第5話 兄の愛は盲目
■王子の部屋の前(昼)
──コンコン…
と王子の部屋のドアをノックする兄
兄「王子、入るよ」
──ガチャッ
とドアを開けて王子の部屋に入る
兄「この間、貸したCDを返し……」
──シン…
王子の部屋には誰もいない
兄「あれ? さっきまでいたのに、いつの間に出かけたんだろ」
兄「仕方ない、勝手に持って行くか。えーと、どこだろ……?」
──ゴソゴソ
と兄が棚を探していると、漫画の単行本を手に取る
兄「ん? この本は……」
──パラ…
と漫画を開いて驚く兄
兄「こ、これは!」
■駅の前(昼)
王子「はい、藤吉さんに借りたBL漫画とBLのCD。これで全部だね」
姫「とうとう感想を聞かせてくれませんでしたね……。ちゃんと読んでくれました?」
王子「だから読んでないし、CDも聴いてないって」
姫「ええーっ! せっかくBL王子にも、ボーイズラブの造詣を深めてもらおうと思ったのに!」
王子「藤吉さんは俺に腐男子になって欲しいの?」
姫「っていうよりも、とりあえずBLに対する抵抗を無くしてもらおうと思って」
王子「あっそ……」
姫「今度はオススメのBL小説を持ってきますね」
王子「だから読まないって!」
姫「あれ? 一冊足りないかも……」
王子「えっ、本当? 部屋に忘れてきちゃったのかも。足りないのってどの本?」
姫「兄×弟モノです。兄弟愛を超越した究極の愛がテーマの、禁断のラブストーリーです」
王子「内容は説明しなくていいよ……。その漫画のタイトルは?」
姫「『弟のお前を愛しているからメチャクチャにしたいんだ…。兄ちゃんやめてよ! 兄弟でこんなのおかしいよ』──と、いうタイトルです」
王子(タイトル聞かなきゃ良かった)
コウ「おーい、王子ー!」
王子「あ、コウ。奇遇だな」
コウ「ゲームの発売日だから、そこの店で買って来たんだ。あ、藤吉もいるじゃん」
姫「こんにちは。学校以外でお会いするのは初めてですね」
コウ「そういや、そうだな。王子と藤吉は、こんなとこで何やってんの?」
コウ「ハッ!! ま、まさか……。デートじゃねえだろうな?」
王子「はは、違うよ。藤吉さんに漫画とCDを返すの忘れたから、メールで呼び出したんだ(←一刻も早く返したかったので)」
コウ「なあーんだ、それなら良かった」
姫「ふふふっ。責田くんは本当にBL王子が大好きなんですね」
王子(あっ、余計な事を)
コウ「大好きっつうか……。惚れてるのは確かだけど、あんまりそれ言うとコイツが嫌がるし」
姫「意外と控え目なんですね」
王子「驚いた……」
コウ「何が?」
王子「一応、コウなりに気を遣ってくれてたんだな」
コウ「そりゃまあな。今まで友達だった奴を、急に恋人として見ろって言われても無理だろ?」
コウ「だから少しずつ慣らして行こうと思ってな!」
王子「少しずつでも慣れることは永遠に無いからな?」
姫「さすが責田くん! 親友キャラの鑑です! 実はうちの学園の理事長だった、という設定があれば完璧ですね!」
王子「うちは学園じゃなくて普通の高校だろ。理事長もいないし」
コウ「それよりか王子の家に行こうぜ。さっき買ったゲームやらないか?」
王子「ああ、いいよ。藤吉さんも来る? 残りの一冊も返したいし」
姫「えっ、私もいいんですか? 二人のお邪魔にならないかな……」
コウ「大丈夫、大丈夫! 人が多い方が楽しいから!」
姫「ありがとうございます。じゃあ、ご一緒しますね」
■王子の家の玄関
王子「ただいまー」
コウ「お邪魔しまーす」
姫「失礼します」
兄「遅かったね、王子……」
王子「え? 別に遅くないよ。まだ昼間でしょ?」
兄「俺はずっとお前が帰って来るのを、待ってたんだ」
姫「どうして美術の美家 騎士先生が、ここにいらっしゃるんですか?」
コウ「騎士先生は王子のお兄さんなんだぜ。知らなかったのか?」
姫「し、知りませんでした! たしかに王子を守るのは騎士の役目ですよね! 美形兄弟CP最高です!」
王子「……シーピーって何?」
姫「CPはカップリングの略です! つまり受けと攻めの組み合わせのことですね」
王子「聞くんじゃなかった」
コウ「こういう回答がくるってわかりきってるのに、お前も何で質問するんだよ」
兄「ふ、藤吉さん? なんかいつもとキャラが違うね」
王子「ああ、この子は学校じゃ猫被ってるから」
