ファーストコンタクト(仮)
見知らぬ人に強く腕を掴まれ、まず思ったのは恐怖より驚愕。
(どうして、この人は私の心の中に入ってこれるのか?)
一瞬にして心を許せる感覚がより一層私を安堵させ、その錯覚に不安を覚える。
信号がカチリと鳴り光り、咄嗟に私は腕を引き剥がした。
強引にでも離さないと何かが戻れないような気がして…
心臓の音が激しく、呼吸を整えるには時間がかかりそうだった。
ここになって初めて、私は相手の顔を見た。
相手も、彼も驚いたような顔をしていた。
私の事を知っているのか、それとも私の気のせいだったのだろうか。
言葉を発する気が抜け、その間も彼は私の顔を射抜くような瞳で見続けた。
心臓はまだバクバクとうごめいたままだ。
「ごめん、人違いだった。」
全体的に淡いイメージとは違う、通った声が耳に届いた。
(そうだ、この人のちぐはぐな感じは、瞳と声がイメージと合わないからだ。)
よく見ると一つ一つのパーツが小さく整った顔立ちをしているが、印象に残りづらい。ただ瞳だけが大きく惹きつけられてしまうのだった。
彼は一言絞り出すように言ったきり、私の顔を見なくなった。
なぜだかはわからない。私はそれがとてもかなしかった。