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箱庭の白い花  作者: 夏目華亘
2/7

黒雨

 水曜日の放課後。いつものように受付の仕事をしていると――



 ザーーーーーッ



「雨?」



 過ごしやすい秋晴れの空が急変し大雨と強風が襲ってきた。慌ててスマホで調べるとゲリラ豪雨が襲来し夕方から明日未明にかけて土砂降り、雷雨に注意との表記。三十分もすれば止むと思ったが一時間経っても止むどころか雷も鳴り始め雨も風も勢いを増してきた。電車が止まっている所も出ているらしい。今日の天気予報は降水確率十パーセントだったのに。ゲリラ豪雨ほど迷惑なものはない。



「傘持ってきたかな……あった」



 折りたたみ傘持っててよかった。中学の時から使いすぎて生地は薄汚れ骨も少し折れている。明日新しい物を買おう。



 グラウンドが見える窓を覗き込むと夜遅くまで部活に励んでいる生徒が続々と帰っていた。野太い掛け声を出す野球部もいないし、図書室まで聞こえる吹奏楽部の演奏も聞こえない。電車が止まる前に帰れと顧問の命令があったんだろう。いつもは照り付ける日差しが暑いのに豪雨が来てから半袖では寒いと感じるほど空気はひんやりとしていた。



「あ……」



 窓側の席に座る美人な先輩が心配そうに外を眺めている様子が目に入った。黒くて細い髪が湿気のせいでピョンと跳ねている。



 図書室を見渡すとさっきまで本を読んだり勉強に勤しんでいた生徒は皆自宅へ帰ったようだ。雨雲のせいで空は暗く、雹のように天井を強く打ち付ける音と強風で窓がガタガタと揺れている。帰ろうと思うのが普通だ。しかし泉先輩は空を気にしているものの普段通り勉強していた。   


  

スマホで電車の運行状況を調べる。幸い自分が乗る電車はまだ運休も遅延もしていない。電車が運行見合わせになる前に早く帰ろう。窓の施錠を確認し返却された書籍を元の場所に戻した後、ノートにペンを走らせる先輩に声をかけた。



「あの!」

「……は、はい」

「図書室閉めようと思うんですけど、大丈夫ですか?」

「……はい」



 先輩は小さく返事をし広げていた教科書とノート、ペンケースを鞄をしまい図書室を出ていった。先輩の申し訳なさそうな表情を見て先輩が帰るまで図書室にいればよかったと軽く後悔する。



「あ、瀬名君! この大雨夜まで続くみたいだから帰っていいよ」



 ちょうどいいタイミングで司書の先生が来た。先生によるとこれから暴風警報も出る可能性が高く、各教員が学校にいる生徒の帰宅するよう呼び掛けているらしい。図書室の鍵を渡し、俺も足早に駅へ向かった。




 学校から駅まで歩いて二十分。冷たい雨と強風が歩く速度を遅く、体温をぐんと低くさせる。まだ蒸し暑さが残る九月なのに息を吐けば白い息が空気へと溶けていった。



 悪天候に抗いながら五分ほど歩いていると、同じ制服を来た男子の後ろ姿が見えた。その生徒は傘もささず急いで駅へ向かう気配もない。



「……ん?」



 のろのろと風に抗う猫背な後ろ姿に見覚えがあった。木々が大きく揺れ動くほど空は荒れている。コンビニで傘やカッパを買えばいいのにこのままじゃ風邪引くし鞄に入れた教科書も使えなくなるはず――