兄「そ、そう……。ところで王子、大事な話があるんだけど」
王子「話? コウたちが帰ってからでもいい?」
兄「出来れば今がいい。悪いけどキミたち、今日は帰ってくれないかな?」
コウ「えーっ! そりゃ無いっすよ。せっかく遊ぼうと思ってたのに」
兄「頼むよ、兄弟の一大事なんだ……」
王子「い、一大事って! 何があったの兄ちゃん?」
兄「それは二人きりじゃないと話せないよ」
姫「私たちは一階で待ってますので、二階でお話をされるのはいかがでしょうか?」
兄「そうだね、帰ってもらうのも悪い気がしてきたし……。じゃあリビングで待っててよ」
コウ「よかった~。藤吉、リビングのテレビでゲームやろうぜ!」
姫「はーい♪」
兄「じゃあ部屋に行こうか、王子」
王子「う、うん」
■王子の家のリビング
──姫とコウが、テレビで対戦格闘ゲームを遊んでいる
コウ「えいっ! クソッ!」
姫「ふふ、また私の勝ちですね」
コウ「チクショー……。お前って見かけによらず、格ゲー強えな。特訓でもしてんのか?」
姫「弟と言い争いになるたびに、格闘ゲームで決着をつけてきたんです。そうしたらいつの間にか強くなっちゃって……」
コウ「なるほどなあ。負けられない闘いってやつか」
姫「はい! ケンカの内容のほとんどは、カップリング論争でしたから」
コウ「弟とカップリング論争……?」
姫「ところでBL王子たち、遅いですね」
コウ「深刻な話みたいだったから、まだ時間かかるんじゃねえのか?」
姫「どんなお話をしてるか気になりますね……」
コウ「おいおい。まさか家族間の話に、首を突っ込む気じゃねえだろうな?」
──ドターン!
と天井から大きな音がする
姫「2階から大きな物音が! まさか取っ組み合いのケンカをしてるんでしょうか?」
コウ「あの二人に限ってそれはないだろ」
──ドタンバタン
と再び天井から大きな物音
コウ「は、激しい……。さすがに心配になってきたな」
姫「是非見に行きましょう! 素敵な展開が待ち受けてるかもしれません!!」
コウ「素敵な展開?」
■王子の部屋
兄「そこの本棚に、こんな物が有ったんだけど」
──バサッ
と兄が、先ほど手に取った漫画を王子の前に置く
王子「ああ、それ? 藤吉さんから借りた漫画だよ。返すの忘れててさ」
王子(うっ、確かに表紙に『弟のお前を愛しているからメチャクチャにしたいんだ…。兄ちゃんやめてよ! 兄弟でこんなのおかしいよ』って書いてある……)
王子(一冊ずつ見てなかったから気づかなかったけど、すごいタイトルだな……)
兄「どうしてこんな物を藤吉さんから借りたんだい?」
王子「どうして、と聞かれても……。なんて説明すればわかってもらえるんだろう」
兄「……王子の気持ちはわかった。皆まで言わなくていいよ」
王子「はい? 俺は何をわかられたの?」
兄「今まで気づいてやれなくてごめん。本当は兄ちゃんに、この漫画みたいな事して欲しかったんだよな?」
王子「そんなわけあるか!!」
兄「だったらどうしてこんな漫画を読んだんだ?」
王子「だからさっきも言ったけど、それは藤吉さんに借りたというか、押し付けられたんだよ! 中身は読んでない!」
兄「なるほどね」
王子「わかってくれた?」
兄「わかったよ。藤吉さんを理由にして、照れ隠しをしてるんだろ?」
王子「何もわかってない!」
兄「まあまあ、落ち着いて」
──サラ…
と兄が指先で、王子の髪をすくう顔を赤くして照れてしまう王子
王子「……ちょっと兄ちゃん。髪をそんな触り方するのやめてくれない?」
兄「ごめん。恥ずかしがってるのが可愛くて」
王子「恥ずかしがってるんじゃなくて、俺は怒ってるんだよ!! ……って、なんで顔を近づけてくるの?」
──兄が王子にキスする
兄「チュッ……」
王子「んっ!?」
──王子が驚いて逃げようとするが、兄にしっかりと頭を押さえられる
王子「んーっ! んーっ!」
兄「クチュ……」
王子(なんか生温かい物が入ってき、た……)
王子「んっ……んちゅ……」
兄「っん、んむっ……」
王子(これ兄ちゃんの舌じゃん!)
──ドン!!
と兄を突き飛ばす王子
王子「兄ちゃん、やめて!」
兄「どうしたんだ?」
王子「どうしたもこうしたも無い! 兄弟でこんなのおかしいよ!」
兄「ははっ。さっきの本のタイトルそのまんまだね。そこまで再現したいのかい?」
王子「ち、違っ……!」
──ドターン!
