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レヴェリア、龍の舞う島々 ー無限の空をめぐる戦い。夢の国を造る少女と、それを支える男の物語ー  作者: 藤村 樹
第1部 鉄と炎の機械城

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第8話 軍事会議


 グレイスは、翼竜騎士団の大テントで行われる軍事会議に参加させてもらいます。



※「てやんでぇ! 小難しい説明なんか読んでられねぇぜ!」という方はあとがきに会議の要約をまとめましたのでそちらをご覧ください。


 次回から、バトル開始です!


 幹部衆が全員集まって軍事会議が始まるころには、外はもうすっかり日が暮れていた。

 今日はとても長い一日に感じられたが、もうひと頑張りだ。



 大テントのなかでは蜜ろうそくを立てた数本の枝つき燭台(しょくだい)に明かりが(とも)されていた。

 奥に置かれた巨大な石板には龍神(りゅうしん)(かたど)った絵が描かれていて、乳香(にゅうこう)の爽やかな香りがわずかに漂う。


 幹部衆とよばれた面々は皆それぞれ、テント内の好きな場所に立ったり座ったりして、会議のはじまりを待っていた。

 幹部衆とはその名が示すとおり、翼竜騎士団(よくりゅうきしだん)の中で実権をにぎっている、選ばれし者たちであるとのこと。


 ――どうしても、奥にある石板に目が行ってしまう。


 描かれている龍神は黄金(おうごん)のように光り輝く巨大な龍の姿をしていた。

 龍の姿という具体的なモチーフがあるにも関わらず、絵のなかの龍神はどこか抽象的で線が荒く、まるで小さな子供が描いた落書きのような印象を受けた。

 しかしそれでいて、見た者の視線と心をつかんで離さない、得も言われぬ神性(しんせい)を宿している。


 いつまでも眺めていたい気持ちに駆られたが、俺は幹部衆の顔ぶれも見てみることにした。


 幹部衆はレゼル、シュフェル、ブラウジを含めて十人ほどいるようだ。

 エルマさんのように民族衣装を着ている者、レゼルやシュフェルのように動きやすさを優先して肩当てや胸当てなどの最小限の兵装を好む者、ブラウジのように重厚な(よろい)を好む者と、身なりはさまざまだ。

