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レヴェリア、龍の舞う島々 ー無限の空をめぐる戦い。夢の国を造る少女と、それを支える男の物語ー  作者: 藤村 樹
第2部 氷銀の狐

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第82話 賢き王、愚かなる者 ①


 今回から第二部エピローグです。

 第二部は、もうちょっとだけ続きます。


 ミネスポネの白銀の支配から解放され、長く氷に閉ざされていた王都ルトレストの光景は一変した。


 氷の壁は崩れさり、あたりはファルウル本来の暖かい空気に包まれている。

 深く積もっていた雪はまるで嘘のように()けはじめ、日に日に消えてなくなっていく。

 今となってはなごり雪を残すばかりだ。


 樹氷(じゅひょう)と化していた樹は十年近く雪に埋もれていたにも関わらず、生きていた。

 厚い雪の下で、氷が融けるのをじっと耐えしのんでいたのだ。

 季節を勘違いしたサクラの樹が、時期を合わせたかのようにいっせいに咲きほこる。


 雪解けて地面が久々に顔を覗かせれば、土の香りがあたりをただよう。

 草花はさすがに枯れてしまったが、どこからか風に乗って種が運ばれ、大地に芽吹いた。


 草花の萌芽(ほうが)とともに虫が訪れ、香りに誘われた蝶や蜜蜂(みつばち)が舞っている。

 限りあるものたちが、命の喜びを(うた)う。



 俺やレゼル、幹部衆の何人かはルトレストの王城を訪れていた。


 地下から汲みあげられた水が城の各所からあふれるように流れだし、白石(はくせき)の壁を伝って街の水路や裏手の湖へと注がれていく。

 そのさまはまるで、城全体が水のヴェールに包まれているかのよう。


 人が造りし建造物とは思えぬほどの美しさ。

 これが、麗水(れいすい)の国ファルウルを象徴するルトレスト王城の、真の姿であった。


 そして、俺たちがいるのは王の間。

 賢王(けんおう)クルクロイ自ら、レゼルたちに礼を述べたいと招待されたのだ。

 彼はミネスポネによって地下洞の迷宮に隠されていたのだが、かすかに感知される龍の鼓動を頼りに、レゼルたちによって救出されたのだった。


 

 俺たちの前に立つ賢王は、名君の名に恥じぬ精悍(せいかん)な顔立ちの男だった。

 その真っすぐなまなざしからは、意志の強さを感じられる。


 人間の王としてはとても若い。

 ファルウルの長い歴史上でも最も賢く、若くして王位についた名君。

 民からの信望は厚く、クルクロイの治世になってすでに二十年以上経つとのことだが、年齢は俺より十歳上かそこらだろう。

 髪は黒々として艶やかだ。


 彼はバルコニーから、ルトレストの城下町を見おろしていた。

 氷人形と化して眠りについていたルトレストの住人たちも目を覚まし、徐々に元の生活を取りもどしつつあった。

 生命力が弱かったり、雑に凍らされた一部の人々は目を覚ますことができなかったらしいが、ほとんどの民は後遺症を残すことなく活動できているとのことだった。


 クルクロイはそんな自身の国民たちの営みを目を細めて見つめながら、俺たち騎士団員に語りかけてきた。

 聴くだけでこちらが背筋を伸ばしてしまうような、芯のある声だった。


貴殿(きでん)らの助けによって、我らファルウルの民は救われた。

 いくら感謝しても、とうてい感謝しきれるものではない。

 ……目が覚めたら、ルトレストの周辺が穴ぼこだらけになっていたのには笑ってしまったがな」


 幹部衆の何人かから、「コイツのせいです」と言いたげな視線を感じる。

 俺を売らないでくれ、もう仲間だろ……?


