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前編

 漂流したその惑星には大気があった。


「おい! 水もあるぞ!」


 生い茂る緑の中に小川を見つけ、サムが歓喜の声をあげた。


 地球でいえばアマゾンあたりのジャングルのような景色だった。しかし鳥や獣の声は聞こえない。小さな昆虫はそこかしこにいて、見たこともない種類だったが、まるで地球に帰って来たように感じさせてくれ、我々をほっとさせた。


「解析完了しました」

 ベティが艦長に報告した。

「この惑星の環境は、地球の環境と酷似しています。このまま宇宙服を脱いでも問題ありません」


 ベティがそう断言しても、しばらくは誰も宇宙服を脱ごうとしなかった。俺は実験台を買って出るつもりで、というか正直言うと暑くてたまらなかったので、ヘルメットを脱いだ。


「カート! さすがおまえ、勇気あるな!」


 艦長はじめ6人の乗組員クルー全員に俺は尊敬の目を向けられる。


「どうだ? 本当に問題ないか?」


 景色も気温も亜熱帯のようなのに、空気は高山のように薄く感じた。俺はしばらく深呼吸し、その惑星の空気を存分に身体中に行き渡らせると、言った。


「大丈夫だ。ウィスキーはバーボンしか飲まない俺がなんともない」


 俺のジョークに皆が笑い、ヘルメットを脱いだ。


「うん。なんともないぞ」

「他の惑星とは思えない」

「まるで地球のようだ」

「このままここに住んじまってもいいんじゃないか?」


 一人だけヘルメットを脱がない奴がいた。ジョーは臆病者だから俺を信じていないようだ。他の者は皆、暑い宇宙服の上も脱ぎ、半袖やノースリーブ姿になった。


「おい! 冗談でも許さんぞ」

 艦長が『ここに住んでもいいんじゃないか』発言をしたビリーを叱る。

「我々は長い宇宙航海の末、新燃料を発見したのだ。これを母星へ持ち帰ることが我々の仕事だ」


「艦長。お言葉ですが、この惑星の発見も重大事項ですよ」

 地質学者のハケットが言った。

「ここを開拓すれば人類の未来も明るいです。是非、ここを調査して行きましょう」


「二兎を追う者一兎をも得ずだ」

 艦長は首を横に振った。

「任務を優先するんだ。宇宙船を修理したら、直ちに母星へ向かう。ここの座標を記録しておいて、この星の調査はまた改めてするのだ」


「宇宙船の修理にどれくらいかかりそうですか?」

 ハケットがエンジニア担当のサムとビリーに聞く。

「結構かかるでしょう? その間、私にこの惑星の調査をさせてください」


「私も行くわ」

 ベティが声を弾ませて、ハケットの隣にくっついた。

「食材になるものがないか、探したいの」


「まぁ……、いいだろう」

 艦長が渋々うなずいた。

「その代わり、宇宙船が直り次第、すぐに出発するぞ」


「了解です」

「わかりました〜」

 ハケットとベティが明るく返事をした。熱々カップルはいいよな。


「では、サムとビリーは修理に専念してくれ」

 艦長が皆に命令を出す。

「ハケットとベティはその間、この星の調査を頼む。カートは……」

 俺のほうを向いて、言った。

「調査の二人について行ってやってくれ。操縦士の仕事が出来ない今、おまえは戦闘員だからな」


「わかりました」

 正直じっとしていたくなかったので、俺は喜んで答えた。

「猛獣でも出てきたら退治してやりますよ」


 ハケットも俺が同行すると聞いて嬉しそうだ。頼もしそうな目で、メガネの奥から俺を見た。


「僕……、宇宙船の中にいていいですか?」

 臆病者のジョーが艦長に聞いた。

「何も役に立てないんで……。待ってます」


「宇宙服を脱がんのか、おまえは?」

 呆れた声で艦長が言う。

「ボンベの酸素を無駄にするな」


「酸素があるんでしょう? この星は」

 ジョーが口ごたえをする。