 年齢も少年くらいに見える者から、壮年の者まで幅広い。



 ブラウジが最初にみんなの前、つまり奥の石板の前に立って、一同に語りかけた。


「全員そろったようじゃのう。

 ホセ、それでは現状の評価と課題の整理を頼むゾ」

「はい」


 ブラウジに呼ばれるとひとりの少年が前にでて、おもむろに細かい書きこみがされた紙を広げはじめた。


 レゼルと同じくらい、いや、シュフェルと同じくらいの年代に見える。

 華奢(きゃしゃ)というほどではないが、屈強(くっきょう)な男が多い幹部衆のなかではひとまわり以上小柄だ。

 黒髪を肩くらいで切っており、顔立ちもパッと見て男か女かわからない中性的な顔立ちをしている。


 俺は隣にいるレゼルの耳元に顔を寄せ、こっそり質問する。

 反対隣でシュフェルが横目でにらんでいるのを感じたが、気づいてないふりをした。


「彼は?」

「彼の名前はホセと言います。

 幹部衆のなかでもシュフェルの次に若いですが、戦場での判断力の高さと優れた戦略立案力が評価され、最近幹部入りした男の子です」


 なるほど。

 翼竜騎士団の若き頭脳、と言ったところか。


 ホセは俺の視線になど気づくことなく、説明を始めた。


「我われ翼竜騎士団が鉄炎(てつえん)国家アイゼンマキナ軍を撃ち破るうえでの最大の壁。

 言うまでもありませんが、それは圧倒的な戦力差です」


 彼が広げた紙には戦力差がひと目でわかるように、図表にまとめて描かれていた。


「我われ騎士団員約百人に対し、鉄炎国家は約五万人の一般歩兵と三千機の機龍兵を(よう)しています。

 機龍兵一機が我われの一般龍兵一騎に相当すると考えれば、その戦力差は歴然です。

 一般歩兵はクロスボウや火炎放射器で武装しているうえ、都市防衛の拠点では火薬と鉄球を用いた固定砲台が数百台ほど設置されています」


 機龍兵だけを相手にしたとしても、敵側のほうが三十倍は頭数(あたまかず)がいるということか。

 たしかにそれだけの戦力差を埋めるのは容易なことではない。


「これだけ莫大な戦力差を覆す戦略となると、選択すべき手段はある程度限られてきます。


 一.敵の首領を狙った電撃戦。


 二.指揮(しき)伝達経路の破壊。


 三.無差別かつ大量破壊兵器の使用」


 ホセはそれぞれの戦略の説明をしようと、まずは人差し指を立てた。


「まず、『敵の首領を狙った電撃戦』ですが、これがもっとも現実的な戦略でしょう。

 しかし敵の首領ゲラルドは宰相(さいしょう)とは名ばかりで、普段は城の奥に閉じこもって機械の開発に明け暮れています。

 城の外にでてくることはまずありません。

 城の深部に到達することが難しいことは、先に説明した戦力差を考えれば想像に(かた)くありません」


 次に中指を立てて。


「『指揮伝達経路の破壊』ですが、残念ながら機龍兵は単独で思考回路を持ち、行動は自律しています。

 機龍兵数十機単位、あるいは一般歩兵数百人単位で小部隊を組み、それぞれの部隊にリーダーはいるようですが、全体を同期して統制している指揮系統はありません。

 数万規模の軍隊ですから、全体を統制する指揮系統がない点に付け入る隙があるかもしれませんが……。

 目立った弱点にはなりえなさそうです」


 そして薬指。


「最後は『無差別かつ大量破壊兵器の使用』です。

 有効な戦略ではありますが、そもそも我われはそのような兵器を持ちあわせていませんし、城自体にも一箇所破壊すれば全体が崩壊(ほうかい)する、要石(かなめいし)のような弱点の存在は確認されていません。

 毒の散布(さんぷ)も有効な可能性はありますが、城の周囲には市街地が広がっています。

 大量の毒を使用すれば罪のない一般市民まで巻きぞえにしてしまうことでしょう。

 せめて機械の龍にだけ効く毒なんてものがあればよいのですが……」


 ここでいったんホセの説明が終了する。

 さすが若くして幹部入りを認められただけあって、分析は非常に的確なものであるように思えた。


「現状、打つ手ナシというわけですね……」


 レゼルが口元に拳を当てて考えこむ。

 ほかの皆も黙りこんでしまったので、ホセが再び切りだした。


「決定打にはなりえないかもしれませんが、一時的に相手の戦力を大幅に減ずることなら可能かもしれません」

「ほう、それはいったいどんな策じゃ?」

「機龍兵の動力源を狙うことです」


 ブラウジが興味を示したので、ホセが答えた。


「鉄炎国家の機械の多くにはさまざまな燃料や電気が使用されていますが、機龍兵は爆発的な動力を得るために、高純度に精製(せいせい)された油を内部の動力機関で燃焼(ねんしょう)させています。

