第2話 生徒会の冷徹
■生徒会室(室内)
──トントンッ
と眼鏡をかけた生徒が書類をまとめる
会長(この書類を提出すれば、今日の仕事は終わりだな)
──ガチャッ
とドアを開けて王子が駆け込んでくる
王子「すみません! 匿ってください!」
会長「どうした?」
王子「今、追われているんです! そいつらが通り過ぎるまで、生徒会室に入れてください!」
会長「……いいだろう。入れ」
──バタンッ
と扉を閉めて胸を撫で下ろす王子
王子「ふう、助かりました……」
会長「ところでキミは何者なんだ?」
王子「あっ……。俺は2年A組、美家 王子です」
会長「自分から王子と名乗るとは……。見た目がまともそうな割にはかなり痛いな」
王子「親がつけた名前だから仕方ないでしょうが!」
会長「本名だったのか、それはすまない。俺は3年B組の冷静 徹也だ。よろしく頼む」
王子「名前くらい知ってますよ。生徒会長なんだから」
会長「そうか。ちなみにみんなからは『冷徹』と呼ばれているが、別に冷徹な性格ではない」
王子「それは知りませんでした」
──パタパタパタ…
と扉の向こう側から足音がする
■学校の廊下
──生徒会室の前を走る、姫とコウ
姫「BL王子ぃーっ!! せっかくお姫様みたいなドレスを用意したっていうのに、どこに行ったんですかー?」
コウ「俺が悪かった王子! 俺はただ、お前をお姫様だっこしたかっただけなんだよ!!」
──パタパタパタ…
と足音をたてて、二人が遠ざかって行く
■生徒会室(室内)
──先ほどの二人の声を聞いて、沈黙する王子と会長
会長「…………」
王子「…………」
会長「呼ばれてるぞ、王子。出て行かなくていいのか?」
王子「あの人たちから逃げてるから匿ってもらったんです!」
会長「そうか、なるほどな。しかし逃げ回っているだけでは、現状は改善されないぞ」
王子「そんなのわかってますけど……」
会長「待っていても誰も助けてはくれない! 自分から道を切り開き、いじめを克服するんだ!」
王子「待ってください。俺、あの二人にいじめられてるわけじゃないんですが」
会長「ほう。では、なぜ逃げている?」
王子「そ、それは……。ほぼ初対面のあなたには話しづらいです……」
会長「ならばこの生徒会室から出て行ってくれ」
王子「どうしてですか!」
会長「俺は戸締りをしてとっとと帰りたいんだ」
──会長が腕を組み、瞳を閉じる
会長「それに事情すら話さない相手を、庇い立てする義務は無いしな」
王子「わかりましたよ、言います」
会長「話す気になったか」
王子「さっき叫んでいた男のほうは、俺の親友なんですが……。実はホモだという事が発覚しました」
会長「いきなりヘヴィーな話だな」
王子「しかも親友が好きなのは俺だったんです。その上、それを横で見て大喜びしている女の子がいて……」
会長「なるほど。それが先ほど叫びながら走っていた女子か」
王子「はい……。ほっとくとあの二人に、俺がBLの受けに仕立て上げられそうで……」
会長「何点か質問をしてもいいか?」
王子「この際だから何でもどうぞ」
会長「まず一つ目の質問だ。その女子はなぜ同性愛を見て喜んでいるんだ?」
王子「えーっと……。普通の少女マンガよりも、男同士の絡みのほうが感情移入できる女の子が、世の中には居るんですよ」
会長「なぜだ?」
王子「俺に聞かれても知りませんよ……」
会長「では、二つ目の質問だ。お前が言った『びーえる』とはなんだ?」
王子「アルファベットのBとL、つまりBoy's Loveの略です」
会長「なんだそれは。直訳すると少年の愛情となるが……」
王子「たぶん和製英語なんでしょ。男同士のラブストーリーを総じてボーイズラブと言うんですよ」
会長「詳しいな。キミもそのBLが好きなのか?」
王子「好きなわけ無いでしょう! むしろ滅びてしまえばいいとすら思ってるのに!」
会長「それは穏やかではないな」
王子「だってこの世にBLなんてものがあるから、俺は親友を失うし、彼女ができないし……」
会長「それは違うな」
王子「わかってますよ。俺の努力が足りないから、彼女が出来ないって言いたいんでしょう?」
会長「いや、そうじゃない。キミが女性よりも男性に好かれるのは……」
──会長がまっすぐに王子を見据える
会長「美家 王子。キミが男性にとってあまりにも魅力的なせいだ」
王子「はい?」
会長「いや、何も俺がキミに惚れたというわけじゃない。あくまで一般論を言っている」
王子「あんたの一般はどこの世界の一般なんだ」
会長「まあ、それはともかくとして。事情は大体わかった。彼らが帰るまではここに匿ってもいいだろう」
王子「助かります」
会長「だが先ほども言った通り、逃げているだけでは何も解決しないぞ」
王子「だったらどうしろっていうんですか?」
会長「自分が思っている事を誠意を持って伝えろ。それだけで事態が好転する場合もある」
王子「……事態が悪化したら?」
会長「その時はその時だ。あきらめるしかない」
王子「無責任だなあ……」
──ドンドン
とドアを叩く音と向こうから声がする
姫「すみませーん! 開けてくださーい!」
王子(ヤバイッ!! あれは藤吉さんの声だ!)
