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箱庭の白い花  作者: 夏目華亘
6/7

片想い

 修学旅行明けの月曜日、神崎から"昼飯食おうぜ"と連絡が来た。流石に十二月に屋上は寒すぎるので屋上へ繋がる階段で食べようと言われたものの、ドアの隙間から風が入ってきて階段でも指先が震える。コンクリートの床に直で座っているため尻は冷たいし手はどんどん悴んでいく。



「……寒すぎる。教室戻ろうぜ」

「凛央に聞きたいことがあるんだよ。誰かに聞かれちゃマズい」



 おもむろに立ち上がり階段の下に人がいない事を確認する。屋上へ来る人は一人もいない。それもそのはず、皆暖房の効いた暖かい教室から出ようとしないのだ。



 神崎は俺の耳元に小声で話しかけた。



「何」

「泉先輩の誕生日、何あげんの?」

「誕生日? え、もうすぐなの?」



 おいおいマジかよ、と大袈裟に両手を上げアメリカのコメディードラマのようなリアクションに軽くイラっとする。何でお前が知っているんだと問い詰めると文化祭で自己紹介した時に聞いたと自慢げに話した。



「十二月二十二日! プレゼントのセンスないだろうなあって思ったらそもそも知らなかったのかよ! 最低!」

「大きなお世話だ!」



 平然なふりをするが汗が止まらないほど心の中に焦りが生まれた。先輩は欲しいものとかあるのか? これまでに参考書を買う姿しか見ていないし趣味や集めているものも聞いたことがない。目を瞑り頭を働かせても喜ぶプレゼントが全く想像できなかった。



「ついでに部屋も風船だらけにしてデコレーションしよう!」

「何でお前がノリノリなんだ」

「凛央の家で誕生日パーティーするからに決まってるだろ」

「は? 俺ん家でやるのか?」

「先輩にとって凛央の家が一番落ち着くだろ。カラオケとか俺の家に来ると思うか?」

「……行かないな」

「プレゼントは昼間に二人で出かけてついでに買えばいいじゃん。で、いつものように夕飯一緒に食べようって言うんだ。料理は事前に凛央が作って俺と幸人はケーキを買っておいて盛大に祝う。完璧だな!」



 一度に三人と付き合う男のプランは完璧だった。



だがこいつは一つ大切なことを忘れている。



「ちょっと待て、お前は俺ん家出禁だから」



 俺は神崎の家に何度も行っているが、神崎はもう五年以上俺の家に入れていない。



「何で家に入れてくれないんだよ!」

「自分の行いを思い出せ! 漫画に飲み物はこぼすし、家の物食べ尽くすし、帰らないし、床で寝られると図体デカくて邪魔なんだよ!」



 出禁にしたのは中学の頃だ。高校二年生になったこいつを入れたらとんでもないことになる。神崎はごめんごめんと手を合わせ、これあげるから許してと自販機で買った500ミリのコーラを渡した。



「でも人数多い方が楽しいだろ。先輩は俺と幸人以外に話したことあるやついる?」

「多分いないけど……」

「じゃあ決まりだな! 俺バルーンセット買っとくわ。経費は後でラインするからちゃんと先輩誘っとけよ!」



神崎は食べ終えたパンの袋と空のペットボトルを握りしめ、じゃあな! とそそくさに階段を下りて行った。いつもは授業開始のチャイムが鳴っても屋上に残って昼寝をするのにどうしたのだろう。



「もう帰るのか?」

「次樫本の授業なんだよ。今度サボったら親呼ぶって脅されててさ」



  それは脅しではなく、問題児を指導する学年主任の仕事だ。



当の本人は自分が校内一の問題児だということを分かっていない。先生たちの間では有名なサボり魔で、誰かに注意されると持ち前の足の速さで学校中を逃げ回る質の悪い生徒だ。



