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≪月夜に蠢く者の目覚め≫1

別視点となります。むしろ、文章力向上として書きたいのは、こっちだったり…。

こぶし大ほどの月がちょうど天頂に差し当たる頃、全てが寝静まり安寧と静寂が支配する辺境の村にてある女性が動き出した。今宵は満月なので森で活動するのならば、月が木々に隠されてしまう明け方や夕刻よりも真夜中の方が真上から降りかかる月光によって森の隅々までよく見えるのである。


彼女はこの村のベテラン薬師であり医術を修めてはいないのだが、村の者たちからは『医術長』と呼ばれている。彼女はこの満月の日を待っていた。この村近辺の森は危険だが、彼女は幼いころから薬師の親にこの森の中を連れまわされたため、地理と逃げ足にはかなりの自信があった。満月の日ならば森の中を遠くまで見渡せるため、彼女の能力ならば危険を事前に察知し、ほとんどの場合で逃げ切れることが出来るだろうとの確信をもって、この森の中から野生の山菜や薬草を回収するのだ。


村の畑でも薬草などを育てているのだが、この村周囲の森は信じられないほど魔力が深くそこに生えている薬草などの効能も味も段違いに濃いという性質がある。その分危険もつきものなのだが、彼女はとある悲哀を乗り越える際に、この森の野生の薬草を常に自身の薬師院にストックしておくという使命を自身に課したのだった。


その悲哀というのが、彼女の元夫の話となる。彼女の元夫は医術師であり、10年ほど前にこの村にやってきた。ほとんど似た業種である彼らは意外とライバル関係には発展せず、お互いに知識を交換し助け合う共生関係に落ち着き、村人からの勧めと求めによって同じ薬師院で働くようになり、7年ほど前に結婚したのだった。同じ仕事ゆえに毎日仕事中も仕事後もずっと一緒にいるのだが、彼女らの仲は決して悪くなることなどなくむしろ日に日に熱くなる一方で、村人は彼女たちの熱気にやられない様に、必死に彼女たちを冷やかしたのだった。


しかし、3年前彼女たち夫婦の夫が奇病にかかる。その奇病とは、発作を起こしてから体内の臓腑が急速に腐っていき、わずか3日程で脳あるいは心臓が腐り死に至るものである。それを癒すには『月下麗人』という名の薬草の花が必要なのだが、それは魔力の大変濃い場所でしか育つことができない品種で、満月の夜にしか花を咲かせない特異種でもあり、未だ栽培法が確立していない薬草である。必然的にこの村周囲で探すとなると森の中しかありえない。


彼女の夫が病の発作によって倒れたのは新月の夜であり、花を探すことは不可能であった。彼女の夫は亡くなるまでずっと彼女は悪くないと彼女を諫めていたが、彼女はずっと自分自身を責めていた。残念なことに、『月下麗人』の花は、一度採取しすぐに煎ってしまえば、その効能を2か月は保つからだ。この世界の満月は1月おきにやってくるので、『月下麗人』の植物自体が大変見つけづらいという点に目をつぶれば、実は常備可能な薬草なのである。ゆえに彼女は、自身の慢心が夫を死に至らせたのだと嘆き、自らを責めたのだった。しかし、いつまでも悔やんではいられない。医術師の夫亡き今、村唯一の医療従事者は彼女の身となってしまったからだ。まだ30後半ではあるにもかかわらずショックによる絶食や不眠などで実年齢以上に老けてしまった彼女ではあるが、二度々同じ過ちを起こしてはならないと一念発起し月に一度の満月の日に必ず森に入るようになったのである。


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