第12話 嘘みたいなまぐれ
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固定砲台と巨大機龍を続けざまに撃破した勢いはとまらず、翼竜騎士団は勝利を収めつつあった。
敵兵はあらかた片づき、大勢は決している。
あとは、まだ戦意を保っている残り少ない敵兵を倒すだけだ。
しかし、騎士団側にも消耗しきっている者たちがいた。
「ハァッ……ハァッ……ハァッ……!」
レゼルは大きく肩で息をしていた。
味方を護るために大技を連発しつづけた結果、心身の疲労が限界へと達していたのだ。
前線ではシュフェルがまだ戦っているが、彼女ももう龍の御技は繰りださずに、素の剣技で戦っている。
エウロになんとかまたがりながらもふらついているレゼルの背後で、砕けた機龍の残骸がわずかに蠢いた。
残骸に身を潜めていた敵兵が、籠手に仕込んだクロスボウで矢を撃ちはなつ!
レゼルは自身に迫る矢に気づき振りむいたが、疲労が強く、反応が遅れてしまった。
「姫様ァ!」
近くにいたブラウジが危険に気づき叫んだが、レゼルはまだ回避行動をとれずにいる。
矢は真っすぐに、彼女の左胸へとめがけて飛んでいった!
……だが、弓矢はレゼルには刺さらなかった。
すんでのところで、矢は俺の投げたナイフに空中で当たり、軌道を変えたからだった。
残骸に隠れた敵兵が再度クロスボウを構えていたので、こちらへも再びナイフを投げた。
ナイフはうまいこと飛んでいき、クロスボウの台座を貫く。
……間一髪、間に合ったようだ。
ブラウジが駆けつけ、矢を撃った敵兵にとどめを刺す。
「……グレイスさん、ブラウジ、ありがとうございます。感謝します」
息があがったままふらついているレゼルが、俺とブラウジの助けに気づき、礼を言う。
「もう勝敗は決した。
あんたは引きさがって、からだを休めたらどうだ」
「いえ、それはなりません。
皆がまだ戦っているのを残して、私だけ身を隠すわけにはいきません。
シュフェルも疲弊していますが、まだ闘っています」
レゼルは首を横に振った。
決意に満ちた表情だ。
このまま無理に説得を続けても、彼女はけっして引きさがらないだろう。
「……そうか、わかった。
偉そうなこと言って悪かったな。
また援護はするけど、あまり無理はしないでくれ」
「ええ、気を付けます。どうもありがとう」
レゼルはほほえみを見せ、エウロに指示を出してまだ闘っている味方のもとへ向かった。
俺も飛んでいったレゼルたちを追いかけていこうと思ったのだが、ブラウジがやってきて声をかけてきた。
「姫様を助けてくれて、かたじけないのう」
ブラウジは笑顔で、両手を広げて礼を述べる。
彼から感謝の意を表されたのは、これが初めてかもしれない。
「これはこれはご丁寧に。どういたしまして」
俺も右手を胸に添えて、丁重にお返しした。
だが、兜の奥でブラウジの眼光が鋭く光る。
「しかし、飛んでいるクロスボウの矢に投げナイフを当てるなど、大した腕前じゃ。
一介の行商人の技とはとても思えんがのう……?」
ブラウジの言いがかりに、俺は肩をすくめてみせる。
「こう見えても帝国貴族の端くれだからね。
護身のために投げナイフの心得があるのさ。
それに、たまにあるんだよ。思ったとおりにナイフが飛ぶことが。
偶然だね」
「なるほどのう。
さすが帝国貴族というわけじゃ。
その偶然が、姫様を救ってくれてよかったワイ」
ブラウジは俺に疑惑のまなざしを向けていたが、やがて視線を切るとレゼルの後を追って龍で飛んでいった。
やっぱりちょくちょく怪しさを醸しだしてくるグレイスさんなのでした。
今回はキリがいいところまで。短めですみません。
ちなみにレゼルは持久力がないわけではなく、消耗した分だけの戦績をあげています。
風の双剣(神剣)を使用して出力が大きい分、消費も激しいというイメージです。
次回は3/1(火)の19時以降にアップする予定です。何とぞよろしくお願いいたします。