「ちゃんと先輩に聞いとけよ! じゃあな!」

「おう……」



 神崎が帰った瞬間一気に気温が下がった気がする。俺も教室へ戻ろう。ポケットに入れたカイロを握りしめ、急いで暖房の効いている教室へ向かった。



 その日の放課後、いつものように先輩と下校する。今日は家庭教師のバイトがあり家へは来ない。ホームで電車を待っている間さらっと二十二日の予定を聞いた。誕生日なんて知らないふりをして、土曜日だしもし時間があれば遊びませんか? とさりげなく誘う。答えはいいよ、の一言だった。



 ここからが問題だ。誘ったはいいものの昼間に出掛ける場所は決まらなかった。先輩に行きたい場所を聞いたものの、君の行きたい場所でいいよ、と選択を委ねられたのだ。



普段なら友達とカラオケに行ったり公園でサッカーをしたり家でゲームをしたりするが、先輩にとってこれらは全く興味のないものだ。最近の歌は知らないしスポーツもゲームも苦手だと言っていた。それに先輩は放課後の講習とアルバイトで疲れているはず。あまり体力を消耗する場所は良くない、となるとかなり場所が限られるのだ。



 次一緒に下校するのは二日後の木曜日。それまでに決めなければと暇さえあればスマホで場所を調べたものの、結局いい場所が見つからず木曜日の朝を迎えた。



 その日の放課後、あの変人が救世主となるなんて思いもしなかった。



 いつものように図書室の当番を務める。日が暮れるのが早いせいか下校時刻まで図書室にいる生徒は数か月前に比べて大分減った。今日は珍しく図書室にいる生徒はいない。



 先輩はTOEICの特別講習で放課後は図書室へ来なくなった。文系クラスより一時間授業が多い上、下校時間ギリギリまで講習を受けている。以前と比べて一緒に下校する回数は減った。先輩は明らかに疲労困憊している。最近は三年生の下駄箱で待ち合わせをすることが多くなった。



 暇なことをいいことに先輩の誕生日プランをひたすら考える。俺の家でご飯を作りバースデーケーキも買って祝うことは決まっているが昼間に何をするかは全く決まっていない。



 当初は学校から少し離れた場所にある大きな公園か映画館へ誘おうとした。しかし土曜日の天気予報は雨で屋外のレジャー施設等は却下。映画が一番無難でいいと思ったものの、上映されているのはテレビアニメの劇場版やハリウッド作品の続編、内容が少し重めの作品ばかりで初見が観るにはハードルの高いものばかりだった。無難にショッピングならプレゼントも買えるし一石二鳥なのだが服に興味があるのかは微妙だし、男は買い物に時間が掛からない人が多い。(俺も神崎も幸人も買い物は10分で飽きる。)多分一時間もせずに買い物は済んでしまう。やっぱり本人に行きたい場所を聞いた方がいいかもしれない。



 まだ五時なのに窓の外は真っ暗だった。誰もいないし早めに閉館しようかな。返却された本を本棚へ戻して施錠も済ませてしまおう。そう思った時だった。



 廊下から全速力で走るやかましい足音が聞こえた。足音の大きさからして男だと確信する。神崎が樫本から逃げているのか?



ちょっと待て、足音が近づいている気がする……



ガラガラガラッ



「いたいた!探したよ!」

「うわあ!」



 勢いよくドアを開けて登場したのは忘れようとしても忘れられない変人、天野ユウリだった。文化祭の時はヤクザ風の服装だったが、今日はオフホワイトのタートルネックにブラックのストレートパンツ、グレーのロングコートというモード系のファッションだ。香水の匂いも違う。今日は石鹸のような柔らかくて軽い香りだ。保健室の時と正反対な服装のせいで一瞬誰だか分からなかった。あの攻撃的なオシャレはやめたのだろうか。



「いつもと違う恰好だって? 知り合いが主催するファッションショーの帰りなんだ。ドレスコードってやつ? こういうシンプルなファッションは似合わないんだよね」



 文化祭の時に着ていた服装の百倍はいいと思う。ぱっと見百八十はあるだろう高身長で手足は長く顔も小さい。生まれつきのスタイルの良さも強調され天野がモデルのように見える。シンプルな格好の方がいいと周囲の人は何も言わないのだろうか。やはり芸術家は分からない。