と兄が王子を床に押し倒して、両手を組み敷く
王子「いたっ!」
兄「わかったよ。ちょっと荒っぽくなるけど我慢してくれ」
王子「なんで俺を押し倒すんだよ!」
兄「だってさっきの漫画ではそうしていただろ?」
王子「そんなの知らない! 離してよ!!」
兄「こらっ、暴れるなって! 困った奴だな!」
──ドタンバタン
と兄から逃れようとしてもがく王子
王子(兄ちゃん……! 意外に腕力が強くて振り払えない!!)
兄「せっかく王子の望み通りにしてるのに、何が気に入らないんだ?」
王子「兄ちゃんは誤解してる! 俺は兄ちゃんのことそういう目で見てないから!」
兄「そういう目で……見てない……?」
王子「な、なんだよ。なんでそんな悲しそうな顔になるの?」
兄「俺は王子のこと、ずっと“そういう目”で見てたよ?」
王子「……それはつまり?」
兄「俺は王子が好きだ。今までは弟としか思っていなかったけど、やっと自分の本当の気持ちに気づいたんだ」
王子「俺も兄ちゃんが好きだけど……」
──ぎゅっ
と兄が笑顔で王子を抱きしめる
兄「本当か……? 嬉しいよ! 俺たち両思いだったんだな!」
王子「最後まで話を聞いてよ! あくまで兄弟として好きって意味! だから抱きしめるなっ!!」
──ガチャッ
とドアを開け、王子と兄を見て驚くコウ
コウ「王子……」
王子「コ、コウ!」
コウ「お前ら、そういう関係だったのかよ……」
王子「これは違う! ふざけてたら二人とも転んじゃったんだよ!」
兄「いいじゃないか。この際、責田くんにも俺たちのことを知ってもらおう」
王子「とっくの間に知ってるよ! 俺と兄ちゃんがただの兄弟ってことは!」
兄「あ、ゴメン。俺たちの関係は、人前では内緒にしておくんだね」
王子「なんで、ただの兄弟ってのを内緒にする必要があるのさ!」
コウ「見損なったぜ王子……。俺というものがありながら!」
王子「紛らわしい言い方するな! お前は、ただの友達だろうが!」
──ガーン
とショックを受けるコウ
コウ「ただの友達……」
王子「藤吉さん! そこに居るんだろ? 出て来てよ!」
──物陰から姫が出てくる
姫「チッ……。もう少し修羅場を堪能したかったのに……」
王子「何が堪能だよ。藤吉さんに借りた漫画のせいで、とんでもない事になったじゃないか」
姫「普通は漫画を貸したくらいで、こんな事になりませんよ。BL王子の成せる業ですね」
王子「うっ……反論できない」
兄「責田くん、藤吉さん。俺たちが恋人同士ってこと、学校のみんなには秘密だよ?」
姫「教師と生徒の秘密の恋愛、そして禁断の兄妹愛ですね! 属性がダブルで素敵です! 秘密を守るご褒美として定期報告をよろしくお願いします!」
兄「ああ、わかったよ」
コウ「何がダブル属性だーっ! 俺はそんなの認めねえぞ! なあ、嘘なんだろ? 嘘だと言ってくれよ王子!」
王子「嘘だよ」
コウ「アッサリ認めると逆に信用できねーぞ!」
王子「じゃあどうすればいいんだよ……」
コウ「王子なんか信じられるか! もうお前とは絶交だー!!」
──ダッ
と走って部屋を出て行くコウ
姫「あ、責田くん!」
王子「勝手に誤解して帰ってしまった……。疲れる……」
姫「じゃあ、私もそろそろ帰りますね。どうぞ二人の時間をごゆっくりお過ごしください」
兄「ありがとう藤吉さん。これからのこと、王子とじっくり話し合うよ」
王子「いい加減にしろーっ!」
兄「急に怒鳴ってどうした?」
王子「なんで兄ちゃんは俺の話を聞かないんだよ!」
兄「話なら聞いてるじゃないか」
王子「聞いてないよ! 何言っても自分の都合のいい方向に持って行くし! 兄ちゃんなんか大っ嫌いだー!」
──ダッ
と走り出す王子
姫「BL王子! どこに行くんですか!?」
王子「家出だよ! 兄ちゃんがいる家になんか居られるか!」
兄「王子、待て!」
──ダダダッ
とその場から王子が消えてしまう
兄「王子っっ!!」
■夜の繁華街
王子(兄ちゃんなんか嫌いだ……。絶対に家には帰らないからな!)
王子(でも……。勢いで飛び出しちゃったから、財布もスマホも持って来てないんだよなあ……)
王子(取りに戻ったら親か兄ちゃんに見つかりそうだし。困ったなあ……。これからどうすればいいんだ?)
──悩む王子に、モデル風の男が笑顔で話しかけてくる
謎の男「ねえねえ、キミ。こんな時間に一人で何してんの?」
王子「えっ……?」
──つづく
【イラスト付きのものが下記のサイトで読めます】
★kakuzoo
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