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第6話 モデルの一目惚れ

  ──第5話のラストで話しかけてきたモデル風の、謎の男


謎の男「ねえねえ、キミ。こんな時間に一人で何してんの?」


王子「えっ……?」


謎の男「俺、終電逃がしたんだ。もしかしてキミもそう?」


王子「いえ……。うちはここから歩いて帰れる距離です」


謎の男「帰んないの?」


王子「今、家出中なんで」


謎の男「ふうん。じゃ、一緒にカラオケ行こうよ!」


王子「カラオケ? ……なんで?」


謎の男「だってどうせ泊まるとこ決まってないんでしょ?」


王子「まあ、そうですけど……」


謎の男「じゃ、決まり! そこの店でいいよね?」


王子「うわっ、ちょっ! 引っ張らないでくださいよ!」


王子(強引な人だなあ……)


■カラオケ個室内


謎の男「何頼む?」


王子「俺、お金持ってないので水だけでいいです」


謎の男「なーに言ってんだよ! 全部俺のおごりに決まってんじゃん! 好きな物頼んでいいよ?」


王子「えっ、でも……。学生におごらせるなんて気が引けるなぁ」


謎の男「えっ! 俺のこと知らないの?!」


王子「ただの通りすがりの、親切な大学生じゃないんですか?」


謎の男「俺、一応モデルなんだけど。売れてる方だと思ってたのにショックだなあ……」


王子「あっ! いや! 俺、ファッション誌とか読まない人間なんで!」


謎の男「ははっ。気ぃつかわなくてもいいって」


王子「いやいや本当なんです!」


王子「それにさっき見たとき、脚が長くてカッコイイなあって思いました! モデルって聞いて納得です!」


謎の男「そう? キミっていい子だね」


  ──なでなで

  と謎の男が王子の頭を撫でる


王子(頭を撫でられてしまった……)


装一「俺の名前は衣 装一(ころも そういち)。キミは?」


王子「美家……お、王子……です」


装一「…………」


  ──笑顔のまま固まる装一


装一「キラキラネーム?」


王子「やめてください! 確かにうちの親は名付けのセンスが壊滅的ですけど!」


装一「そう? 面白くていいじゃん」


王子(名前を面白がられても嬉しくないよ……)