それはそうと、また心の中を読まれた。自分の思っている事全てが見透かされているようで背筋がゾっとする。



「えっと、お久しぶりです。何か用ですか?」

「渡したいものがあるんだ」



 天野は胸ポケットから何かを取り出した。



「綾波水族館のチケット。知り合いのデザイナーが期間限定で水族館とコラボしているんだ。青と紫の照明に拘っていて綺麗なんだって。泉君と行ってきなよ、デートの場所に困っているんだろ?」

「心の中を読まないでください!」

「昔から人の心がなんとなく読めちゃうんだよねえ。家族にも不気味だって言われるよ」



 あははー、と大きく口を開け能天気に笑う姿が余計怖い。この人のせいで芸術家は変人という偏見がどんどん確立していく。



「あれ、泉君はいないの?」

「下校時間まで講習を受けてます」

「あらら、下校時間まではいられないな。じゃあ帰るね」

「待ってください。どうしてここまでしてくれるんですか? 天野さんの目的は先輩をモデルにすることでしょう?」



 ずっと疑問に思っていた。俺たちの仲を取り持ったところで先輩が絵のモデルになる事へ繋がるわけがない。なのに助言をくれたりわざわざ学校へ来てチケットをくれたりするなんて、何か企んでいるに違いない。



 ドアを開けようとしていた手が止まる。振り返った天野は口角を上げた。



「もちろん用があるのは泉君だよ。でも君を見ていると昔の自分を思い出して腹が立つんだ。もどかしくてイライラする」



 想像もつかなかった答えに脳がフリーズする。天野は窓側へ移動し鍵の掛かった窓を全開にした。暖房で暖められた室内の温度が下がり乾燥した空気が入ってくる。さっきまで雲はなかったのに遠くからは大きな積乱雲が見えた。



「僕は一回しか恋をしたことがない。幼稚園からの幼馴染でいつも一緒にいた女の子でね、いつも明るくて運動神経抜群で陽キャだろうが陰キャだろうが分け隔てなく接する人気者。美術室に引きこもって絵を描く自分とは正反対なのにいつも一緒に登下校していたよ。告白するチャンスは何度もあったのに自分には可能性がないって言い訳し続けた。結局何も出来ないまま卒業して実家から遠い七見に通うために親戚の家に住むことになったんだ。彼女は卒業しても月に何回か電話してくれた。友達は出来たの? とかちゃんとご飯食べてる? とか。まるでお母さんだよね。大学に入学した時も同じさ。大学四年生の時、久しぶりに彼女と会ったんだ。天真爛漫だった少女は知性溢れる魅力的な女性に変身していた。気持ちを伝えようと思っていたのにあまりの美しさに動揺してまた言えなかった」



 今度は胸ポケットから煙草を取り出し火をつけた。天野は喫煙者だったのか。窓側へ顔を向け黒雲に覆われた空に向かって煙を吐く。文化祭の時に嗅いだ香水に近い香りがする。あのスモーキーな香りは香水ではなく煙草の匂いだったのか。



「その後はお互い忙しくて会うことはなかった。大学卒業後僕はアメリカへ行き、彼女は外資系の銀行に就職した。その二年後、彼女は銀行のビルから飛び降りた」

「えっ……」



天野は窓から頭を出し下を覗き込んだ。ここから飛び降りても危ないのにねえ、とニヒルな笑みを浮かべた。



「上司からのセクハラやパワハラだよ。新入社員だったのをいいことに、反吐が出るような言葉を浴びせ嫌がらせをした。一人じゃない、男も女も、合わせて四人」



 もはやいじめじゃないか。



 学生のいじめが事件となりたびたびニュースで取り扱われているが、大人のいじめも大概だ。以前母ちゃんが働いていた病院でもお局のパワハラが原因で新人看護師が続々と辞めていったと話していた話を思い出す。



