第4話 最強のボクっ子
■学校の廊下
王子(藤吉さんに無理やり渡されたBL漫画とBLのCDを、今日こそ返すぞ)
王子(いつも返そうとしても『感想を聞くまで受け取りません!』とか言って拒否されるからなあ……)
コウ「なんだよ、その本とCDの山は」
王子「あ、コウ。藤吉さん見なかった?」
コウ「藤吉だったら校舎裏に居たぜ」
王子「そっか、サンキュ」
コウ「男子と一緒だったけどな……って、聞かないで行っちまった」
■校舎裏
姫「…………」
王子(あっ、居た)
王子「藤吉さぁー……」
男子生徒「藤吉さん。こんな所まで連れて来てごめんね」
姫「はい……。あの、何の御用でしょうか?」
──王子が物陰に身を隠す
王子(声かけたらまずそうな雰囲気だな)
男子生徒「ずっと藤吉さんのことが好きだったんだ! 俺と付き合ってください!!」
王子(告白?! やばい、これって聞いたらダメなやつかも)
王子(早くこの場から立ち去らないと)
姫「付き合う……? 私と?」
王子(藤吉さん……。なんて返事するんだろう)
男子生徒「そうだよ! 藤吉さんは物静かで女の子らしくて、窓辺で読書をしている姿が俺の理想そのものなんだ!」
王子(いつも読んでる本は、確かBL小説にカバーをかけた物のはず……)
王子(それに物静かなのは、常にBL妄想に浸ってるからだって前に言ってたぞ)
姫「……ごめんなさい」
男子生徒「えっ?」
姫「好きな男の子がいるので、あなたとはお付き合いできません」
王子(藤吉さんって好きな人がいたのか……)
男子生徒「そうだよね。藤吉さんくらい可愛い子に、彼氏がいないわけないと思ってた」
姫「いえ、そうじゃないんです。正確には男の子に愛される男の子が好きなんです!」
男子生徒「はっ?」
王子(はっ?)
姫「好きって言っても私の彼氏にしたいんじゃなくて、その男の子に彼氏ができたらいいなって思ってるんです」
男子生徒「な、なんか複雑な話だね」
王子(その複雑怪奇な話を、うっすら理解してしまっている自分が嫌だ)
姫「その男の子のことを、私はBL王子と呼んでいるんですけど」
王子(やっぱり俺のことだった)
姫「とにかく、お付き合いはできないんです。本当にごめんなさい」
男子生徒「そっか……。うん、わかったよ……」
──トボトボ…
とその場を後にする男子生徒
王子(ガッカリして帰ってしまった……。あんなにしょげ返って、ちょっと可哀想だな)
──物陰から王子の半身がはみ出ている
姫「あれ? BL王子、どうしてこんな所に?」
──ギクッ
として物陰から出てくる王子
王子「や、やあ藤吉さん! 本とCDを返そうと思って、藤吉さんを探してたんだ」
姫「もしかしてさっきの話、聞いちゃいました?」
王子「……うん。立ち聞きしてごめん」
姫「別にいいんですよ。気にしないでください」
王子「さっきみたいに告白されることって、よくあるの?」
姫「たまにしか無いですよ。3ヵ月に1回、有るか無いかですね」
王子「それってかなり多いと思うんだけど……。藤吉さんってモテるんだね」
姫「そうですか? BL王子に比べたら全然ですよ」
王子「は、はははは……」
姫「私としては、早く誰かと結ばれて欲しいんですけどね」
王子「そ、そういう藤吉さんこそ彼氏は作らないの?」
姫「私にはBL王子がいるからいいんです」
──ドキッ
と顔が赤くなる王子
王子「えっ……!」
姫「彼氏なんか作ったら、BL王子のリアルBLを鑑賞するのに、邪魔になるじゃないですか」
王子「あ、そう。そういうこと」
■学校の玄関
王子(知らなかったなあ。藤吉さんって結構モテるんだ。でも、あれだけ可愛いかったら当然かあ。黙ってれば清楚な美少女だもんな)
王子(それにしても告白、か……。俺はした事もされた事も無いな)
王子(……男から告白されたことはあるけど)
──第3話の最後で登場した、謎の女の子が王子の前に現れる
謎の女の子「あっ、あのっ! 王子先輩!」
王子「えっ、俺?」
謎の女の子「お話があるんですけど、ちょっといいですか?」
王子(まさか告白!?)