装一「他にも面白い名前の人いないの? 兄弟とかさ」


王子「兄が一人います。名前は騎士と書いて、ナイトと読みます」


装一「やっぱキラキラネームじゃん! すっげー!」


王子「ううっ、やめてください……」


装一「あ、ごめん。泣かせちゃった?」


王子「泣いてないです……。うううっ……」


装一「やっぱ泣いてんじゃん。ごめんな? よしよし……」


王子「だ、抱きしめないでください。背中も撫でなくていいですから」


装一「だって泣かせちゃったし」


王子「違いますよ……。あなたのせいじゃないです」


装一「じゃあなんで泣いてんの?」


王子「兄ちゃんのこと思い出したら、悲しくなってきて……」


装一「そっか……。悲しいこと思い出させてゴメン」


装一「お兄ちゃんはきっと、天国から王子を見守ってくれてるよ」


王子「兄ちゃん死んでないし、さりげなく俺を呼び捨てにしましたね?」


装一「俺のことも装一って呼んでいいよ?」


王子「は、はあ……」


装一「んで、兄ちゃんとなんかあったの?」


王子「それがですね……。家出の原因でもあるんですけど……」


王子「兄ちゃんから、好きだって言われたんです」


装一「仲いいんだね」


王子「そういう事じゃなくて! 兄ちゃんにキスされて! 押し倒されて! 愛の告白をされたんです!」


装一「わーお!」


王子「大好きだった兄ちゃんにそんな事されたら、泣きたくもなりますよ……」


装一「最後までしちゃったの?」


王子「してません! するわけないでしょ!」


装一「じゃあ良かったじゃん?」


王子「思いっきり他人事だ……」


装一「いやマジでマジで。兄ちゃんの腕力が強かったら、どうなってたかわかんないし」


王子「それが、兄ちゃん結構力が強くて……。友達が乱入するまで逃げられなかったんです」


装一「うーん、それはヤバイな……。じゃ、もう襲われないように王子も鍛えるしかないね」


王子「鍛えるって言っても、どうすれば……」


装一「ジムに通えばいいじゃん。俺なんか見てよ。ジムですっげー鍛えてるから腹筋割れてるぜ?」


  ──装一が服を巻くって腹筋を見せる


王子「あ、本当だ。細身なのに、すごい腹筋……」


装一「触ってみる?」


王子「は、はい」


  ──なでなで

  と王子が装一の腹筋を触る


王子「わあ、すごいなぁ。俺もこれだけ鍛えられたら……」


  ──さわさわ

  と感心しながら腹筋を触り続ける王子


装一「……あんまり触んないでくれる?」


王子「あっ、すみません。やっぱり男に触られるの気持ち悪いですよね」


装一「いや……。そんな触り方されたら、さすがに変な気持ちになるっていうか……」


王子「は?」


  ──チュッ

  と不意に装一が王子の唇を奪う


王子「んっ!」


  ──バッ!

  と真っ赤になって装一から離れる王子


王子「なっ?! なんでキスするんですかっ!」


装一「ムラムラしちゃったから」


王子「ああ、それなら仕方ない……」


王子「って、んなわけあるかっっ! 俺っ! もうっ、ここ出ます!」


  ──ぐいっ

  と装一が王子の腕を引っ張る


装一「ちょっと待てよ」


  ──ドサァッ

  と王子をソファに押し倒す装一


王子「へっ……?」


王子「な、なんで、押し倒すんですか?」


装一「実は王子に一目惚れしたんだ。こんなの初めてだよ」


王子「はい?」


装一「話してたらもっと好きになっちゃった。だからいいだろ?」


  ──王子が全力で装一を押しのけようとする


王子「いいわけないでしょうが! クッ……! ぐうううっっ……!」


  ──ハァハァ

  と息切れする王子


王子「だ、駄目だ。ビクともしない……」


装一「ははっ。鍛え方が違うから」


王子「それって俺が非力って事ですか? 男として屈辱だ……」


装一「本当の屈辱を味わうのはこれからだろ?」


王子「ぎゃあああっ! おまわりさあーん!!」


  ──バンッ

  と個室のドアが開く


兄「弟から離れろ!」


王子「に、兄ちゃん?」


装一「おまわりさんじゃなくて、いい匂いがしそうなイケメンが来た」


姫「BL王子?! どうしてこんな素敵な事になってるのか説明してください!」


王子「話をややこしくする人も一緒に来た」


  ──ぐいっ

  と兄が、王子の腕を引っ張り抱き寄せる


兄「うちの弟に何してるんだ?」


王子(兄ちゃん……。俺を守るように引き寄せてくれた……)