子どもだろうが大人だろうが、社会というものにはいじめっ子という生き物が寄生している。誰も排除しようとせず、皆が様子を窺う。優しい人ほど気を遣って神経をすり減らす、と母ちゃんは普段飲まないお酒を飲みながら愚痴っていた。人間という生き物は歳を重ねても中身は変わらないらしい。




「いじめや嫌がらせをする人ってね、自分に何もないくせにマウントを取りたい人がするんだ。自分に秀でたものがないくせに人の上に立ちたがる、逆らえない人には愛想を振りまき素直で優しい人を標的にする。自分中心に世界が回っていると思っていて、常識も倫理感もない頭の悪い人がすることだ」



口角は変わらず上がったままだが目は笑っていなかった。



俺の目を見ているようで見ていない、真っ黒で淀んだ瞳。何かが乗り移ったようだ。



天野の目には何が映っているのだろうか、誰が映っているのだろうか。



「保健室で言った言葉覚えてる? 彼女があんなことにならなければ、高校生の君に伝えることもなかったのにね」



"世の中に絶望している人は腐るほどいる。日本ではいじめに遭った人、正しい道に進めなかった人たちが自ら死を選んでいる。自然を守らないと人類は滅びるとか言うけどさ、その前に人間が一番人間を殺しているんだよ。平気な顔をしてね"



 保健室で聞いたあの言葉を思い出す。あの言葉は天野の想い人が苦しめられ、ビルから飛び降りたという残酷な出来事から生まれたのだ。



「当時アメリカにいた僕は急いで帰国したよ。幸い彼女は飛び降りた日の一週間後に目を覚ました。でも彼女は下半身麻痺と声が出なくなる後遺症が残った。リハビリを頑張ったおかげで上半身は動かせるようになったけど」



 目を覚ましたという言葉を聞き胸を撫で下ろす。だが彼女には重度の後遺症が残った。死にたいと思っていた人にとって、死にきれなかったという事実そのものが、心臓を握りつぶされるような苦しみと痛みを与えるだろう。確実に死ぬ方法などないのだ。



「入院している時、彼女が何十分も時間をかけて紙に書いた言葉分かる? しにたいからたすけて、だよ」

「そんな……」

「震える手を抑えながら書いた言葉がこれかって思ったよ。だからね、殺しの手伝いは出来ないけど、幸せになる手伝いはできるよって答えた」

「幸せになる手伝い?」

「僕と結婚することって言った。そこでやっと自分の気持ちを全て伝えたんだ。交際ゼロ日でプロポーズ、しかもロマンチックの欠片もない薬品臭い病室。頭がおかしいのは僕もだった。ダメもとで言ったのに彼女は微笑みながら頷いてくれた。すぐに婚姻届けを出したよ」



 煙草を持つ手の薬指には結婚指輪が通っている。天野はすっかり短くなった煙草を高級ブランドのロゴが入った携帯灰皿へ捨てた。



「もし卒業する前に告白していれば付き合えたかもしれない、一緒に出掛けて思い出を作って、悩みを相談してくれたかもしれない、こんなことにならなかったかもしれないって考えると夜も眠れなかった。だからね、自分への後悔を晴らすために、俺は四人に復讐したんだ」



 右手でピストルのポーズを作り人差し指をこめかみにあてる。まさか本物のピストルで加害者の頭を撃ったのか?



 遠くから稲妻の走る音が聞こえた。



「本当は彼女と同じように声が出なくなるように喉元を搔き切って下半身麻痺になるような事故を起こしたかった。でもそれじゃあ捕まっちゃう。さあここで質問! 君ならどうする?」



