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第18話 空に浮かぶ疑念の一点


 前回の場面の続きです。


 クラムが無事にシュフェルを連れもどしたのを確認すると、レゼルは再びオスヴァルトに向かって剣を構える。

 だが、オスヴァルトは剣を降ろしたまま、持ちあげようとはしない。


「どうしたのですか、オスヴァルト!

 私はまだ負けていません!」


 レゼルがいきり立つが、オスヴァルトはやはり動こうとはしない。


「レゼル様、剣を降ろしなされ。

 このちからの差がわからぬほど、(おろ)かではありますまい」

「……!」


 レゼルは言いかえすことができなかった。

 先ほど斬り結んだだけで、ちからの差はじゅうぶんに思い知っていた。


 経験値の差、そして、龍騎士としての圧倒的な実力の差。

 オスヴァルトはまったく本気など出していなかった。


「あなたの剣を振るう速さはすばらしい。

 繰りだす技の速さのみならば私を(しの)いでいることでしょう。

 だが、()()()()()()()()()()

 膂力(りょりょく)や技術、体格差(リーチ)、すべての面において上まわっている私に、あなたが勝てる道理はありませぬ」


 ――自分(わたし)は勝てない……?


 レゼルは自身にかけられた言葉の呪いを振りほどこうと、首を懸命(けんめい)に横に振った。


「勝負の行く末など、龍神(りゅうしん)様の思し召すところ。

 最後までやってみなければ、わかりません!」


 レゼルはエウロに合図をし、再度オスヴァルトに向かって突進した。

 オスヴァルトの間合いのなかに入ったところでいったん深く身を沈めたあと、エウロとともに身を()じり、炎龍のからだの下から突きあげるように攻撃の道筋を変える。


旋風(トゥルビネ)』!!


 レゼルは巻きあがる鋭い風とともに、高速で回転しながら斬りあげた!


 しかし、この攻撃もオスヴァルトには容易に見切られてしまう。

 旋風は炎でうち消され、レゼルの双剣は二本とも大剣で受けとめられてしまった。


「リーゼリオンは羽根のように軽い剣。

 刃を風に乗せ、さらに龍の重みを加えることで威力を高めているのは見事。

 だが――」


 オスヴァルトが力任せに剣を下から上に振りはらうと、レゼルはエウロごと空高く吹きとばされてしまった。


「レゼル様、あなたは神剣を使いこなせていない。

 風に任せて剣を振るうばかりだ。

 それでは、()()()()()()()()()()()()のと何も変わりはしない!」


 レゼルはまだ空中で体勢を取りもどせぬまま、驚きの表情を浮かべる。

 そんなレゼルの視線など気にする素振りもなく、オスヴァルトは剣を持たないほうの手を宙にかざしていた。


「あなたが巻きおこしたそよ風で、(ほこり)が舞っていますな」


 オスヴァルトは鬼神のような表情で笑みを浮かべると、龍との共鳴の深度を深めた。

 オスヴァルトと炎龍のまわりに、激しい炎が舞いあがる!


爆炎葬(フオ・エクスプロジア)』!!


 オスヴァルトが燃えさかる剣を振るうと、戦場に舞った細かな粉塵(ふんじん)が核となって火の勢いを増し、爆発的に燃えひろがった!


 いや、燃えひろがるという言いかたでは生やさしい。

 それはまさしく、苛烈(かれつ)な爆発現象そのものであった。

 爆炎が、レゼルを飲みこもうと襲いかかる!


「ッ!!」


 レゼルは再びリーゼリオンから巻きおこす風で身を守ろうとしたが、爆風ですべてがかき消されてしまった。

 高濃度の炎の自然素が身を焦がし、彼女は苦しみの声をあげた!


「あぁっ!!」


 レゼルが爆発に巻きこまれると、遠くから勝負の行く末を見守っていた味方兵たちからも悲鳴があがる。

 シュフェルがレゼルを助けに行こうとするが、味方兵たちに抱きかかえられてとめられる。


「レゼル様!!」

(ねえ)サマぁッ!!」



 爆発はあたり一帯を吹き飛ばし、更地(さらち)にしてしまった。

 しばらくは爆炎が燃えさかっていたが、徐々に火が収まっていく。

 爆炎(ばくえん)黒煙(こくえん)が収まったあとには、焼け焦げた地面の上にレゼルとエウロが倒れていた。


 彼女たちは全身に重度のやけどを負ってしまっていた。

 ……肉体が原型を保っていること自体が奇跡。彼女たちが風の自然素で抵抗した結果である。


 炎龍から降りたオスヴァルトが、倒れているレゼルのもとへと歩いて近づく。


「……」


 とどめを刺すべく、オスヴァルトはゆっくりと大剣を振りかぶると、その剣はレゼルに向かって振りおろされた!