 考えるより先に、身体が動いていた。



「あの!」



 慌てて狭い折り畳み傘の中に入れる。その人は寒さでブルブルと震え、薄い唇は真っ青になっていた。



 驚いた顔で俺を見つめるのは、泉先輩だった。



「……さっきの」

「このタオルも使ってください。あ、まだ使ってないやつです」

「……ありがとう」



 びしょびしょに濡れた顔と髪の毛を雑に拭く。腕と首も適当に拭き、洗濯してから返すねと濡れたタオルを鞄にしまった。チラッと見えた鞄の中身は殆ど水が浸透している。



「近くのコンビニで傘買います?」

「……財布忘れた」

「お金貸しましょうか?」

「……いい。もう濡れたし」



 財布と傘を忘れたから雨が止むまで待っていたんだ。先輩が図書室を出るまで待てばよかった、と申し訳ない気持ちでいっぱいになる。



「電車通学ですか?」

「……うん」

「俺も電車通学なので駅まで一緒に行きません?」

「……うん」



 警戒する黒猫のようにチラチラと見てくるものの、しっかりと目を合わせてはくれなかった。



「……」

「……」



 初めて話す人との相合傘はやっぱり気まずい。それに小さな折りたたみ傘に男二人は入り切らず、俺も先輩も肩はびっしょりと濡れている。周りにチラチラ見られているようで顔を隠すように傘をさす。無言のまま数分歩いていくと烈風は更に勢いを増した。足首に重りが付いたようだ。先輩になるべく雨が当たらないように傘を盾のようにして進んでいく。



 普段の倍以上時間をかけて歩いていくとようやく駅が見えた。いつもより学生が多く車で迎えに来てもらっている人も大勢いる。その手があったかと思ったが生憎母ちゃんは今日仕事でいなかったと思い出し落胆した。



「先輩の最寄り駅ってどこですか? 俺は松田駅ですけど」

「……朝日駅」

「朝日駅!? ここから一時間も通ってるんですか?」

「……もっとかかる」



文系クラスで一時間以上かけて通学している生徒は聞いたことがない。流石受験倍率も偏差値も高い特進クラスだ、その肩書には往復二時間以上通学する価値がある。



「朝日駅ってことは乗り換えがあるのか。運転見合わせとか大丈夫ですか?」

「……聞いてくる」



 先輩は改札前にいる駅員さんに運行状況を聞きに行った。切符売り場の近くで待つ。暫くして戻ってきた先輩は悄然としていた。



「……見合わせてるみたい」



 どうやら乗り換え先の駅で電車が止まっているらしい。迂回ルートはないはず…。



「……本屋でも行って雨宿りする。最悪タクシーで家まで帰ってお金払おうと思う」

「でも雨が止むまで待ってたら風邪引いちゃいますよ」

「……平気」



 雨宿りすると言ってもいつ雨が止むのか分からない。それにここ七見駅から朝日駅までは電車で一時間以上の時間がかかる。タクシーで帰ったらタクシー代がとんでもない額になるに違いない。何かいい方法はないのか――



「……あ! なら俺の家で雨宿りしてください。ここから一時間以上なんてタクシーのお金もったいないし」



 幸い俺が降りる駅の路線は今の所動いている。いつまで続くか分からない雨を待つよりいいはずだ。暖かい部屋に着替える服、雨や泥で汚れた身体を洗い流す風呂だってある。



「……大丈夫だから」

「濡れた制服のままじゃ風邪引いちゃいますよ。この雨は夜まで続くって司書の先生が言ってたし」

「……初対面の人の家にいきなり行くなんて申し訳ない」



 先輩は困惑の表情を隠しきれていない。冷静に考えれば俺は今日初めて話した一個下の後輩だ。ぐいぐい来られたら引くに決まっている。断る理由と最適な言葉を頭の中で探しているのだろう。



「先輩を置いて帰るなんて出来ません。なんか、そこまで拒否られるとちょっとへこみます……」



拒否とへこむという言葉に先輩の眉間がピクリと動いた。マイナスな言葉を使って相手の罪悪感を利用するなんて汚い技だな。




「……じゃあ、行く」



 先輩は渋々了承した。帰路へ向かう電車の中でも傘の中でも終始無言だったが目を瞑った。








「これ着てください」

「……ありがとう」



 何事もなく無事家に到着し先輩のワイシャツを洗濯機に回す。ネクタイとズボンは固く絞って除湿機のかけた自室で乾かした。乾くまでの間、風呂掃除をしてお湯を溜める。先輩はそこまでしなくていいと言ったが、受験前の三年生が風邪引いたら困るし洗濯も時間がかかると上手いこと言いくるめた。



 二十分くらいして先輩は風呂場から出てきた。制服が乾くまでに着る用に貸したネイビーのパーカーとズボンは先輩の身体にはデカすぎたようだ。分かってはいたが生憎このサイズしかない。



