邂逅、失態
自分自身について少し整理がついた。そして自分が人間でないということから、まぎれもなく自分は一つの人生を終え、新たな人生に転生しているのだろうという事実も飲み込むことができた。
しかし、今度は自分が人間ではなくなっているのにも関わらず、実に人間的な所作や思考を行っていることに、わずかな戸惑いが浮かぶ。
自分の中にも幸いにして、世界には人間がコロニーを作って、技術力を牙や鉤爪とし、生物界の頂点としてふんぞり返っている程度の認識は存在している。この世界でも、人間は覇権生物でいるのだろうか?そもそも、私のような一般的人外生物でも人間的思考を行っているというからには、この世界では私のような生命体、いや、屍がいわゆる『人間種』として世界を牛耳っているのだろうか?
そんな思考をしている私の後ろで、スポンジのような自分の体ですら、吸収しきれずに震えるような甲高い悲鳴が響く。
自身の直前までの思考が一蹴されたことを半ば確信めきながら後ろを振り返ると、一般的な人間の見た目をしている、色白でふくよかな緑色の虹彩を持つ年配の女性が、山菜の類を積んでいたであろう籠を落とし、その隣で腰から崩れ落ち倒れていた。その引きつりきった嗜虐心を揺すぶられるかのような表情を私に向けたまま、恐怖で弛緩しきった震える全身を地面に擦り付け、私から逃げるように必死に地面を這って遠ざかろうとしている。
私の知識下での農夫などもさすがに、山での採集などでは登山着やジャージ、スウェットなどの動きやすい服装をしているはずなので、この目の前で恐怖にのたうち回る哀れな女性の服装などから考えるに、その女性が住んでいるであろうこの一帯は世間や情報社会と言ったものからから隔絶された辺鄙な場所なのか、はたまた人工肥料などが開発されていない時代くらいの文明レベルの世界にいるのかもしれない。
私は、その哀れな女性を少しは安心させてあげようと気を揉み、自身が言葉を扱う知的な屍であることを教示して、僅かばかりでも理解可能な物体であることを知らしめてやろうと口を開いた。
私の口から出た声は、まるまると太ったヒキガエルが、お腹の中に溜まった消化しきれていない獲物によって上手く発声できていないかのような鳴き声の如く、ヲァ、ヲァ、ヲァといった、破裂音と濁音の中間のような聞くに耐えない開放音であった。
ネタは熱いうちに打て!
恥ずかしいと思ってボツにする前に!