 ……しかし、剣の刀身がレゼルに届くことはなかった。


 ブレンガルドの赤き刀身が白金(プラチナ)の盾にあたり、硬い音を響かせた!

 龍から飛び降りたブラウジが間一髪でレゼルの前に滑りこみ、盾でブレンガルドを受けとめたのであった。


「オスヴァルトよ。

 この勝負、ワシが預かろうゾ」

「ブラウジ……!」


 オスヴァルトは剣を振りかざしたまま、ブラウジをにらみつけた。

 ブレンガルドの熱が、白金の盾の接している部分を赤銅(しゃくどう)色に光らせている。


「老いぼれが。

 よくぞ今まで戦場で生きのびていたものだな……!」

「フン、当たり前じゃ。

 裏切り者のオヌシの首をとり、この国を取りもどすまではおちおち死ねんワイ」


 ブラウジが鼻を鳴らして毒づいた。


「ふっ、『勝負を預かる』だと?

 それはちからで対抗できる者が使う言葉だ。

 貴様にいったい何ができると言うのだ?」

「年寄りの言うことは黙って聞くもんじゃワイ」


 オスヴァルトとブラウジはしばしそのままにらみあっていたが、やがてオスヴァルトのほうが身を引き、炎の大剣を背中に納めた。

 ブレンガルドの刀身は先ほどまでの熱気が(うそ)のように鎮まっている。


「……よかろう、古い知り合いのよしみだ。この場は引いてやる。

 だが、もしまたのこのこと我らの前に現れるようであれば、そのときはたとえレゼル様であっても生かしはせぬ」


 ブラウジはレゼルを抱きかかえた。

 重装龍兵五人衆も龍に乗って駆けつけ、エウロを抱えて連れもどす。


 ブラウジは去り際に振りかえると、オスヴァルトにこう宣言した。


「オスヴァルトよ、覚えておけ。

 姫様(ひめさま)は必ずやまた立ちあがり、次こそはオヌシを倒す!」


 ブラウジの言葉を受け、オスヴァルトは不遜(ふそん)に笑った。


「楽しみにしていよう」


 ブラウジと重装龍兵五人衆が味方の陣営に戻り、そのまま翼竜騎士団は撤退(てったい)を始めた。

 敵が敗走していく様を眺めているオスヴァルトに、機龍に乗った兵のひとりが話しかける。


「オスヴァルト様、敵を追撃しなくてよいのですか?」

「……ふっ、あんな雑魚ども、何度立ちむかってきても結果は変わるまい。

 それよりも、この給油庫はわれらが鉄炎国家の(かなめ)だ。

 ここの警備を手薄(てうす)にすることこそが奴らの真の狙いかもしれぬ。決して警備を緩めるな。

 今の戦闘中、給油庫には何も異変はなかったな?」

「そ、それが……。

 非常に不思議なのですが……」


 機龍兵は何かを言いづらそうにしている。


「どうした? 何かあったのか?」

「実は、給油口の手前、最終警備線の兵士が数人、眠らされておりました。

 しかし、燃料油庫には火をつけられた様子や、何かを混ぜられた様子はありません。

 燃料油を盗んだ形跡すらないのです」

「なんだと……?」


 オスヴァルトは不審の表情を浮かべた。


「もっと給油庫を念入りに調べろ。

 給油庫の燃料油を使って、機龍の動作確認も行うんだ」

「はっ!」


 指令を受けた機龍兵はすぐに部下に指示を出しに行く。


 ――奴らの真の狙いは、給油庫を焼きはらうことではなかったのか? 

 そして、これだけの警備のなか、最深部まで潜入できた者がいる……?


 オスヴァルトは、すでにはるか遠くにまで去ってしまった翼竜騎士団を見やった。

 空を逃げてゆく者たちは、オスヴァルトの胸中に影を落とした疑念のように小さな一点となり、やがて広大な空の彼方(かなた)へと消えてしまった。




 オスヴァルトは『粉塵爆発』の原理をもちいて攻撃しています。


 粉塵爆発……粉塵が大気などの気体中に浮遊した状態で、引火して爆発を起こす現象。


 基本的には可燃性の粉塵で起こる現象ですが、稀に砂塵でも起こりうるそうです。



 また粉塵ネタですみませんでした。


 旧カレドラル領の硬い土質でも戦場に荒い砂は舞うものの、テーベの炭鉱跡のように目くらましになるほどの細かい粉塵ではない、ということにしています。


 次回は3/20の18時以降にアップします。何とぞよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] あぁ……オスヴァルトはやっぱり強い(; ゜Д゜) レゼルさんがオスヴァルトを倒せるようになるには、まだまだ訓練が足りないということなのでしょうか……。 給油庫のほうも気になります! 最深…
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