやりやすいからだ」
王子「やりやすいって何をだぁー!! 早く上からどけてください!」
御曹「これから何をするのか、じっくり教えてやろうか?」
王子「いいです。教えて欲しくないですし、考えたくもないです」
──シクシク
と両手で顔を覆って泣く王子
王子「さっきまで引いてたくせに、なんで急に乗り気になってるんだこの人……」
御曹「協力しろと言ったのはお前だろう」
王子「そう言いましたけど、ここまでは求めてません!」
御曹「やめてもいいのか? こうでもしないとあの女は元気にならないぞ」
王子「えっ……」
──チラッ
と姫の方を見る王子
王子(藤吉さん、まだ落ち込んでるのかな?)
──笑顔で王子と御曹を見守る姫
姫「じぃ~っ……」
王子「メチャメチャ笑顔だし、とっくの間に回復してるように見えるんですけど」
姫(ハッ!!)
──ぼそ
と小声で呟く姫
姫「こんなんじゃ全然ダメ……。もっとイチャイチャしてくれなきゃ、自信が取り戻せない……」
王子「イチャイチャって……!」
御曹「こっちに集中しろよ」
──ゴソゴソ
と王子の服のボタンを外す御曹
王子「ちょっ、手際よく脱がさないでください!」
御曹「嫌がっている振りはもうやめろ。本当は見られながらするのが好きなんだろう?」
──バタバタ
と御曹に抵抗する王子
王子「誤解です! うわっ、変なトコ触るな!」
御曹「暴れるな! やりづらいからおとなしくしていろ!」
王子「誰がおとなしくするかっ!」
御曹「さては強引に組み敷かれたくて、わざと抵抗しているな? 相当なドMだな」
王子「この人の脳内変換力は、ある意味では藤吉さんを上回るかもしれない」
姫「あっ! ちょっと! もうちょっとだけ待ってください生徒会長さん!!」
王子「会長……?」
会長「もう我慢ならん! 降りるんだ、美家 王子!」
──ぐいっ
と王子を引っ張って車から降ろす会長
王子「わわっ?!」
御曹「チッ! また邪魔が入ったか」
■道路脇(街の中)
会長「美家 王子。どうしてこんな事になったのか、説明してもらおうか?」
王子「どうしてって……。どこから見てたんですか?」
会長「キミからその男に抱きついて、頬に唇を寄せたところからだ! もっと自分を大事にしろ!」
王子「いや、これには事情があって……」
会長「キミが誠実であるのならば、好きでもない相手を誘惑してもいい事情など無いはずだ」
王子「う゛っ!」
御曹「残念だったなクソ眼鏡。美家は俺のことが好きで、夜も眠れないんだってさ」
王子「どこから出てきたんだその話は」
御曹「そんなわかりやすい照れ隠しをしなくてもいい」
王子「してないっての」
会長「ほう……。そのいけ好かない男と、ずいぶん仲がいいようだな」
王子「はい? どこがですか?」
姫「すみません、生徒会長さん。BL王子が総受けなせいで、こんな八方美人な子に育ってしまって……」
王子「なんで藤吉さんが謝ってるの? っていうか、どういう謝り方なのそれは?」
御曹「総受けだの八方美人だの知らないが、その男はキミを駄目にする。離れた方がいい」
王子「でも、せっかく家から近くていいバイトを見つけたのに……」
会長「バイト? まさかこのいけ好かない男と、援助交際をしているのか?!」
御曹「結果的にはそうなるな」
王子「なりません」
会長「美家 王子……。あまり俺を悩ませないでくれ」
王子「変な方向に解釈して勝手に悩んでるだけでは……」
会長「キミが自分を大事にできないというのなら、俺が一生キミを大切にする。……いいな?」
──ギュッ
と王子を強く抱きしめる会長
王子「ちょ、抱きしめなくていいですからっ!」
会長「キミが俺の問いに答えるまで、離すことは出来ない」
姫「真実の愛に目覚める流れですか? 出ちゃう! 鼻血が出ちゃう!」
王子(なんでこんな事になっちゃったんだ???)
御曹「何だこのクソ眼鏡。突然現れて人の恋路を邪魔した上に、俺の物にベタベタと触りやがって」
──ドン!!
と御曹が会長を突き飛ばす
──ドサ…
とその場に倒れる会長
会長「クッ! いきなり何を!!」
王子「御曹さん!? どうして突き飛ばしたりするんですか!」
御曹「決まっているだろう。今からそいつを車でひくからだ」
王子「…………」
──言っている意味がわからずキョトンとする王子
王子「はあああ?!」
──バンッ
と御曹が車のドアを開けて乗り込む
会長「何ッッ?! まさか本気なのか!?」
姫「ああ……。痴情のもつれから、ついに舞台はサスペンスへ……」
王子「何考えてんだーっ! 会長! 逃げてください!!」
──ヴゥゥンッ
と会長に向かって走り出す車
会長「逃げる必要は……無いっっっ!」
──ダンッ
と車のボンネットの上に飛び乗る会長
王子「……は?」
姫「す、すごい。迫りくる車へ華麗に飛び乗った?!」
王子
──キッ!
と急停止する車
──ガチャッ
と車のドアが開き御曹が降りてくる
御曹「おいクソ眼鏡! ボンネットがへこんだらどうしてくれる!」
会長「ガタガタ騒ぐな。見ろ、へこんではいない」
御曹「今すぐ降りろ! 人の愛車に靴の跡を付けるな!」
会長「やかましい。降りたらまた車で突進してくるだろうが」
御曹「お前が降りないというなら、アクセル全開で振り落とすまでだ」
王子「や、やめましょうよ。会長さんが死んじゃうし、御曹さんも刑務所送りになって誰も得しませんよ?」
御曹「フン……。美家がそう言うなら仕方がない。では、フェアに生身で勝負といこうか」
会長「その挑戦、受けてたとう。俺の持ちうるスキルをすべて駆使して貴様を再起不能にしてやる」
御曹「ここじゃ場所が悪いな。あそこで勝負だ」
──スタスタ
と歩いて行ってしまう御曹と会長
──シン…
とその場に取り残される王子と姫
王子「何か、前にもこういう事があったような……」
姫「そうですか?」
王子「まあいいや。帰ろうか、藤吉さん」
姫「はいっ♪」
──つづく
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