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第41話 道先案内


 さて、戦闘・新キャラ紹介から景気よくスタートした第二部ですが……。

『氷銀の狐』は、しばらく登場しません! 笑


 ただ、物語上はカレドラルに戻ってくる予定はありません。

 登場人物たちの残りわずかだけどかけがえのない日常を、のんびり楽しんでいただけたらと思います。


 そして今回は説明回……。


 翼竜騎士団がファルウルへと出発する前、大聖堂に付随(ふずい)する大会議室でのひと幕。


 大会議室は半球状のドームに、天井画として龍神たちが豪奢(ごうしゃ)ではないが緻密(ちみつ)に描かれており、複数の円形小窓から光が射しこんでいる。

 部屋の中央には大きな円卓があり、さらにその円卓をとり囲むように階段状の座席が広がっていて、聴衆が座れる構造になっていた。

 時刻は徐々に日が高くなってきたころで、明かりを灯さなくとも室内は明るい。


 中央の円卓を取り囲むようにレゼルやシュフェル、ブラウジ、そして幹部衆やカレドラルの大臣たちが集まっている。


 カレドラルを復興(ふっこう)させて数十日が経ち、ある程度国の内政を整える目途が立った。

 そこで、打倒・帝国ヴァレングライヒを目指して今後の方針を話しあう目的で会議が設けられたのだ。


 今回の会議にも、エルマさんやレゼルの厚意で俺は参加させてもらえることとなった。


 最初に、新生カレドラルの女王であるレゼルが会議の始まりを宣言した。


「さあ、皆さんのご尽力のおかげで、カレドラルも新たな歩みを進める目途が立ちました。

 これから先はいよいよ、帝国ヴァレングライヒの圧政に苦しむ国々を解放し、帝国をうち倒すべく軍を進めていかなければなりません」


 レゼルがさっそく本題を切りだし、会議の参加者たちは皆、思い思いの表情でうなずいている。


「これまで帝国本国が再侵攻してこなくてよかったのう。

 だが、ゲラルドの機龍兵軍が一夜にして壊滅し、炎の神剣の使い手であるオスヴァルトが敗れたのじゃ。

 さすがの帝国といえどもわれわれの戦力を測りかね、おいそれとは攻めてこられなかったはず。偶然ではなかろうゾ」

「ええ。……ただ、帝国としても準備を整えるのにはじゅうぶんな期間です。

 なにか動きを起こしているとしても不思議ではないでしょうね」


 現状を分析し、腕を組みながら話をしたのはブラウジ。それに答えたのはホセ。


 ホセは小柄で、黒髪を肩くらいで切った中性的な顔立ちの少年だ。

 戦場での判断力の高さと優れた戦略立案力が評価され、騎士団の若き頭脳として幹部入りしている。

 性格も年齢よりはるかに成熟していて、幹部として武力は多少劣っていても、皆からの信頼は厚い。


「帝国本土周囲には偵察兵を派遣(はけん)しています。

 帝国に進撃の気配があった場合には、レヴェリア各地に点在させている偵察兵の連携網を介して、最速で知らせが届くように手配してあります」


 今度はレゼルがうなずき、ホセの発言を受けて答える。

 帝国本土に対する警戒と対策は打ちあわせ済みで、ここまでの議論は予定どおりだ。


 レヴェリアの広大な空に浮かぶ島々のなかでも、カレドラルと帝国はちょうど対極の位置にある。

 容易に大軍を動かせる距離ではないことは、カレドラルにとって幸運だったと言えるだろう。

 実際、十年前の帝国の大規模侵攻で、カレドラルの陥落は世界各国のなかでも一番最後だった。


 さらに、レゼルが話を続ける。


「敵はまだ私たちの戦力を測りかねているようですが、正直なところ、帝国が本気で侵攻を開始すれば今のカレドラルの国力で(しの)ぎきることは不可能です。

 まだ多少時間の猶予(ゆうよ)があったとしても、カレドラルのみで帝国を超えるほどのちからを身につけることも困難でしょう。

 敵の初動が鈍いこの好機を、決して逃すわけにはいきません。

 今の私たちにできる唯一のこと、それは……」


「攻めて攻めて攻めまくって、帝国をぶっつぶすってわけね! 姉サマ!」

「守りっぱなしなんて格好(かっこう)つきませんぜ! それでこそ翼竜騎士団!」

「おー!」


 うれしそうに腕をぶんぶん振りまわしてはしゃいでいるのはシュフェル。

 そしてそれに便乗(びんじょう)して騒いでいるのはガレル、ティランだ。


 次々と幹部入りした部隊長たちのなかで、ガレルは唯一、前回のアイゼンマキナ戦の時点で幹部入りしている。


 軍事会議でなにかと俺に()みついてきていたのが、実は彼だ。

 直情的で感情をわかりやすく表す青年だが、嫌味な感じはしないので、不思議と憎めなかった。


「ガレル、ティラン、待ちなさい。