王子(……いや、こんな可愛い子が俺に告白するわけがない。どうせ別の用事なんだろ)
王子「いいよ。話って何?」
謎の女の子「王子先輩が好きです! ボクの恋人になってください!」
王子「へっ? じょ、冗談だよね?」
謎の女の子「マジですっ、本気ですっ。王子先輩が夢に出てくるくらい、大好きなんですっ」
王子(こんな可愛い後輩が? しかもボクっ子の萌え系美少女が? 俺の恋人にな りたいだって? 夢でも見てるのかな)
謎の女の子「ボクと付き合ってくれますよね?」
王子「え、えーと……」
姫「BL王子! 騙されないでください!!」
謎の女の子「姫!」
王子「どうしたの藤吉さん?」
姫「そいつは女子じゃありません! 固定カプ推しの腐男子です!」
王子「はい?」
謎の女の子「うるさいうるさい! 節操無しの総受け主義は黙っててよ!」
姫「総受けの何が悪いの? 受けと攻めを固定してる、固定カプの方が変だよ!」
王子「ちょっと待って。二人で何の話をしてるの?」
姫「あ、じゃあ説明しますね。総受けというのは、受け……つまり、女側の役目をするキャラが、」
姫「作品に登場するすべての攻めキャラに、愛されていることです」
謎の女の子「そして固定カプっていうのは、受けも攻めも固定されている一つのカップリングだけを愛することだよ」
王子「二人掛かりで、余計な知識を増やしてくれてありがとう」
謎の女の子「エヘッ♪ どういたしまして☆」
王子(か、可愛い)
姫「その笑顔に騙されちゃダメです。そいつは腐男子なんですから!」
謎の女の子「腐男子なのは間違ってないけど、どうせなら“男の娘”って呼んでよ。その方が萌えるでしょ?」
王子「え゛っ。つまりキミは、女の子に見えるけど性別は男の子なの?」
謎の女の子「男の子じゃなくて男の娘!」
姫「発音は同じでしょ!」
王子「こんなに可愛いのに男だなんて……」
謎の女の子「可愛いってボクのこと? ありがと♪」
王子「どういたしまして」
王子「はあ……。また俺は男から告白されたってことか」
姫「心外ですよね。こんな奴バッサリと振っちゃってください」
謎の女の子「余計なこと言わないでよ!」
王子「あれ? 今日は喜ばないんだね、藤吉さん」
姫「なんで喜ばなくちゃいけないんですか?」
王子「だっていつもなら、俺が男に迫られるのを見て『出ちゃう!鼻血が出ちゃう!』って叫ぶじゃないか」
姫「似てないモノマネはやめてください。両手両足を縛って、責田くんに差し出しますよ?」
王子「はい、もうやりません」
謎の女の子「ボクが男の子と付き合うのを、姫が喜ぶわけ無いじゃ~ん」
王子「どうして? 男の娘は守備範囲じゃないとか?」
姫「違いますよ! 女装攻めはむしろ大歓迎です! 問題なのは、こいつが最低な弟ってことです!!」
王子「弟……?」
姫「はいっ」
王子「この子が? 藤吉さんの弟?」
藤吉弟「そうだよ☆」
王子「そ、それは意外……」
藤吉弟「変態妄想腐女子に、こぉ~んな可愛い弟がいるなんて、意外だよね?」
姫「いい加減にしてよ。変態はそっちでしょ」
王子「ま、まあまあ二人とも。仲が悪いように見せかけて、本当は仲良し姉弟なんだよね?」
姫「どこをどうしたら、そうなるんですか?」
王子「だってさすがの藤吉さんも、弟がBLの世界に入るのは嫌なんだろ?」
姫「そうじゃありません。私はこいつのやり方が許せないんです」
王子「やり方?」
姫「付き合った相手を洗脳して、自分好みの攻めと受けを強引にカップリングさせるのが、こいつの手口なんです!」
王子「……藤吉さんと何が違うの?」
姫「ぜ、全然違うじゃないですか!」
藤吉弟「そうそう、全然違う。ボクは姫みたいに節操無しじゃないもん」
姫「私は受けキャラにみんなから愛されて、そして自由に恋愛して欲しいだけ」
姫「それに比べてあんたは、その気の無い男の子同士を無理やり恋人にしようとするじゃない!」
王子「えーと。つまりホモじゃない人を巻き込んで、俺とくっつけようとしてる?」
藤吉弟「だーいせーいかーい☆ 安心して! ボクのカップリング成功率は100パーセントだから♪」
王子「二人の健全なノーマル男子をホモにしてしまうなんて、もしかしてキミはサイコパスかな?」
藤吉弟「やだなぁ。良心をまったく持たない人間みたいに言わないでよ」
姫「当たってるじゃない。カップリングが成立したら、その二人に近づく人間を排除しちゃうんだから」
藤吉弟「当たり前でしょ。固定カップリングこそがこの世の真実なんだから。ボクが築いた美しい世界に、ノイズが入ったら除去するまでだよ」
王子「あー、藤吉さんより危険人物かもー」
姫「BL王子は私が守ります」
──じーん
と感動する王子
王子「藤吉さん……」
姫「だってBL王子には固定カプよりも、同時に複数人の相手をする方が似合ってますから」
王子「あー、こっちも危険人物だったー」
姫「ところで、今回の攻めは誰なの?」
藤吉弟「うーん……。王子先輩に似合う攻めが見つからないんだよね~」
王子「それは良かった」
藤吉弟「だから今回は、ボクが攻めになろうかな?」
王子「えっ」
姫「ええーっ!」
藤吉弟「姫も女装攻めなら歓迎するんでしょ? ボクらの恋を応援してね☆」
姫「BL王子はものすごくモテモテだよ? 他の攻めの人たちはどうする気なの?」
藤吉弟「うーん、抹殺してもいいけど……。攻め同士でカップリングにしちゃおうか」
姫「そんな! 生徒会長さん×番長さんなんて、そんなの絶対ダメー!!」
王子「嬉しそうだね藤吉さん……」
藤吉弟「ってなわけで。これからよろしくね、王子先輩♪」
──ぎゅっ
と藤吉弟が、王子の腕に抱きつく
王子(柔らかくて、いい匂いがする! ……けど、男なんだよなあ)
姫「BL王子から離れなさい!」
藤吉弟「やーだよっ」
王子(男の娘で腐男子か……。またキャラの濃い知り合いが一人増えてしまった……)
王子(あれ? 何か忘れてる気がする)
■王子の部屋(夜)
──ベッドで寝る体勢の王子
王子(思い出した! 藤吉さんにBL漫画とBLのCDを返してない!)
──つづく
【イラスト付きのものが下記のサイトで読めます】
★kakuzoo
https://storie.jp/creator/story/10397