 レゼルが一歩前にでて、賢王に話しかけた。


「賢王、お尋ねしてもよろしいでしょうか。

 五帝将がひとり、ミネスポネはあなたに思慕(しぼ)にも近い執着を見せていたように思えました。

 なぜ敵である彼女があなたに想いを寄せていたのか。

 過去にいったいなにがあったのか。

 教えていただけませんか……?」


 レゼルの問いかけに、賢王はかすかに笑った。

 どこか寂しげで、自身の愚かさを笑うかのように。


 彼の視線はバルコニーを飛びでて、はるか遠くへと向けられている。

 空は、悲しくなるほどに青く澄んでいた。


「『賢王』、か。

 この国の民は皆、心優しい。

 こんな私でも、そう呼んで慕いつづけてくれている。

 ほんとうの私は、こんなにも愚かだというのに……」


 賢王は、自身の過去を語りはじめた。




 ――クルクロイが幼く、まだ王ではなかったころ。

 彼が年端(としは)もいかない少年だったころのことであった。


 幼くして病で母を失い、彼は深く心の傷を負った。

 しかし、王族の子として泣き言をいうことも許されず、不満を抱えた彼は城から抜けだしていた。

 幼いころから頭がよく働いた彼は、大人をうまく(だま)してまんまと城から脱走したのだ。


 城の秘密の逃げ道も利用して、彼は街の外へとでる。

 森のなかを進んでいくと、そこで彼は出会った。


 人間が仕掛けた罠にかかり、怪我を負って動けなくなっていた狐。

 狐はまだ幼く、その体表は氷細工のように美しい体毛で覆われていた。


 心優しい彼は、狐を罠から解放してやり、傷の手当をして逃がしてあげた。

 狐は北の山脈のほうに帰っていく際、振りかえって彼に感謝するように見つめていたという。


 クルクロイはたしかに賢い少年であったが、幼すぎてまだ知らなかったのだ。

 氷銀の狐が、ファルウルの人間と敵対し、長きにわたって争いを続けている妖狐(ようこ)であったのだということを。


 その後、ルトレストの城の者たちによって捜索が行われ、クルクロイは捕まって城に戻されてしまった。

 (傍らで話を聞いていた大臣の補足によれば、厳しく叱責(しっせき)される一方で、彼の脱走の手腕(しゅわん)の見事さに大人たちはひそかに舌を巻いていたという)。



 父王に厳しく(とが)められ、クルクロイは自室に閉じこめられて謹慎(きんしん)を余儀なくされた。

 彼は自室で亡くなった母に思いを馳せ、悲嘆に暮れるしかなかった。


 ――そうして幾日(いくにち)経ったころのことだろう。

 とある夜、クルクロイの自室の窓を叩く物音がした。


 城の高層にある自室の窓に、外から迫る人間などいるだろうか。

 龍にでも乗って飛んできたのだろうか? 