 この精製された油は、砂鉱国(さこうこく)『ヴュスターデ』で作られて、輸入しているものです。

 ジェドからほど近い距離にある小島に給油庫があり、運搬(うんぱん)された燃料油はすべてこの給油庫に貯蔵(ちょぞう)されています」

「じゃあ、その給油庫を狙えば……!」


 レゼルが希望の色を浮かべる。

 ホセは彼女のほうを見返して、しっかりとうなずいた。


 砂鉱国『ヴュスターデ』とは地表の大半が砂漠に覆われている国で、水資源や農作物は乏しいが、豊富な地下資源の輸出で金銭的には(うるお)っている。

 この国もアイゼンマキナ同様に帝国の支配下にあるが、俺は出入りしたことがあるし、今日取引していた闇商人たちもヴュスターデを拠点に活動している商人たちだ。


「我われの長年の調査から、ヴュスターデからの燃料油の大量運搬は月に一度、機龍兵の給油は七日間に一度必要であることが判明しています。

 給油庫の燃料油を焼きはらい、ヴュスターデからの運搬を阻止しつづければ、およそ七日間で機龍兵の大半を活動停止に追いこめる計算です。

 機龍兵さえ無力化できれば、空中での機動力に勝るわれわれは城に突入し、『敵の首領を狙った電撃戦』を実現できる可能性があります」


 ヴュスターデからは飛行が得意な龍を休まず全力で飛ばしても五日間はかかる。

 緊急で燃料油の運搬を要請(ようせい)しに行ったとしても往復で十日間はかかる計算だ。


 それに、アイゼンマキナ製の大量運搬船はせいぜい世界に十数台、燃料油運搬用に緊急稼働(かどう)できるのはほんの数台程度だろう。

 たしかに、実現困難な話ではないように思われた。


 そこで、幹部衆のひとりが手をあげた。


「ひとつ質問がある。

 わざわざ危険を冒して給油庫を狙いに行かなくても、ヴュスターデからの運搬船を狙いつづければそのうち機龍兵を無力化できるんじゃないか?」


 質問は想定の範囲内であったようで、ホセはよどみなく答える。


「たしかにそれは一見安全な策のように思えます。

 しかし、運搬船は現状で唯一の敵の急所です。

 運搬船を狙えば敵は全力で我々を掃討(そうとう)しにかかるでしょう。

 たとえ運搬日の直前であったとしても、給油庫にはある程度の余裕を持って補給されているはずです。

 我われは燃料油が底を尽きるまでのあいだ、逃げまわりながら運搬船の運行を阻止しつづけなければなりません。

 長期戦になったとき、先にちから尽きるのは拠点を持たない我われのほうです。

 だからこそ給油庫の燃料油の残量を一度(ぜろ)にして、七日間の短期戦に持ちこまないといけないのです」

「そうですね……。

 いつまで逃げまわらなければならないのかわからぬまま逃亡しつづけるのは、自軍の兵士たちにとって想像以上の精神的負荷がかかります。

 いっぽう、敵の給油庫を焼きはらってしまえば、敵は息切れ覚悟で私たちを追いまわすか、都市防衛に最低限必要な機龍に燃料をまわさざるを得なくなるでしょう。

 いずれにせよ、私たちが優位に立つことができます」


 と、再びレゼル。

 ホセに参謀(さんぼう)役を任せてはいるが、彼女もかなり(かしこ)そうだ。


「よし、話はよくわかった!

 さっそく給油庫に行ってすべてを焼きはらおう!」


 片手を振りあげ、楽しそうに(あお)るのはシュフェル。

 やることは同じでも彼女が言うと非常に物騒(ぶっそう)に聞こえるから不思議だ。


「しかし、給油庫を攻めるうえでひとつ、大きな問題があります」

「えー、なにー?」


 ホセが冷静に返答すると、シュフェルが今度は不機嫌そうに口を(とが)らせる。

 この娘はころころ表情が変わるので見ていて飽きない。


「給油庫は首都ジェドからほど近い小島に建設されています。

 この小島は土地が狭いので設置できる固定砲台の数、配備できる兵の数はどうしても少なくなります。

 ただ、有事の際にはジェドからあっという間に応援が駆けつけてくることでしょう。

 さらに、小島の手前側にはテーベも近くにあります。

 無策に突っこめば、前方と後方から挟み撃ちにされてしまうんです」


 俺にとってアイゼンマキナ領は外国だが、ある程度の地理は把握(はあく)している。


 テーベは旧カレドラル第二の都市で、帝国に占領された今もなおジェドに次ぐ規模を誇る。

 ジェドの奥側は険しい山々によって守られているが、手前側上方に浮いているのがテーベなので、首都防衛上の要地となっているのだ。


 給油庫のある小島は、ちょうどジェドとテーベを結んだ線上にあるというわけだ。

 ホセの説明は続く。


「僕は、給油庫のある島を攻める前に、テーベを奪還(だっかん)する必要があると思います。

 ジェドを俯瞰(ふかん)する位置に陣どれるので戦略上の意義も大きいですし。

 ……それに何より、あの街にも、我われの同胞(どうほう)がたくさんいる……!」


 そこまで(つと)めて冷静にふるまっていたホセが、初めて感情の一端(いったん)垣間(かいま)見せた。

 にぎりしめた拳がわずかに震えている。


 まわりの幹部たちも、みんな気持ちは同じのようだった。


 ホセは目をつぶってひとつ大きく息をつき、元の冷静さを取りもどす。


「とはいえ、テーベを奪還することも容易なことではありません。

 首都防衛のために、テーベにも五千人の一般歩兵と、機龍兵が約七百機常駐(じょうちゅう)しています。

 固定砲台も百台近くが常に稼働(かどう)可能な状態です。

 我われにはレゼル様とシュフェル様がいますから、玉砕覚悟(ぎょくさいかくご)で行けば相討ちまでは持っていけそうですが、こちら側も壊滅(かいめつ)に近い損害を受けることは避けられないでしょう」


 え? その戦力差で相討ちなの? 