「コーヒーと紅茶と緑茶、どれがいいですか?」

「……コーヒーで」



ピーッピーッ――



「制服干してから淹れますね。そこにあるドライヤー使ってください」

「……うん」



 制服を干し終え、コーヒーを淹れるためにキッチンへ戻る。淹れたてのナッティーな香りは雨の日と相性がいい。



自室へ戻ると先輩は雨に濡れてクタクタになった世界史の教科書をドライヤーで乾かしていた。俺も同じ経験はあるが、濡れた本は乾かしても形はクシャクシャのまま。結局元の姿に戻ることはない。



 コーヒーとお菓子を机に置く。教科書を乾かし終えると先輩はマグカップを両手で掴み、濃褐色の中身をジーっと見つめた。



「……初めて話した人にここまでしてくれるなんて、君変わってる」

「同じ学校だし関係ないですよ。先輩悪い人じゃないでしょうし」

「……君にいいように映ったおかけで、お風呂も服も温かいコーヒーも貰えたのか」



 先輩は砂糖もミルクも何も入れずにそのままコーヒーを口に含んだ。へえ、ブラックが好きなんだ。



「俺、二年二組の瀬名凛央って言います」

「……三年一組の泉千早です」



 学生証見たから知ってます。



「……美味しい」



心臓が早鐘を打つ。憧れの先輩が自分の部屋にいるという事実が更に緊張感を生み出す。平常心を保てる人などいるだろうか。



心の中で深呼吸をする。落ち着いて話せる絶好のチャンスだ。先輩のことを少しでも知りたい一心でひたすら声を掛けた。



「先輩は部活に入ってました?」

「……特進はほぼ帰宅部」

「趣味とかあります?」

「……ない」

「……友達とどんな会話してるんですか?」

「……別に何も」

「……」



 会話が一方的すぎる。会話のキャッチボールが微塵も成り立っていない。



「えっと、雨止みそうにないですね」



大して仲良くもない、共通の趣味もない、何を話していいか分からない人に話す話題第一位、天気。何を今更と言わんばかりに先輩の視線が痛い。俺こんなにコミュ障だったかな……。



「……そうだね」



 カーテン越しに荒れ狂う雨を心配そうにのぞき込む先輩。同じ人種とは思えないほど目鼻立ちがはっきりしている。手足も長く、背も高い方だと思う。



「先輩って、美人ですね」

「……え?」

「あ、なんでもないです……」



 うっかり声に出てしまった。図書室にいる時も美人だなって思ってたけど、駅に着いた時濡れた黒髪を拭く姿はほのかな色気を感じた。



「……やっぱり君、変わってる」



 先輩は鞄にしまっていた古典の教科書を取り出して読み始めた。幸い古典の教科書は少ししか濡れていない。



 シャープペンを握りしめ黙々と書き込みをする。多分話しかけるなオーラを出しているのだろう、迂闊な発言のせいで警戒されてしまった。男女関係なく容姿に触れるのはご法度だとは分かっているが、自分が思ったことを素直に言えない息苦しさを時々嫌でも感じる。



「あの、よかったらLINE交換しませんか?」



 先輩と二人で話せる機会はもう二度と来ないだろう。連絡先の一つでも知っておくべきだ。




「……らいん?」

「LINEです、スマホでメッセージや電話できるアプリ」

「……携帯自体持ってない」

「え!? 不便じゃないですか?」



 今時スマホは疎か携帯すら持たない高校生がいることに驚く。SNSはやってないと思っていたが、携帯そのものを不要としているとは。



「ネットは見ないし、友達いないから必要ない」



 友達はいない、とはっきり言われたら何て返すのが正解なんだろう。俺の耳には友達ができないのではなく、自分には不必要な存在だと聞こえた。心の奥まで棘に刺さったような痛みを感じる。



