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第15話 鉄炎宰相ゲラルド


◇グレイスの視点です

◆神の視点です


 時を少し(さかのぼ)り、翼竜騎士団(よくりゅうきしだん)が戦いに勝利し、テーベを解放したすぐあとのこと。


 ジェドの街にそびえ立つ鋼鉄の巨大な城は、正式には『()(てつ)(じょう)』の名で知られている。


 その覇鉄城の内部にある一室。

 全方位に硝子窓(がらすまど)が張ってあり、ジェドの街並みを俯瞰(ふかん)することができる。


 時刻はすでに夕暮れのころであり、部屋のなかはうす暗い。

 室内のいたるところで機械が無造作かつ無目的に(うごめ)いており、まるで生きものの内臓(ないぞう)のなかに迷いこんでしまったかのような錯覚(さっかく)におちいる。

 機械の関節部や歯車がこすれ、(きし)む音も耳ざわりだ。


 そんな気味の悪い部屋の内部を、貧相(ひんそう)なからだつきに蒼白い顔をした男が落ちつきなく歩きまわっている。


 この男こそが鉄炎国家の宰相、ゲラルドだ。


 独自に開発、発展させた機械工学で名を()せ、現在の地位にまで昇りつめた。

 その機械工学において発揮される頭脳は、超人の域に達している。


 ゲラルドはいらいらとした面持(おもも)ちで、肩を怒らせながら部屋のなかを歩いていた。

 髪は白髪(しらが)混じりで、しわを深く刻んだ顔に、怒りでさらにしわが寄っている。


 そこへ、ひとりの兵士が入室してきた。

 金属製の扉が、手を触れることなく左右にひらく。


「ゲラルド様!

 たった今確認がとれました」

「ずいぶん遅かったなァ。

 ……で、どうだったって?」

帰還(きかん)した駐屯軍(ちゅうとんぐん)司令部の者たちから聴取(ちょうしゅ)しました。

 やはり戦いのすえ、テーベは奪還(だっかん)されてしまったとのことです。

 駐屯軍は壊滅(かいめつ)、翼竜騎士団に与えた損害はほぼ皆無(かいむ)です」


 続いてその兵士は炭鉱から噴出(ふんしゅつ)した土煙が目隠しとなり、固定砲台が破壊されてしまったこと。

 特戦機龍の三号機もレゼルによって破壊されてしまったことを説明した。


「オレ様の可愛い『第参式(だいさんしき)』をぶち壊しやがって……。

 許せねェ、あの小娘(レゼル)……!」


 ゲラルドは鬼のような形相(ぎょうそう)でからだを震わせている。


「……で?

 ノコノコと帰ってきた司令部の面々(めんめん)はどこで何してやがんだァ?」

「聴取を終えたあとは、城内で待機させておりますが……」

「全員処刑しろ。圧殺(あっさつ)刑だ」


 その言葉を聞き、兵士は顔を青ざめさせた。


 ――『圧殺刑』。

 ゲラルドが開発した機械により、足のほうから車輪のあいだに挟まれて生きたまま潰されていく。

 その刑は執行されたものに地獄の苦しみを与え、あとにはペラペラの紙のようになった遺体が残されるのみ。


 兵士は想像するだけで震え、ゲラルドに思い留まらせるように述べた。


「はっ、しかし、総司令官は責任をとって自害しておりますし……。

 彼らにも残される家族が……」

「関係ないだろォ。

 任されていた基地を捨ておいて逃げ帰るなど言語道断(ごんごどうだん)

 わが鉄炎国家の将兵たる者、勝利を収めるか戦場で散るかのどちらかのみ。

 ()れ。一族もろとも全員だ」

「……承知いたしました……!」


 ゲラルドの命を受けた兵士がうなだれたまま部屋をでていった。


 と、そこで初めて部屋の影にひとりの大柄な男がいることにゲラルドが気づく。

 男は両腕を組んだまま、ゲラルドに語りかけた。


「さすがはゲラルド殿。容赦がありませぬな」

「いたのかオスヴァルト。

 部屋に入るときは知らせるように言っていただろォ」


 ゲラルドは男のほうをにらみつけた。


「オスヴァルト、さっそく命令だ。

 翼竜騎士団どもを壊滅させてこい」


 ゲラルドからの命令を受け、オスヴァルトとよばれる男は笑った。


「ゲラルド殿ともあろう御方(おかた)が、何も(あわ)てることはございませぬ。

 放っておいても近々奴らのほうから攻めてくることでしょう。

 粋がっていても所詮は小蝿(こばえ)、潰すことはいつでもできます。

 わざわざこちらから動いて付け入る隙を与えることはありますまい」


 ゲラルドは(かん)ぐるような目でオスヴァルトを見た。


「……オスヴァルト。

 キサマ、そんなこと言ってあの小娘どもを(かば)っているんじゃないだろうなァ」


 オスヴァルトは再び事もなげに笑った。


「まさか、左様なことはございませぬ。

 ご心配せずとも、次に奴らが挑んできたときは私が直々(じきじき)に出向いて、迎え討ちましょう」


 ゲラルドはフン、と鼻を鳴らす。


「その言葉を信じるぞ。

 キサマが持つ()()で、奴らの息の根をとめてやれ」

「承知いたしました」


 オスヴァルトはそう言い残すと、身を翻して部屋をでていった。

 うす暗かった部屋の闇が、さらに濃くなっていく。




 次回は2022/3/8の19時以降にアップ予定です。何とぞよろしくお願いいたします。

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