 いくら攻めると言っても帝国本土に直行したらひねり潰されてお(しま)いよ」

「うむ。事を()いては仕損(しそん)じるぞ……」


 淡々と同格の部隊長を制するのはサキナ、それに同調したのはアレスだ。


 サキナはレゼル同様に品行方正だが、どこか幼さが残るレゼルと比べるとより落ち着きがあり、成熟した印象を与える。

 彼女をよく知らない人から見ると、ちょっと冷たい印象も受けるかもしれない。

 (つや)やかな黒髪と整った顔立ちは誰かに似ていると思っていたら、ホセの実の姉だということを俺も最近知った。


 レゼルはブーブー言っているガレルとティラン、そしてシュフェルを見てほほえんでいる。


「ふふ、みんながやる気いっぱいで頼もしいわ。でも、サキナの言うとおり。

 今の私たちのちからでは、帝国に挑んだとしても返り討ちにあうのが(せき)の山。だから……」

「帝国に向けて進軍しながら、支配されている各国を解放。

 味方となる国を増やして帝国を囲いこむというわけですね」


 ホセが続けて、レゼルがうなずく。

 これまた、事前の打ちあわせどおり。


 このレゼルとホセの発言を受け、ほかの幹部衆や大臣たちがざわついている。

 期待に顔を輝かせる者、不安そうな表情を見せる者と、さまざまだ。


 大臣のひとりが手をあげて発言した。

 年を重ねた、知的な(たたず)まいの男性だ。


「しかし、帝国ヴァレングライヒの強大さは圧倒的でありまするぞ。

 いくらわが国の翼竜騎士団が機運(きうん)に乗じていると申しましても、はたして帝国の支配から解放しただけで各国が味方についてくれるものですかな?」


 彼は外交を(つかさど)る大臣だ。

 ブラウジと同様に旧カレドラル時代から国の要職に就いていたが、帝国侵略時に一般市民に紛れて隠遁(いんとん)していた。


 彼のように、旧カレドラル時代の要人で本来の職に復帰した者が何人かいる。

 とくに優秀な者たちは、たとえ生き恥をかいてでも生き残る準備をするように使命を与えられていた。


 彼らに極秘裏(ごくひり)に使命を下したのは、レゼルの亡き父で、旧カレドラル国王であったレティアスだそうだ。

 この事実からも、レティアスにはカレドラルがいつか必ず復興する未来が予見できていたことがうかがえる。


「そうじゃな。

 多くの国は帝国に恐れをなし、われわれとともに戦う気など、欠片(かけら)も起こらんじゃろうワイ」

「ええ……。私たちが勢力を広げるとともに、味方になってくれる国も増えていくこととは思いますが、どの順路をたどっていくかはとても重要です。

 ……そうした視点で見たとき、第一に解放するべき国は間違いなく、ここです」


 ブラウジの言葉を受け、レゼルは円卓に広げていた世界地図の一点を指さした。


 古びた大きな羊皮紙(ようひし)には、レヴェリアに浮かぶ島々の大まかな位置関係が(しる)されている。古代から伝わる貴重な資料だ。


麗水(れいすい)の国ファルウル。

 隣国であり、古き時代から永きにわたるカレドラルの友好国です。

 大国でもあり、国力としても申し分ありません」


 これには皆、納得の表情を浮かべている。

 レヴェリアには大小あわせて十数個もの島国が浮かんでいるが、カレドラルと並びたって帝国と戦える国はほんのひとにぎりだ。

 近隣にファルウルのような恵まれた大地をもつ友好国があるというのは、極めて幸運なことだった。


「ファルウルを帝国の支配から解放し、国交を取りもどすこと。

 そして願わくば共闘する約束を取りつけること。

 それがまず第一の目標となりそうですね」


 再度ホセ。

 反対意見をもっている人間は、その場には誰もいなさそうだ。


「そのとおりです。

 私たちはまず、ファルウルの解放を目指して進軍を開始します。

 しかし、私たちはこの十年間、祖国の復興を目指して旧カレドラル領内での戦いに明け暮れていました。

 各地に偵察兵を派遣しているものの、世界情勢を把握(はあく)するにはまだまだ情報が足りません。

 そこで」


 世界地図を見おろしていたレゼルが、顔をあげた。彼女の視線の先を、皆が追う。


 彼女は、まっすぐに俺のほうへと視線を向けていた。


「グレイスさん、あなたに案内をお願いしたいのです。

 あなたは私たちが国内で戦っているあいだも、行商に(ふん)して世界各国をめぐり、打倒帝国のための情報を収集していたとのことでした。

 先の戦いで戦略立案力に関してもホセに引けを取らなかったことを、私たちは高く評価しています」


 レゼルの身に余るお()めの言葉に、恐縮してしまう。


 だが、俺に断る理由なんてあるはずがなかった。

 帝国に殺された盗賊仲間たちの(かたき)をとることは、俺の悲願でもあったからだ。