装一「あんたが王子の兄貴?」


兄「そうだ。俺の弟に手を出したら、ただじゃすまないぞ」


装一「ヒーロー気取ってるところに悪いけど、あんたがやった事も大して変わんないじゃん」


兄「……俺がやったこと?」


装一「弟にキスして押し倒したんだろ?」


兄「王子?! そんなことまで喋ったのか?」


王子「い、いやまあ。人生相談というか、話の流れでというか……」


姫「あの……」


王子「なに? 藤吉さん」


姫「この光景を、スマホで動画に撮ってもいいですか?」


王子「っていうか、もう撮ってるし。今すぐやめてね藤吉さん?」


姫「そんなっ!! イケメン美術教師と人気メンズモデルが、男子高校生(総受け)を奪い合う痴情のもつれ動画としてYou tubeにアップしようと思ってたのに!」


王子「本気でやめてね藤吉さん?」


装一「ところであんたら、なんでここに王子がいるってわかったの?」


兄「弟は子供の頃から、一人で出歩くと見知らぬ男によく声をかけられていたんだ」


姫「それで、夜を明かすならネットカフェかカラオケをおごってもらってるかも……と、推理したんです」


兄「カラオケボックスをしらみ潰しに探して王子の写真を見せていたら、ここの受付の人が『ソックリな男の子を見た』って……」


姫「だから裏側に乗り込んで、監視カメラのモニターでBL王子が居る個室を見つけたんです!」


装一「こいつらすごくない? エスパー?」


王子「俺もちょっとビックリしてるっていうか、すごすぎて若干引いてます」


兄「そんな事はいいから、帰るぞ王子」


王子「いっ……」


  ──王子が、何かを溜め込むように目を閉じ、そして叫ぶと同時に目を開く


王子「いやだっ!!」


装一「おっ?」


兄「どうしてだ?」


王子「兄ちゃんが居る家になんか帰りたくない!」


兄「王子……」


姫「騎士先生はBL王子を助けてくれたのに、そんな言い方ひどいですよ」


王子「俺が襲われるのを見て喜んでた人に『ひどい』なんて言われる筋合いは無いよ」


姫「確かに! 正論ですね!」


装一「何だこの子たちの会話は?」


兄「王子、ごめん。謝るよ」


王子「何が悪いかわかってるの?」


兄「王子の話を都合よく解釈したあげくに、兄弟の一線を越えようとした事を深く反省しているよ」


王子「そ、そこまで詳細に亘ってわかってるならいいけど……」


兄「この通り反省したから、家に帰って来てくれないか?」


王子「…………」


装一「行くな行くな。こんな変態兄貴の所に戻ったら、何されるかわかんないぞ」


王子「でも、行く所無いし……」


装一「うちにくればいいじゃん。ちょうど同棲してた彼女が出てったところなんだ」


兄「そっちの方が危険だろ!」


装一「なんで? 兄貴に襲われるくらいなら、俺と恋人になった方がいいじゃん」


王子(どっちも同じだ)


兄「黙れ! 王子を守るのは俺だ! 昔からそうしてきたんだ!」


  ──ぎゅっ

  と王子を強く抱きしめる兄


王子「に、兄ちゃん……。苦しい……」


兄「王子が夜中にトイレへ行きたくなって、『怖いよぅ、兄ちゃん。ついて来てよぅ』と叩き起こされても……」


兄「俺は一度も怒らずに、トイレへ連れて行ってあげていたんだ!」


姫「まあ。それは可愛らしいエピソードですね」


王子「兄ちゃん……。余計なこと言わないでよ」


装一「しょうがねえなあ。わかったよ……」


姫「えっ、諦めるんですか?」


装一「そいつは俺にとって将来のお義兄(にい)さんな訳だし? 今日は王子を譲るよ」


兄「誰がお義兄さんだ」


王子「もういいよ、兄ちゃん」


兄「いいって……帰る気になったのか?」


王子「ああいうこと二度としないって約束してくれるなら、帰ってもいいよ」


兄「ああ、約束する。次からはちゃんと王子の合意を得てから、行動に移すよ」


王子「何か根本的な部分が違う気がするけど……。いいよ、一緒に帰ろう」


兄「王子! 良かった!!」


王子「だから抱きしめようとするなってば!」


姫「もう一修羅場あっても良かったんですけど、とりあえず丸く収まって安心しました」


兄「藤吉さん。こんな時間まで付き合わせてごめんね。家まで送るよ」


姫「はい、ありがとうございます」


  ──こそ…

  と王子に耳打ちする装一


装一「王子、王子!」


王子「なんですか?」


  ──装一が王子に紙切れを渡す


装一「これ、俺の連絡先。また家出したくなったら電話かメールちょうだい」


王子「襲おうとした相手に、よく連絡先を渡せますね」


装一「いらないの? 合コンやるときに呼ぼうと思ってたのになあ」


王子(合コン?!)


王子「……その連絡先のメモ、一応もらっておきます」


装一「ははっ。王子ってわかりやすいなあ」


王子「うっ……」


兄「何やってんだ王子? 帰るよ」


王子「う、うん!」



■王子の部屋(夜)


  ──ベッドに横になって、装一から貰ったメモとスマホを眺める王子


王子(装一さんはモデルだから、合コンに来る女の子たちもモデルなのかな……)


王子(……なんて考えながら、装一さんにメールしちゃう俺って本当にバカだよなぁ)


  ──つづく

【イラスト付きのものが下記のサイトで読めます】

★kakuzoo

https://storie.jp/creator/story/10397

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