第61話 焚き火を囲んで
前回の場面の続きです。
◇
――俺たちは焚き火を囲みながら取りとめのない話を続けていたが、徐々に話題は戦いの話へと変わっていった。
「ぐわぁぁぁっ、とくる氷の塊も厄介なんだけどさ、こっちの攻撃もぜんぶ氷でとめられちゃうんだよなぁ!」
シュフェルが今日のミネスポネとの戦いを振りかえり、プンプンとむくれている。
「ええ、恐らく自動で私たちの攻撃に反応するように氷を操っているのでしょう。
大量の自然素を惜しむことなく使った攻撃に、無敵の自動防御。
いまだかつて出会ったことのない強敵です……!」
レゼルは緊迫した表情のままうなずいた。
「それにしても、ミネスポネの攻撃の凄まじさには驚かされたなぁ。
あれだけの量の氷を操って、自然素が尽きたり、からだに負担がかかったりしないのかな?」
俺の疑問に、レゼルが考えこんだ様子で答える。
ひとつひとつ、自分自身の答えを確かめるかのように。
「そうですね……。
まず第一に、ミネスポネたちは『共鳴』という手段を取っていません。
たしかに同じ『自然素の操作』ではあるのですが、原理が違います。
というより、彼女たちはそもそも人間ですらありません」
「人間ではない……か」
「どーゆーこと? 姉サマ」
シュフェルは不思議そうな顔をしている。
……ミネスポネたちがただの人間ではないというのは、雰囲気からなんとなく感じられていた。
しかし、まさかほんとうに人ならざる者であったとは。
「彼女たちは独自の律動を身に秘めています。
たしかに『龍の鼓動』に似た律動ですが、明らかに人間がもっているものとは違います。
……そして、その律動はほかの狐たちから感じられたものと同じものでした」
「! それじゃあ、もしかして奴らの正体は……」
「ええ。
どういう理屈かはわかりませんが、恐らく彼女たちと狐は同様の存在。
狐が人の姿に化けた者です。
そして彼女たちがもつのは、水氷の自然素が生みだす律動。
彼女たちは『共鳴』しているのではなく、自らのちからで周囲の自然素を取りこみ、行使していることになります」
――以前、ブラウジは『龍の鼓動』は自然本来がもつ律動であり、龍は生物よりも自然現象そのものに近い存在であると考察を述べていた。
つまり、氷銀の狐は人間よりもむしろ龍に近い存在であるということか。
それも、より自然界に近く純度が高い、氷雪の化身とも呼ぶべきもの。
……俺はてっきり、奴らが乗っている氷狐と『共鳴』して水氷の自然素を引きだしているのかと思っていた。
その考えは、まるで見当違いだったということになる。
「それじゃー、アイツらはアタシたちみたいに龍にちからを借りてるわけじゃないからからだに負担がかからないし、まわりの自然素を取りこんでバンバン使えちゃうってこと?
それってズルくない? 姉サマ」
「まったく負担がかからないわけではなさそうですが、概ねそういうことになりますね」
「それじゃあまさか、氷の壁をつくって、内部をキンキンに冷やしているのも……」
俺の言葉に、レゼルがうなずいた。
「自分たちに有利な環境をつくるためでしょう。
……水氷の自然素の強みは、『蓄えられること』。
オスヴァルトの炎やシュフェルの雷に顕著な特性ですが、強い出力を誇る属性こそ、不安定で保持しつづけるのに高い統制力が必要になります。
しかし、水氷の自然素は氷となり、水となり、蒸気となり……。
かたちを変えながら、安定して自然界のなかに存在しつづけているのです」
ミネスポネやあの双子の姉妹は人ならざる者。
氷雪の化身であるがゆえに、あの自然素に満ちた環境の恩恵をより強く受けている。
「自分たち自身が氷雪の化身だからこそ、より活きる戦略ってことか……!」
「はい。
……私は、ミネスポネが決してオスヴァルトよりも練度の高い戦士だとは思いません。
むしろ、神剣の扱いならオスヴァルトのほうが上なくらいかもしれません。
しかし、氷の壁内という条件下で戦う彼女のちからは、オスヴァルトをもはるかに凌駕します……!」
……さすがは五帝将のひとり。
自分の特性を理解し、最大限にちからを活かす環境をつくりだすのも実力のうちだろう。
事実、ミネスポネはオスヴァルトをもはるかに上回るちからを発揮し、レゼルとシュフェルを容易く撃退してみせた。
「なるほど。
華麗な装い、繊細な細工の短剣は見せかけだけで、奴は物量まかせの弾バカってことだな……!」
俺は腕を組んでうなる。
なんだか俺の言い回しがおかしかったらしく、レゼルは硬くなっていた表情を崩してふきだし、ようやく笑顔を見せた。
「そうですね。
彼女の氷雪は粗暴に見えて緻密に制御されていました。
決して考えなしの攻撃というわけではないのですが……。
物量まかせの、弾バカです」
レゼルはくすくすと笑っている。
俺は真面目に言ったつもりだったんだけどなぁ。
まぁ、彼女が面白がっているのでよしとするか。
「たしかに恐ろしい相手だ。
……でも、相手の正体が見えてきたことで対策が見えてきたな。
相手に有利な環境をいかに崩すか、そこが焦点になりそうだ」
「はい!
そして、私たちのちからもまだまだ底上げが必要であることがわかりました。
また明日から、たとえ短い期間でも集中して鍛錬を積んで!
次相まみえるときまでにもっと強くなりますよ、シュフェル……!」
「りょーかいっ、姉サマ!」
話がまとまったところで、レゼルとシュフェルが揃って大きなあくびをした。
それぞれおやすみをして、テントへと戻っていく。
俺は焚き火の火消しをしながら、今のレゼルたちとの話を振りかえっていた。
――課題は見えた。
明日からの躍進への期待を胸に、俺たちは眠りについたのであった。
次回投稿は2022/8/11の19時以降にアップロード予定です。何とぞよろしくお願いいたします。