 以前は俺に対して敵意を剥きだしにしていたシュフェルも、今は腕を組んで目をつむり、静かに話を聞いている。


「もちろん。

 俺にできることであればなんでも協力させてもらうよ」


 俺の答えに、レゼルがほほえみを浮かべてうなずく。


「グレイスさん、ありがとうございます。

 それではさっそくですが、ファルウルへ向けての進軍に関して、なにか提言はありませんか?」


 皆の注目が、ますます自分に集まっているのを感じた。


「そうだな……。

 帝国は各国に軍を駐屯させていて、そのいずれも強大な軍であることに間違いはないんだが……。

 そのうちの何国かには、皇帝直属の選ばれし騎士、『五帝将(ごていしょう)』が配属されて国を支配しているって話だ」

「五帝将……!」


 会議場が再度ざわつくが、俺は構わずに話を続けた。


「五帝将の情報は(おおやけ)にされていないから、俺も奴らの詳細をすべて知っているわけではないんだが……。

 ファルウルを支配しているのは五帝将のひとり、『氷華(ひょうか)』ミネスポネとよばれている女将(にょしょう)だ。

 恐ろしいほどの強敵なのは間違いないだろうな」


 カレドラルと隣接する大国ファルウルは、当然帝国の支配においても重要な拠点だ。

 貴重な戦力を()くのにはじゅうぶんすぎる理由だろう。


 とはいえ、翼竜騎士団にとっては最初から先が思いやられる話だ。


「十年前の大規模侵攻時には『五帝将』と呼ばれる(やから)はおらんかったから、その後にさだめられたのじゃろう。

 ワシらも何人か心当たりのある騎士はいるが、詳しいことまではわからんワイ。

 だが、強大な帝国軍のなかでも最強の五人じゃ。

 いずれも神剣使い、あるいはそれに(るい)する神具の使い手と考えてよいじゃろうな」

「どいつもオスヴァルトと同等、あるいはそれ以上ってことか……!」


 ブラウジが昔を思いだして語っている。


 オスヴァルトは前回、レゼルをあれ程苦しめた相手だ。

 オスヴァルトと同等以上の騎士を、帝国は少なくとも五人は(よう)していることになる。


 さらにその背後には、レヴェリア最強と呼ばれた龍騎士レティアスですら手も足もでなかった帝国皇帝が控えているのだ。先が思いやられるどころの話ではない。


「オスヴァルトは、私を殺すつもりはありませんでした。

 全力をだしていなかったとまでは言いませんが、彼が本気で私を殺すつもりで闘っていたなら……。

 今とは違う結末を迎えていたかもしれません」


 レティアスの命により、乗りこえるべき壁として立ちふさがった忠義の騎士オスヴァルト。

 レゼルは彼との闘いを思いだし、その胸には複雑な想いが去来(きょらい)しているようだった。


「そのオスヴァルトを超える騎士たちが、これからは本気で私たちを殺すために襲いかかってくる……!」


 レゼルの言葉に、会議場の誰もが黙りこんでしまった。

 重い空気が場を占めてしまったことにはっと気づき、レゼルが明るい調子を取りもどして、皆に語りかける。


「でも、大丈夫。

 私も、みんなも、厳しい戦いを乗り越えて強くなっています。

 皆でちからを合わせれば、必ず次の戦いも勝てます」

「そうそう!

 前の戦いのときはこのオッサン(グレイス)のせいで城の入り口に置いてけぼりにされたけど、今は味方も増えたもんね。

 ミネストロネだかスポンネーゼだか知らないけど、けっちょんけちょんにしてやるわ。

 次はこのアタシに任せなさい、ガハハハハハ!」

「前回は仕方なかったんだから許してくれよ……」


 皆が重い表情で沈むなか、自信満々に胸を張るシュフェルがおかしかったのか、あるいは情けなく謝る俺が笑いを誘ったのか、場の空気が和んだようだった。

 当のシュフェルはなにがおかしかったのかわからず、不思議そうにまわりを見まわしている。


 ……彼女がいっけん粗暴(そぼう)に見えながらも、皆から愛されている理由がわかる気がする。

 レゼルもそんなシュフェルを(いと)おしそうに見つめて、ほほえんでいた。


「最初に話したとおり、私たちに残された時間の猶予は多くありません。

 急いで進軍の準備を整えて、五日後には出発しましょう。

 これからはさらに過酷(かこく)な戦いが待っています。

 時間は少ないですが、入念に準備を整えて」

「「はっ!!」」


 レゼルの言葉に、会議場にいた皆がちから強く応じた。




 次からはわりとのほほんとした雰囲気でいきます。


 次回投稿は2022/6/6の19時以降にアップ予定です。何とぞよろしくお願いいたします。

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