会長「ロッカーに隠れていろ」
王子「は、はい!」
──ガチャッ…
と王子がロッカーの扉を開ける
──ガタガタ
とロッカーの中へなんとか身体を納める王子
王子(くそっ、狭いな……)
──パタン
と王子がロッカーを閉め、ロッカー内の小窓からから室内の様子を見る
──ガチャッ
と会長がドアを開けて姫に話しかける
会長「生徒会室に何か用か? 部外者は立ち入り禁止なんだが」
姫「ある男の子を探しているんです……」
会長「そうか。だが、ここには俺以外はいない」
姫「おかしいんですよ。下駄箱には外靴が有るのに、学校中どこを探してもいないんです」
会長「トイレにいるんじゃないのか?」
姫「いえ。彼を一緒に探していた男の子に見てもらったんですけど、どこのトイレにもいませんでした」
──キリッと表情を引き締める姫
姫「まだ見ていないのは、この生徒会室だけなんです!」
王子
会長「その一緒に探していた男の子というのは、どこへ行ったんだ?」
姫「上履きのまま帰っている可能性を考えて、彼の家へ向かいました」
王子(もうほとんどホラー映画)
会長「一つ言わせて貰おう。逃げたり隠れたりしている人間を、しつこく追い回すのはあまり感心しないな」
姫「でも……。せっかくサイズがピッタリのドレスをインターネットで見つけたから、着て欲しくて……」
会長「だが本人は嫌がっているのだろう?」
姫「嫌がってるんじゃなくて、照れているだけです!」
王子(また強引な解釈キター!!)
会長「俺が今から言うのは、あくまで一般論だが……」
姫「はい」
会長「自分の意見を押し付けるだけでは、要求が通る可能性は低い。相手の意見もきちんと聞くんだ」
姫「私はきちんと聞いてますよ! 彼の心の声を!」
王子(なんかスピリチュアルな方向から攻めてきだぞ……)
会長「心の声? それはキミの思い込みだろう」
姫「えっ……。そ、そんなこと無いです!」
会長「いや、有る!!」
姫「う゛っ」
会長「自分の思い込みを相手に押し付けるだけでは、永遠に互いを理解することはできない」
──表情を和らげる会長
会長「せっかく何かの縁があって知り合えたというのに、それでは悲しすぎるだろう?」
王子(会長……)
姫「そうですね……。家に帰って反省します……」
──バンッ
と王子がロッカーを開けて出てくる
王子「待ってくれ、藤吉さん」
──驚いて王子を見る、姫と会長
姫「BL王子!」
王子「よく考えたら俺は、藤吉さんにちゃんと自分の気持ちを伝えていなかった気がする」
姫「BL王子の気持ち……?」
王子「藤吉さんを初めて見たとき、すごく可愛い子だなと思ったんだ」
王子(その直後に変な子だなと思ったのは秘密だけど)
会長(外野がいる前でよく告白できるな)
王子「だけどキミは、俺をBLの妄想の対象としか見ていない。だから……!」
姫「は、はいっ」
王子「腐女子を卒業して、俺のかっ、かっ、かのっ……」
姫「かの?」
王子「友達になってください!」
王子(彼女になって下さいとは言えなかった……)
姫「だが断る」
──ガーン
と言葉を失う王子
王子「ッッ!?!?」
姫「友達になるのは構いません。っていうか私は、もう友達のつもりでしたよ?」
会長「では何を断ったんだ」
姫「腐女子を卒業するってことです。そんなの無理ですよ」
王子「やって見なきゃわからないじゃないか!」
姫「腐女子を辞めろなんて、私に息をするなと言ってるのと同じです! そんなの死んじゃいます!」