 俺はこっそり周囲を見まわしたが、みんな黙ってうなずいているので、俺も当然のような顔をしていることとした。


「すみません、僕の話はここまでです。

 なんとかテーベの防衛線を突破できないかとずっと考えつづけてきたのですが……。

 肝心なところでお役に立てず、申しわけないです」


 ホセが、ほんとうに申しわけなさそうにしょげている。


「テーベの奪還は何度か試みたことがあるが、いずれも手痛い反撃を受けて、致命傷を受ける前に撤退(てったい)するのがやっとじゃったのう」


 ブラウジが腕を組み、これまでの戦いを振りかえっている。

 レゼルもうなずいている。


「ええ、せめて機龍兵か固定砲台のどちらかでも封じることができればなんとかなりそうなのですが……」

「あ、それなら俺なんとかできるかも」


 テントのなかにいた皆の視線が一斉に俺に集まるのを感じる。

 発言する際に小さくあげた手が何だか気恥ずかしくなってきた。


「いったいどうやって!?

 お前にひとりで百台の固定砲台を破壊するちからがあるとでも言うのか!?」


 一番近くにいた幹部が迫るように問い詰めてきたので、「まあまあ」となだめる。


「はぁ?

 このオッサンにそんな大したことできるわけないでしょ」


 隣でシュフェルがぼそりと毒づく。


「もちろん、俺ひとりでどうにかするわけじゃないよ。

 どうにかするためには……レゼル、あんたのちからが必要だ」


 俺は、驚いた顔でこちらを見ていたレゼルにほほえみかけた。


「俺はこの数年間、いろいろな国をわたり歩いて知識や情報を集め、戦略論を学び、各国において帝国軍を倒す作戦を考えつづけてきた。

 そうして考えてつづけてきた作戦のうち、テーベの奪還も構想(こうそう)のなかにあったんだ。

 で、肝心のその作戦なんだが……」


 ――俺は、頭のなかにあった作戦をみんなに伝えた。



「……そんなにうまく行くのか?

 所詮(しょせん)机上(きじょう)空論(くうろん)だろ?」

「まぁ、物事に絶対はないからね。

 うまく行かなかったら早々(そうそう)退却(たいきゃく)して別の作戦を考えるだけさ。

 いつかは戦わなきゃいけないわけだけど、ほかに何かいい作戦があるかい?」

「お前な……」


 先ほど突っかかってきた幹部が疑惑(ぎわく)のまなざしを向けてきたので、俺は肩をすくめて答える。


 ……すると、目をつむって話を聞いていたレゼルが双眸(そうぼう)をひらいた。


「試してみる価値はあります。

 少なくとも、無策で行くのよりはずっとよいはずです。

 やってみましょう」

「レゼル様……」


 どうやらレゼルから許可をいただけたようで、こうなっては幹部衆も文句は言えないようだ。


 ようやく面白くなってきた。

 俺は思わず指をパチンと鳴らす。


「そうこなくっちゃ」




 会議まとめ


①敵の軍は機龍兵だけを相手にしたとしても味方の三十倍くらいの戦力です。


②給油庫を焼きはらえば勝てるかもしれません。


③給油庫に行くには手前にあるテーベという街を奪還しなければなりませんが容易ではありません。


④グレイスにはテーベを奪還するよいアイデアがあるようです。




※蜜ろうそく…ミツバチの巣を構成する蝋を精製したもの。現実の古代ヨーロッパでも使用されています。


※乳香…香料の原料となる樹脂です。


※石板に描かれた龍神の絵…古代ヨーロッパのモザイク画をイメージしています。




 それにしても、こうして後から振りかえってみるとほんとうに小難しいパートでしたね……。


 幹部衆をイロモノ揃いにして紹介するのも王道パターンかと思いましたが、第一部はレゼルの物語ですので、あえてはずしました。


 第二部以降、フォーカスが当たるキャラクターもでてくるので、この作品を気にかけていてくれると嬉しいです(切実)。



 次回から戦闘開始です。2022/2/20の18時以降にアップする予定です。よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ホセさんの説明がとても分かりやすくて、私も会議に参加してるような気分で読みました。 ホセさんは本当に参謀という言葉がぴったりですね! グレイスさんの作戦は機龍兵か固定砲台のどちらかを封じ…
[良い点] 読んでいる間、大空に無数の島が浮かび、その間を龍騎士が飛び交う光景が頭に鮮明に浮かびました。 [一言] ここまで読みました。
[良い点] 江戸っ子用のてやんでぇまとめは、てやんでぇじゃない人にも確認が出来てわかりやすいですね(*´▽`*)
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