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第3話 貧民街と機龍兵


 酒場でアイラさんと会話をした翌日。


 グレイスは繁華街に商売をしに行くのですが――。


 翌日の朝、俺とヒュードはジェドの繁華街(はんかがい)に出向いた。


 その日は祝日であるということもあり、街はにぎわっていた。

 繁華街の中心部には大広場があり、そこから四方に主街道(メインストリート)となる広い道がのびている。


 大広場では楽器隊が帝国本国で流行りの音楽を演奏し、それに合わせて若い女の子たちが踊っている。

 聴こえてくる陽気なフルートの調べが胸を湧きたたせる。

 俺のように、商品を並べて販売しようとしている者も数多くいた。


 日中の明るい時間帯は巡回している機龍兵(きりゅうへい)の数も少なく、だからこそ街のどこからでも見える巨大な鉄の城が異様に感じられた。

 街の人間はみんな慣れてしまって、誰も気に留めていないようだが。


 ……とは言え。

 俺も鉄の城に見惚(みと)れて(ほう)けているわけにはいかない。


 俺はおもむろに『龍直輸送(りゅうちょくゆそう)! 帝国服飾(ふくしょく)販売店』と書いた看板を掲げる。

 商品が映える赤色のカーペットの上には、運搬してきた絹製品を整然かつ美しく並べた。


 このような気分が明るくなる日こそ消費者心理が高揚し、購買意欲(こうばいいよく)が湧きあがるというもの。

 俺は自身のなかを流れる商人の血が熱く煮えたぎるのを感じた(帝国士族の子だが)。


「ヒュード、準備はいいか。行くぞ……!」

「グル……!」


  ひとつ大きく息を吸い、腹の底から声を張りあげた。


「はいはいはい! ちょっとそこの男前なお兄さん! そう、君! 寄っていって見ていって、この帽子(ぼうし)なんてどう、男前に(みが)きがかかるよ、あ! そこの素敵なお嬢さんこのドレスなんていかがかしらパーティーの主役になること間違いなしだし、ちなみに服・アクセサリーだけじゃなくて香水もあるよっ」