会長「3分くらいなら息を止められるだろう」
姫「やってみます! むむ~っっ……」
姫「ぷは~っ! ダメです! 3分も持ちません!」
会長「15秒か……。堪え性が無いな」
王子「何の話をしてんだあんたらは!」
姫「とにかく、腐女子を辞めることなんて無理です……」
王子「そんな、藤吉さん……」
姫「今日のところは、ドレスをあきらめます。その代わり次は体育倉庫に責田くんと二人きりにして、外から鍵を掛けますから!」
王子(ダイレクトな犯罪予告)
姫「もう時間も遅いので、帰りますね。それじゃあさようなら~」
──パタパタパタ…
と生徒会室から遠ざかっていく姫
──シン…
と静まり返る生徒会室
王子「…………」
会長「見事に撃沈したな」
王子「ほっといてください」
会長「こんなに落ち込んでいるキミを見て、放っておけるわけがないだろう」
──ぎゅっ
と会長が、王子を抱きしめる
王子「え゛っ? どうして俺を抱きしめるんですか?」
会長「すまない……。キミがこういうのを毛嫌いしているというのは、充分承知だ」
──王子の顎を指で持ち上げる会長
会長「だが……。彼らから守っている内に、どうやらキミを好きになってしまったようだ」
王子「はい?」
会長「キミの意思を確かめずに口づけをするという無礼を、どうか許して欲しい」
王子「えっ! ちょっと! 待って……!!」
会長「……チュッ」
──思わずキス待ち顔で応える王子
王子「んっ……」
──王子が顔を真っ赤にして、会長を押しのける
王子「ぷはーっ! 何考えてんですか会長ー!!」
会長「初めてだったのか?」
王子「初めてじゃないですよ!」
会長「チッ……。ファーストキスじゃなかったのか」
王子「舌打ちしてんじゃない! 1回目も2回目もキスの相手が男だなんて最悪だ! ううっ……」
──ぽんぽんっ
と王子の背中を叩く会長
王子「なんで背中を叩くんですか?」
会長「元気を出せ」
王子「あんたのせいでへこんでるんでしょうが!!」
会長「そうか、ならば責任を取って付き合おう。安心しろ。テクニシャンな俺が優しく……そして時には激しく抱いてやるから」
王子「俺はボーイズラブに興味は無い! いい加減にしろーっ!!」
──ダッ
と走り出す王子
会長「あっ……!」
──会長が手を伸ばすも、すでに王子は
居なくなっていた
会長(行ってしまった……。2年A組の美家 王子か、覚えておこう)
■王子の家の前(夜)
王子(はあ……。今日は最低な日だった……)
コウ「よっ、王子! 遅かったな」
王子「なんだよ、コウ……。家に帰んなくていいのかよ?」
コウ「おばさんに頼んで、今日は泊まらせてもらうことにした」
王子「帰れ」
コウ「えっ? 昔はよく泊まっただろ。また一緒に風呂に入ったり、同じ布団で寝たりしようぜ」
王子「それはお前がホモだと知る前だ! ついでに言うと布団は別々だっただろ!」
コウ「冷たいこと言うなよ」
王子「いいから帰れ!!」
──ドカ
とコウの背中を蹴る王子
コウ「いってーな。蹴ることねえだろ」
王子「早く帰って手当てしろよ。じゃーな、おやすみ!」
──ガチャッ バタンッ
と王子が家の中に入ってしまう
コウ「ひでえ……」
コウ(でも、そこが可愛いんだよな)
──つづく
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