「あの……俺、先輩と友達になりたいです」



 大きく深呼吸をする。改まって言うことでもないが、ここまで来たらはっきり言うしかない。



「正直に言います。俺、先輩と話してみたかったんです」

「……え?」

「友達じゃなくても、先輩後輩の間柄でもいいんです。ダメですか?」



 数十秒の沈黙が部屋の空気を重くさせる。さっきまで聞こえなかった雨の音が煩い。先輩は下を向いて俯いたまま俺の方を見ようとしない。初めて話しかけられた人に半ば強引に家に連れてこられた上、こんな気味悪いこと言われたら俺だって引く。だけど頑なに心を開こうとしないこの人にはこれくらい正直に言わないと伝わらないだろう。



 一分後、先輩はコーヒーが残ったマグカップを机に置きゆっくりと立ち上がった。



「……俺、なるべく他人と関わりたくないんだ」

「えっ?」

「……俺のことは今後空気だと思ってほしい。……ごめん、帰る」

「え、ま、待って……!」



 ハンガーに掛けたまだ乾いてない制服に着替え荷物をまとめる。おじゃましました、と逃げるように階段を降りていった。



「待って! まだ制服乾いてないし風邪引きますよ! それにまだ雨が……」

「……大丈夫。色々ありがとう」



 ドアを開けると、帰宅していた時よりも風の勢いが増し雨の粒が痛いと感じるほど猛威を振るっていた。俺の声は届かず、先輩はまた傘もささず玄関から飛び出していった。



 先輩を追いかけようと傘を取り出す。勢い良くドアを開けると全身ずぶ濡れになりながらダッシュで家に駆けこむ弟が目の前にいた。スピードに乗った弟は咄嗟に止まることが出来ず、俺はぶつかった衝撃で床に尻もちをついた。



「あ、兄ちゃん大丈夫?」



 弟の身体はビクともしなかった。こいつ、また身長伸びたな。



「痛え……。お前筋肉鍛えすぎだろ」

「水泳部部長だったもので。傘忘れたから急いで帰ってきた」



 弟の屈強な上半身に吹っ飛ばされ、結局先輩の姿は見逃してしまった。















 二日後の放課後、部活で当番に出られない新堂の代わりに図書室へ行くと先輩はいつものように窓側の席で本を読んでいた。身体が冷えたのか、ずっとティッシュで鼻をかんでいる。



 受付に人がいなくなったタイミングで先輩に声をかけた。



「大丈夫ですか? やっぱり風邪引きましたよね?」

「……平気」

「よかった。……あの、やっぱりダメですか?」



 先輩は本から視線を逸らさない。数十秒無視しても側に居続ける俺に小さく溜息をついた。



「……この前の話聞いてた?」

「もちろん」

「……」

「うわあ、すごく嫌そうな顔……」



 今度は重いため息をつき、バンッ! と大きな音を立てて本を閉じた。そしてギロリと俺の顔を睨みつける。が、全く怖くない。



「……俺には何もない。だから近寄らないで」



 近寄らないでという言葉がこの前よりも直接的で動揺する。



 俺には何もない? 一体何のことだろう。ただ先輩と仲良くなりたい、それだけなのに――



「俺、別に何も先輩に求めていません。それに、分かりましたって諦めた方が後悔します。せめて理由だけでも教えてくだ……」

「ほっといてくれ!」



  声を荒げ、また逃げるように図書室から出ていってしまった。図書室にいる生徒が何事だと言わんばかりに俺をジロジロ見てくる。



「嫌われちゃった……」



 自分の諦めの悪さ驚く。違う人に同様の言葉で自分を拒否されたら傷つくし、もう忘れようときっぱり諦める。だけどモヤモヤする。告白してきた人やパートナーを振る時は嘘でも何かしらの理由を言う。理由もなく振られる気持ちは今の俺と近しいものなんだろう。もし先輩に嫌なことをしてしまったのなら謝りたい。



 明日理由を聞こう。そう思っていたが物事は最悪な方向へと進んでしまった。翌日から俺が図書室へ入ると先輩は慌てて図書室を出て行くようになった。そう、とうとう避けられるようになってしまったのだ。



 十月三日。今日は急遽授業が自習時間になったおかげであっという間に昼休みの時間を迎えた。普段一緒に昼飯を食べる奴らが部活の集まりや先生からの呼び出しで一人になった。たまには屋上で飯でも食うかと思い、購買で買ったピザパン二個とメロンパン一個を持ち階段を登る。