 販売開始したのと同時に、目の前の通行人に片っぱしから声をかけた。


 客に煙たがられることなど気にしてはいけない。

 少しでも興味を持った人間がいれば、()める。鬼のように褒めちぎる。


 取引が成立したときには、隣に座っている(ヒュード)が買い手を祝福するように遠吠えをあげるという段取りだ。


 ――結果。

 俺たちが販売した服飾品は飛ぶように売れた。


 そもそもにして取りあつかっている商品の質がよいのだ。

 帝国本土の流行を押さえつつ、俺が独自に築きあげた流通ルートを使って、通常の市場ではなかなか出まわらない良品を取りそろえてある。

 大量製造・大量運搬ではできない、これぞ個人経営の真髄(しんずい)だ。


 笑いがとまらないとはこのことである。やっぱり商売って楽しいな。


「……さぁ、ヒュード。行こうか」


 ヒュードは小さくひと鳴きし、了解の意を示した。



 午前中の販売を終え、午後からは仕入れだ。

 俺たちは街なかで簡単に昼食を済ませたのち、郊外のほうへと向かった。



 帝国移民が住む華やかな区域を離れ、貧民街(ひんみんがい)に一歩入れば、この街の真の姿が見えてくる。


 同じ石づくりではあるが、通りすぎる建物はどれも荒れはてていた。


 道端(みちばた)には物乞いをする気力すら失った数多くの人々。

 彼らはただ死を待つように転がっていて、なかにはほんとうの死体も混ざっている。


 カラスが死体をついばんでいるが、誰も追いはらおうとはしない。

 そんな余裕のある人間がいないのだ。


 この貧民街にいる人々のほとんどは、旧カレドラル時代の領民で、『(たつ)御加護(みかご)(たみ)』と名乗る民族だ。

 カレドラルの険しい山岳地形(さんがくちけい)で自らを(きた)えあげ、龍を単なる移動の手段とするのではなく、龍に乗って戦う技術を確立させたのが彼らだ。


 かつて、彼らが(よう)していた『(よく)(りゅう)騎士団(きしだん)』は世界最強の軍として名高く、その名声を世界にとどろかせていた。

 (おごそ)かでありながらも美しい山々を飛び交う龍騎士たちの姿こそが、この国の象徴であった。


 だが、突如として現われた現・皇帝によって帝国ヴァレングライヒが(おこ)された。

 カレドラルは侵略され、翼竜騎士団は壊滅(かいめつ)することとなる。


 貧民街では、日中でも多数の機龍兵が街を巡回し、龍御加護の民を監視している。

 この機龍兵こそが、翼竜騎士団の制圧をはるかに容易にしたと言われる兵器だ。


 機龍兵とは、正確に言えば機龍に乗った兵士のことである。


 機龍は龍を(かたど)った完全自律型の機械であり、その体表は鋼鉄で覆われている。

 翼による飛行で本物の龍と同等の機動力をもち、体内には火炎放射器などの兵器も多数仕込まれている。


 また、乗っている兵士の操縦(そうじゅう)によって思いどおりに動かすことが可能で、生きた龍よりも空中での姿勢が安定しているため、少ない訓練で兵士を量産できたことも戦争において有利であった。


 この機龍を開発した張本人こそが、鉄炎国家アイゼンマキナの宰相(さいしょう)ゲラルドだ。

 彼は独自に築きあげた機械工学で次々と兵器を開発し、その功績(こうせき)がたたえられてこの国の宰相にまでのぼりつめた。


 彼の発明した機械は帝国移民を始め、世界じゅうの人々の暮らしを豊かにしたが、こうして旧カレドラル領民への迫害を続けているのであった。



 俺はヒュードに中身が軽くなった宙籠(そらかご)を引かせ、機龍兵に目を付けられぬよう静かに貧民街のなかを歩いていく。

 所定(しょてい)の場所に近づくと、建物と建物のあいだの細道(ほそみち)に入った。


 さらに細道を進んでいくと、誰も使わなくなった倉庫に行きつく。

 当然その倉庫も荒廃(こうはい)していて、俺は(かぎ)さえかかっていない扉を開けて、なかに入る。倉庫のなかはカビ臭く、(あか)りは窓から差す光だけなのでうす暗い。


 奥のほうでは、ひとりの老人が椅子に座って俺を待っていた。

 フードを目深(まぶか)に被っているが、口もとはしわだらけで、声もしわがれている。


「お待ちしておりましたぞ、グレイス殿」

「あぁ、久しぶりだね。

 いつもの仕入れにきたよ」

「お求めの物はこちらに」


 俺は老人に代金を支払い、宙籠のなかに荷物を積みこんでいく。

 おおむね荷物を積みこみおえると、俺は老人に礼を言いがてら、世間話を持ちかけた。


「最近はこの界隈(かいわい)で何か面白いことあったかい?」

「さぁ、面白い話はとんと聞きませぬ。

 ……ただ、どこかの馬鹿な金持ちが飼っていた毒蛇が逃げだしたとかで、街が大騒ぎになったそうな。

 グレイス殿もゆめゆめ気をつけなされ」

「……ふぅん」


 老人はなにやら含みをもたせて不気味に笑っている。


 この老人が笑っているときは、ろくなことが起こらない前触(まえぶ)れだ。

 だが、たとえ探りを入れても自分が話すつもりがないことは絶対に話さない。


 うす気味悪く感じながらも、俺はその場を後にすることにした。




 グレイスの商売好きは本物です。


 何かにつけては商売にできないか考えています。


 とは言え、彼には何やら怪しいところもあるようで……。



 カレドラルのもともとの住人たちも、かなり苦しい生活を強いられています。



 さて、次回ようやく主人公が登場です。


 イントロ長くて申しわけございませんが、どうぞお付き合いください!

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― 新着の感想 ―
[良い点] グレイスさんは扱っている商品にも自信があって、楽しそうに商売をしているんですね(*'ω'*) そこから一転、貧民街の「敗戦国の民」としての人々を見て、ちょっと複雑な気持ちになりました。
[良い点] 龍直輸送というパワーワード(´艸`*) 本文から察するに、寅さん並に売が上手い感じですね!
[良い点] 描写が細かい。 読みやすい。 設定が練られている雰囲気がある。 [気になる点] 話に動きがほとんど無い。 3話まで読んだが、語り手がたわいも無い会話しかしていない。 そしてそれが主人公では…
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