「出発するまで皆が無事だったら、僕も脱ぎます。で、僕が消費したぶんの酸素を責任もって補填しますよ。この星の酸素をボンベに詰めます。それでいいでしょう?」


「……ま、慎重派が一人いりゃ、安心だな」

 ビリーが冗談口調で言った。

「何かあっても全滅することはねぇ」





 ハケットとベティの先頭に立って、ジャングルの中を進んだ。


「素晴らしい星です」

 ハケットが言った。

「地球に環境が本当にそっくりだ。資源も豊富にあると思われますね」


「あ! あそこに果物がなってるよ!」

 ベティが木の上を指差しながら、言った。

「見たこともない果物!」


 見るとオレンジ色のバナナに似た大きな果物が垂れ下がっている。


「あれは後にしよう」

 俺は提案した。

「取りに行くのは骨が折れる。木の表面がつるっつるだし、高すぎる。何か動物がいたら、そいつを狩ろう」


 ハケットはインテリ、ベティは女性。果物を取りに木を登るのはどう考えても俺の仕事だ。俺が木登りしてる間に二人が未知の猛獣にでも襲われたらどうする。本当は単に木登りがしんどいだけだったが、そういうことにしておいた。


「しかし動物がいませんね」

 ハケットが呟いた。

「これだけ生命を育てる環境がありながら、鳥の声すら聞こえない」


「お肉が食べたいのね、ダーリン?」

 ベティが彼の腕に抱きついて、甘えた声を出す。

「結婚したらいっぱい肉料理作ってあげる」


 何か気配を感じて、俺は立ち止まった。

 銃を構え、辺りを見回す。


「どうしました? カートさん」

 ハケットが不安そうな声を出す。

「何か……あ、あれは?」


 ハケットが何かを見つけた。その方向へ銃を向けながら、その正体を確認する。


 大きな岩があった。誰かがくり抜いたように大きな穴が空いており、その洞穴の中に、無数の何かが蠢いているのが見えた。


 ハケットが草に身を隠しながら、言った。

「虫……ではないようですね」


 ベティがわくわくしたように言う。

「あっ? よく見たらあれ、人間じゃない? きっとこの星の住人だよ」


 ベティの言う通り、それはよく見れば人間大の何かだった。しかも三体ぐらいだ。無数の何かに見えたのは、触手を本体と見間違えたのだとわかった。いにしえのSF作家が描く火星人のように、そいつらは頭部と思われるものの下に無数の触手を持ち、その触手を蠢かせて立っているのだった。


「気づかれないようにしよう。温厚な生き物なのか、危険な生き物なのか、わからない」


 俺がそう言い終わらないうちに、ベティが大声を出した。


「ハロー! 宇宙人さん! 私たち地球から来たのよ! 仲良くしましょ!」


 洞穴の中で、そいつらが一斉にこちらを振り向いた。

 恐ろしい化け物だった。触手の上に乗っている頭部は、地球で馴染みのある動物の顔だった。


 牛の首だ。


 物凄い勢いで三体ともがこちら目がけて駆けて来た。土に高速で箒をかけるような足音を立てながら。俺は迷わず銃爪を引いた。


 銃声が3発、異星の空に響き渡った。


 その空に、ベティの生首が飛んだ。


 牛の首は触手を鋏のように交叉させ、ベティの首を斬ったのだった。俺のせいだった。2発は頭部に命中し、二体は倒したが、一体仕留め損ねたのだ。


「ベティ!」

 ハケットの絶叫が森に響いた。

「ベティ! ああ……ベティ!」


 牛の首はその触手を束ね、切断したベティの首から中へ刺し入れると、ベティの身体を乗っ取った。


 ベティの胴体に乗った大きな牛の首が、ぎろりとカタツムリのような目で、俺とハケットを睨んだ。





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― 新着の感想 ―
1番盛り上がっているところで切れてるんですけど……続き書く気ありますか? 続き書いてくれたらポイント見直します。 m(__)m
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