突然婚約を白紙にしたいと言われた
人生初のファンタジー系(異世界)恋愛小説です。
「貴殿との婚約をこの場で白紙にしたい」
王侯貴族が集まる広間の中心で告げられる配慮のない言葉に辟易しながらエリスは扇で口元を覆いながら不遜な態度で返す。
「婚約を白紙ですか」
「そうだ。 貴殿と私では釣り合わないからな」
エリスは白紙を告げてきた青年リオンを見る。
彼は金髪碧眼の中世的な美男子で華があるタイプである。かというエリスは紫の髪に紫の瞳の美女であるがキツイ印象を与えるタイプである。
巷で言うと確か悪女顔ともいうのだろうか。
「それは私が悪女顔だからですか」
赴くままにに聞くとリオンは首を振る。
「貴殿は美しく気高いのに対し、私は頭だけの男と評価されている。
そのような男が貴殿の婚約者として役割を果たせるとは思えないのだ」
「役割とは?」
「貴殿は辺境伯の令嬢であり跡取りであろう。
知識よりも武に長けた精悍な者を伴侶に添えた方が幸せになれると判断した」
その台詞にエリスは深い溜息を吐く。
「それはリオン様の意見ですか? それともお家の方ですか?」
「家は関係なく私の気持ちである。
貴殿は魅力的で美しいが、私のような事務仕事にしか役に立たない不細工な男を傍に置けば貴殿も一緒に馬鹿にされてしまう。 そのような悲しい思いを貴殿にしていただきたくないのだ」
「は?」
リオンの言葉にエリスは戸惑いの言葉を発し、傍観していた周囲も困惑した顔で見守っていた。
中世的な美男子が不細工というのは可笑しな話だからだ。
「リオン様、何故自分を不細工と思っておりますか?」
エリスの問いにリオンは悲しそうな表情を浮かべる。
その表情は傾国の美女のようだとリオン以外の者は思ったが部外者たちは口をつぐみ、誰も発言しない。
そのためリオンの言葉の意味を問いただすのは当然ながら当事者であるエリスの役目になった。そもそもどうしてそう思ったのか疑問しかないのだが。
「私はリオン様を不細工だと思っておりません」
「だが・・・」
「否定は要りません。あなたが不細工ならその他の者は全員ゴミ以下になってしまいます」
「ゴミ以下?」
周囲ではエリスの暴言に困惑していたが見守る姿勢を貫いた。
ここで初めてリオンは不思議そうな表情を浮かべた。
「だが皆私よりも美しいと思うのだが」
「何故ですか? そもそも何故それを信じているのか疑問ですが。
リオン様のご家族は皆似たような系統でしょう」
エリスの言葉に余計戸惑った表情をみせる。
「私と家族の顔が同じ系統?」
「同じですよ?」
「違うであろう・・・? 私の顔は家族と違い、醜い緑色のゴブリンのはずだが」
「・・・」
その問いにエリスは一度息を飲み込むと、叫んだ。
「早く宮廷医師か宮廷魔術師を呼びなさい!!」
数分後広間には慌ただしく宮廷医師や魔術師が駆け付け、リオンを連れて退出。
エリスも後ろをついていくが入り口で振り返り一言。
「お騒がせ致しました。皆さまどうぞ気にせずお楽しみください」
そう言って堂々と退出する。
たった今起きた婚約白紙宣言から摩訶不思議なゴブリン騒動に広間は大騒ぎになったのは言うまでもない。
厳格な検査の結果、リオンは呪いにも似た祝福をかけられていたことが判明。
犯人はバリュボリョーという、モンスター至上主義の迷惑妖精であった。
経緯は幼い頃にモンスター図鑑を読んでいたリオンに興味を持ったバリュボリョーが、モンスターが好きなら同じモンスターにしてあげるという意味不明な好意を発揮し、自分がモンスター(ゴブリン)に見える呪いのような祝福をかけたのである。
そして幼いリオンは、自分の顔がゴブリンになった事に驚きつつも言葉が上手く発せられないため周囲にも告げられず次第に慣れてしまい現在までに至ったという。
婚約を白紙にしようとした理由は美しく凛とした婚約者に自分のようなゴブリン顔が横に立てば一緒に馬鹿にされ傷つけてしまうという理由からであり、家族に言わず勝手に広間で告げたのは自分を廃嫡して貰い皆が幸せになって欲しいという、お門違いな善意からきていた。
その話を聞いた両家の家長は悪意の全くない婚約白紙宣言に頭を抱えた。
一度言った事だからと白紙撤回に難色を示したリオンの頑なな態度を軟化させることが難しかったのだ。
そのため当事者であるエリスが必死に説得していた。
「リオン様、貴方はある意味悪くない」
「だが、私は貴殿を傷つけたことには変わらない」
「そうかもしれませんが、違うのです」
「?」
「確かに白紙宣言には驚きましたが、リオン様は私を嫌いで言ったわけではありませんよね」
「当然であろう?