 不思議に思って彼が窓を開けると、ひやりと冷たい空気が彼の頬をなでた。


「あ――」


 窓縁(まどべり)には、狐が立っていた。


 美しい白銀の毛並み。

 このあいだ助けた狐だ。


 城の外壁を跳びつたってやってきたのだろう。

 手当をした日からまだ日が浅いというのに、狐の傷はすでに癒えているようだった。


「おいで」


 彼は寂しさを紛らわすかのように、狐を部屋のなかへと招きいれる。

 狐もまた、愛おしそうに彼に身を寄せてきた。


 そうして身を寄せあっていると、心の傷が癒やされていくようであった。

 狐のからだに触れると手は冷たかったが、心は通いあい、胸が暖かくなるのを感じた。


「お前もひとりなのか? いっしょだね」


 狐と寄りそって心地のよい時間を過ごしていると、やがてクルクロイの世話人が夜の見まわりにやってきた。

 定期的に部屋を訪れ、王子に入り用のものがないか尋ねにくるのだ。


 あわててクルクロイは、狐を窓から逃がした。


「今日はきてくれてありがとう。

 またおいで」


 そう言って、クルクロイは狐に別れを告げた。

 狐は窓の縁から跳びおり、夜の(とばり)へと消えていった。



 狐の訪問は、クルクロイの謹慎が解かれたのちも続いた。

 狐が夜な夜な訪れては、彼もまた快く迎えいれ、ともに時を過ごした。


 幼くして母を失った。

 王位継承者として厳しい教育を受け、限られた友だちしかいなかった。

 そんなクルクロイにとっても、かけがえのないひと時。

 そうした日々は数年にもわたって続いた。


 ――しかし、成長とともに彼は知ることとなる。

 氷銀(ひょうぎん)の狐が、人間の敵であるということを。


「お前はもう来るな」


 とある夜、狐に告げた。

 クルクロイは成長し、少年から青年へとさしかかろうとしていた。


 狐もまた、そのひと言だけで、彼の言わんとしていることを理解していた。

 彼の言葉に従い、おとなしく立ちさろうとする。


 ……そして去り際、狐はとうとう真の姿を現した。

 氷雪の結晶がからだを包みこむと、美しい女性の姿へと変貌(へんぼう)したのだ。


 目の前の信じられぬ光景に、クルクロイは驚嘆(きょうたん)した。

 たしかに、氷銀の狐のなかには人の女性の姿に化けるものがいるという伝承はあったが……。

 その女性もまた、少女から大人の女性へとさしかかっている年のころのように見えた。


「いつかこの時がくることはわかっていました。

 私の名はミネスポネ。

 次に相まみえるとき、私たちは敵どうしになってしまうのでしょうか?」


 ミネスポネは悲哀に満ちた表情を浮かべている。

 その氷の結晶のような瞳を見つめかえしながら、クルクロイは答えた。


「私はいつかこの国の王になる。

 自身が望もうが、望むまいが。

 ……私は人と氷銀の狐との争いの歴史に終止符を打とうと思う。

 この長く不毛な、戦いの歴史を終わらせるんだ」


 ミネスポネはうなずくと、再び氷雪の結晶に身を包み、闇夜に姿を消した――




 今回の内容は次回に続きます。


 さて、ここで第二部戦闘勝利記念!

 ミネスポネの戦闘方法を考える際に、100個アイデアを考えてから書きだしています。

 しかしとりあえず数をひねりだしたため、なかには珍アイデアと言えるものも……。

 そのなかから面白いと思いつつも、残念ながら不採用になったものをいくつか紹介いたします。


①空中を漂う氷の結晶の動きを感知し、相手の動きを先読み

(レゼルは風を使って氷の動きを操作し、逆にミスリードする)


 →見返してみて、こんなのがあったのに気がつきました。

 少年漫画っぽくてかっこよかったかもしれません。

 どこかで使えばよかった……。


②氷の巨人を操る

 

 →初期の段階では敵味方ともにもっとキャラクタを増やして多面的に展開し、戦略に焦点を当てるという構想もありました。

 (ちなみにメモのなかには『氷のブラキオサウルス(?)に踏みつぶさせる』なんて妙な派生も 笑)


③氷の息を吐く


 →これも考えたのを忘れていたパターン。

 雪女っぽくていいですよね。

 狐たちだけでなく、クラハあたりにも使わせておけばよかったです。


④生物を体内から凍らせて、体内に氷の刃を発生させる


 →接している相手を体内から凍らせるのはミネスポネがやってますが、氷の刃が突きでるのは残酷すぎ、あるいは強すぎでしょうか……。


⑤オーロラを出現させて攻撃

 

 →絵的にはきれい。

 ほかにも『氷をレンズのように形成して光で攻撃』なんていうのもありました。


⑥円形軌道上を氷の刃を走らせる。


 →これもなかなかかっこよさそう。


⑦スケートを滑り、華麗な舞いで相手を魅了する


 →ネタが思いつかなくなってくると苦しくなって、こんなのもでてきます。


⑧太陽が凍りついても僕は君だけを傷つけない

 

 →これは技ではなくて、某有名曲の歌詞の一部ですね。


 ……少しはお楽しみいただけましたでしょうか?


 次回投稿は2022/10/15の19時に予約投稿します。何とぞよろしくお願いいたします。

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