「えっ……」



分かるわけない、そんな方法知りたくもない。



今すぐここから逃げ出したい。が、天野の真っ黒な目が俺を逃さない。まるで獲物を捕らえた猛獣のようだ。つっかえる喉から無理やり声を搾り出した。



「ネットに晒す、ですか?」

「それじゃあ書き込んだのが世界的芸術家の天野ユウリだって特定されちゃうよ。正解はね、加害者の家族に全てを話す、でした」



 残念! 不正解! と突然の大きな声にビクッと肩が上がった。獰猛な猛獣に今にも喰われそうな感覚に陥る。恐怖で全身が強張った。



「私の妻はあなたの旦那さん、奥さん、君のお父さん、お母さんにこんなことをされてビルから飛び降りました。後遺症が残って苦しんでいますって全てを話したんだ。土下座して慰謝料を払いますって泣いた家庭もあれば、どうか裁判だけは勘弁してくださいって保身に走る馬鹿もいた。でも目的は金でも謝罪でもない。加害者の家庭が崩壊することだ。結果四家庭とも色々な形で崩壊した。最初からあんなことしなければよかったのにねえ。そう思わない?」



 本当はこれだけじゃ足りないけどさ、と天野は唇を強く噛んだ。



「復讐は何も生まないって言うけどそんなの綺麗事さ。この国は被害者には厳しくて加害者には甘い。僕はね、犯罪を犯さなければ、何をしてもいいと思うよ」



 怒りを表すかのように窓の外から突風が吹いた。受付の机に置いていたプリントが床へ四方八方へ散らばる。風強くなったね、と天野はようやく窓を閉めた。



「高校生の君には重たい内容だったかな。ごめんね、深呼吸して」



 高校生じゃなくても十分重たくてショッキングな内容だ。冷えた空気を大きく吸い口から吐き出す。何度深呼吸してもバクバクと頭の中で響く動悸は治まらなかった。



「実はね、文化祭一日目に君のクラスに入ったんだ。君は女装していなかったけど、重い物運んだり女子を手伝ったりクラスの中心となって動いている姿を見て昔の彼女を思い出した。そして偶然にもモデルをお願いしたい泉君に片想いをしている。話を聞いたら君の性格は彼女そっくりだけど、恋愛に関しては僕に似ていた。泉君はもう卒業してアメリカへ行っちゃうって分かっているのに、彼の周りには誰もいないから、自分は特別だからと勘違いして胡坐をかいている。うじうじしていた昔の僕そっくりだ」



 天野の皮肉がグサグサと胸に刺さる。時間がないと分かっているのにいつまでも一緒に下校するだけ。誕生日というきっかけがなければ自分から遊びに行くことも誘えなかっただろう。自分の行動力のなさに呆れるばかりだ。



「だからね、早く覚悟を決めてほしい。世間体や失敗したらいけないって深く考えたらダメ。失敗したとしても一年すれば綺麗な思い出へと脳が勝手に変換するから。絶対に泉君を離しちゃダメだよ」



 天野は物悲しげに微笑んだ。



 俺を気にかけてくれたことに目的なんてなかった。彼なりの優しさと後悔してほしくないという気持ち、ただそれだけだったのだ。何か企んでいると思い込んでいた自分を殴りたい。



先輩はあと3ヶ月で卒業する。その前に先輩の事をもっと知って、関係を深めて、結果がどうなろうと気持ちを伝えよう。



「俺、後悔しないように頑張ります。何か企んでるのかって疑ってすみませんでした」

「ひどいなあ、何も企んでないよ! あ、今日話したこと他の人には内緒だよ」

「言えませんよ……」

「だよねー。じゃあ僕は帰るね。デートの事後報告は必須だよ!」



 天野はウインクと投げキスをした後スキップをしながら帰っていった。目に見えないピンクのハートが飛んできて思わず手をブンブンと振って払いのける。数秒後、図書室に入ってきた時と同じくらいやかましい足音が聞こえた。あの人は走る音だけでなくスキップの足音もうるさいのか。



「あ、プリント……」



 突風で床に落ちたプリント類を拾う。その中には天野がくれた水族館のチケットも紛れていた。



チケットには無料招待券と記載されている。綾波水族館は学校から近い場所にあるが学生でも三千五百円という少し高めの入場料で、どちらかというと大学生や社会人が行くデートスポットとして有名だ。認めたくないが天野のセンスもタイミングも完璧だった。



都合のいい時ばかり信じる神様に感謝の意を込めて手を合わせる。チケットはなくさないよう急いで財布にしまった。

 


続く

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