貴殿ほど素晴らしく、そして美しい女性はいない」
「・・・」
胸を張って褒めるリオンにエリスは内心叫びたくなった。
エリスは繰り返すが、キツイ印象を与えるタイプの美女であり悪女顔なのだ。さらに言えば辺境伯の嫡子であり騎士である。
無駄なぜい肉もなければ柔らかさなど存在しない、鍛えられた筋肉を保有する国内有数のソードマスターでもあった。
はっきり言ってエリスは思った以上にモテない。
そんな女の元に婚約白紙(世間では破棄)後に来る釣り書は当然、ゴツイ男や野蛮な男しかいない。
しかも爵位を継げず野心を持ち擦れた根性の男が全体に多くなるだろう。
リオンのような中性的な美青年など絶対に来ない。しかもエリスを美しいと断言できる心の持ち主かつ優秀な頭脳を持ち、世界で数名しかいない結界法術師という辺境には必須の存在なのだ。
有能かつ美しい男を手放せば末代までの笑い種になる。
何よりエリスは婚約当初よりリオンに惚れていたのだ。
外聞など知らない。現在必要なのは誠心誠意に説得することのみである。
「リオン様。私には貴方が必要です」
「だが」
「だがは要りません。 貴方の婚約白紙発言など些末なものです。
私は貴方を愛しているのです」
エリスの発言にリオンは顔を真っ赤にして俯いてしまう。
その瞬間を見ていたエリスは勿論見守っていた部外者(身内)は見悶えた。
その可憐さに。
中世的だが成人した男性が可憐で美しいのだ。しかも性格も良く相手を慮ることもできる優良物件。最高の婚約者を逃す者かとエリスとその家族は決意する。
「だからツベコベ言わず結婚にYESと言いなさい」
「・・・いえす?」
強引な物言いで言質を取ろうとするエリスに戸惑いながらも、リオンは返事をしてみる。
その瞬間悪女顔のエリスは満面の笑みを浮かべ、真っ赤な顔で戸惑うリオンの頤を掴んでその口を塞いだ。
数秒後、重ね合わせた唇を離すとリオンの唇に親指を這わせ拭ってやる。
「絶対に逃がさない」
「・・・私は貴殿の婚約者のままで問題ないのか?」
「愚問です。 貴方こそ我が婚約者にして未来の夫。
不安ならいつでも契ります」
「淑女にそこまで言わせるとは、申し訳ない」
「リオン様」
「私は貴殿が美しく手を伸ばしても良いかわからなかった」
「そんなことは」
「すまぬ。不徳の致すところだった。
貴殿・・・エリスを私も愛している。
弱き者だが今一度宜しく頼む」
「はい」
こうしてエリスとリオンの婚約は白紙に戻されず、そのまま続行となり1年後無事に二人は結婚をした。
その際、妖精たちの元締めなるガラの悪い上位精霊が謝罪に来て、結婚式が賑やかになったのは言うまでもない。
「結婚できて本当に良かったわ」
エリスの呟きにリオンは笑う。
「私もエリスと結婚出来て良かった。 有難う」
「・・・」
「どうした?」
「何でもありません」
エリスはそう言ってリオンに口付けをして胡麻化した。
リオンが可愛くて綺麗で眩暈を覚えながら、誰にも奪われなくて良かったと心底思ったのであった。
※cast
主人公女:悪役顔の令嬢で辺境伯嫡子。強い。そして面食い。
肉体言語が得意。我慢強い方。リオン以外ゴミだと思っている。
筋肉達磨は嫌い、細くて薄い筋肉が好き。
主人公男:中世的な美男子で時々傾国の美女。
自分をゴブリン顔と思い続け白紙宣言するちょっと可哀そうな子。
実は王弟殿下の二人目の息子で公爵家。
結界や魔術に長け、防御系は最強(妖精の祝福は防御不可だった←天災)
婚約はリオンの一目ぼれから始まったが・・・年齢を重ねるごとに自分の容姿(自称ゴブリン)に戸惑いエリスの為に婚約を白紙にすることにした。破棄ではないのは自分が全面的に悪いと思っておりエリスが幸せになって欲しいという善意によるもの
ご拝読有難うございました。