 ドアを開けると、見覚えのある図体のデカイ男が目に入った。暑さが少し和らいだ青空の下で大きないびきを立て気持ちよさそうに寝ている。いつもは屋上で昼飯を食べる生徒が多いのに今日は一人もいない。きっとこの男を見て教室に戻ったのだろう。



「おい。起きろよ、邪魔」



 軽くスネを蹴飛ばす。一回では起きず数回蹴とばすと、痛えなと掠れた声が聞こえた。



「ったく誰だよ………あれ、凛央じゃん。何してんの?」

「こっちのセリフだよ」



 直してない寝癖、耳にはピアス、夏休みにブリーチしたと思われる金髪、腰パンに着崩したネクタイ。そこそこ進学校な東高でそんな格好してる奴お前しかいないぞ。



「また授業サボって昼寝か? 四時間目終わったぞ」

「あ、ピザパン持ってんじゃん。ちょーだい!」



 いいよ、の言葉も聞くことなく馬鹿力で俺のパンを二個もぶん取った。



「おい! いいなんて一言も言ってない!」

「メロンパンあるからいいじゃん!」



 満面の笑みでパンの袋を開ける。開放的な屋上でボーッとしようと思ったのにとんだ邪魔者がいた。





「なあ神崎」

「あ?」

「近寄らないで、ほっといてくれって言われた相手と仲良くなりたいんだけど、どうすればいい?」

「いや、お前何したんだよ」



 購買で一番人気のピザパンを奪い悪気もなく食べ続けるこの男、神崎充季は幼稚園からの幼馴染だ。身長百八六センチでバスケ部のエースという漫画の主人公みたいなこいつは人生で悩んだことが一回もないという羨ましい脳みそを持っている。



 こんな奴に相談する俺も俺だが、相談事に対して変に気を遣われたりすることもなくストレートに意見を言ってくれたりするから楽だし、割と的確な意見をくれる。正直、一番の相談相手だ。



「なんだそれ。とりあえず嫌われた原因について謝るのが先だろ。で、相手の様子を見ながら徐々に距離を詰めていく。それしかなくね?」



 友達になりたいと言った途端距離を置かれた。なるべく他人と関わりたくないって言われたら諦めて離れるべきなんだろうけど、やっぱり先輩と仲良くなりたい。どうするのが正解なんだろう。



「嫌われた理由がわからないんだよな」

「瀬名君サイテー」

「一度に三人と付き合ってるお前にだけは言われたくない」

「合意だもーん」



 そうなのだ、こいつは三人の女の子と合意の上で付き合っている。最近の若者は付き合い方まで多様性という名の選択肢が増えているらしい。



「何で仲良くなりたいの? そんなに可愛い子?」

「可愛いっていうか、なんかこう……絵画を見ている気持ちになるっていうか、不思議な魅力を持った人?」



 ベールを纏ったような神秘さと艶麗さがあって、今まで出会ったことのない人だから気になっている。と言いたかったが、キモいと言われると思いやめておいた。



「凛央、お前キモいな」

「……結局言われんのかよ」

「は?」

「うるせえ」

「痛っ!」



 神崎の頭を軽く引っぱたくと、そういえば……と何かを思い出した。



「凛央の口からコイバナ聞くの初めてじゃね?」



 ニヤニヤしながら顔を覗いてくる。



「……いや、俺は友達になりたいんだよ。それに相手は男だ」



 うっかり今まで人を好きになったことはないと言いそうになった。人を友達以上に見れないのだ。危ない危ない、絶対掘り下げてくるやつだ。



「あーそっちね。俺も会ってみたいな、今度紹介してよ」

「嫌だ。それで、今三人と付き合ってる自称モテ男はこういう場合どうするんだ?」

「俺だったらど直球で行くな。ちゃんと言葉に表して自分は本気だって伝わるように行動する。間接的にアピールするのは性に合わねえからな。男ならハッキリ伝えろよ、親友!」

「痛っ! だから力強えんだよ!」



 また馬鹿力で背中をボンボンと叩かれる。神崎は悪い悪いとケラケラ笑いながらあっという間にピザパン二個を完食した。



続く

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