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第2話  自宅が怪奇スポット化していた件について

沙羅の高校生活が始まります。

……ですが、何かがおかしいような?

 部屋中の段ボールが片付かないうちに、入学式が終わり、今日が本格的な登校日だ。

 朝七時に目が覚め、制服に着替え鏡に全身を映す。

 

 丈はぴったりだし、皴もない。

 髪もきちんと整っている。

 制服は緑の縁取りの入った紺のブレザーに、チェックのプリーツスカート、リボンタイ。

 

 もう一度鏡を見る。

 ミルクティー色の髪に金茶の瞳。

 腰まで伸びた髪は、風に乗って金色にたなびき、瞳は光を弾いて琥珀アンバーに輝く。

 たまご型の面立ちに、白い肌、大きな瞳を縁取る長いまつ毛。

 自分で言うのもなんだけど、綺麗な方だと思う。

 

 鏡から目を離し、部屋を見渡す。

 懐かしい私の部屋。

 やっぱり帰って来られてよかった。

 心がふっと軽くなる。


「行ってきま〜す!」


 空は晴れていて、気分よく門を出ようとしたとき、


(あ……れ……?)


 誰かが門の向う側からこちらを伺っている。

 ランドセルに黄色い帽子。幼稚園児だ。まるでひよこの軍団のように、ぴよぴよと囀る声が聞こえてきそう。

 彼らは好奇心に満ちた目で、ひそひそ話をしながら息を殺して立っていた。


「今度は外人の女でしゅ。ユルチュキジュチャイジェしゅ!」


 “忌々しき事態”と言いたいのだろうが、回らない舌で難しい言葉を使うのはどうかと思う。しかも、人の家を覗くなんてとんでもないことだ。

 

 でも、相手は小さな子供なのだ。

 苛立つ心を抑え、優しく声をかけようと近寄ると、

 

「ぎゃぁっ〜〜!!! 逃げろぉ〜〜〜!!!」

 

 悲鳴のような声をあげながら、ひよこたちは蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。

 中には、“ママァ〜”と、本気で怖がって泣いている子もいる。


 子供たちの視線の先を見る。

 

 ―― 左……側?……?


 ひよこたちは【左側】を、怪奇スポットのように見張っていたのだ。

 

 カーテンを閉め切った窓を見上げる。

 祖父母のために、採光のよい間取りにしてあるのに、もったいないと思う。


 だが、今、何より腹立たしいのは、あのひよこ達だ!


(“外人の女”って! 私は有宮沙羅ありみやさら。日本人よ! そりゃ、髪や目の色が少し明るいけど!)


 子供たちの目には、外人のように見えるのかもしれない。

 でも、“沙羅ちゃんはかわいい”って言ってくれる人もいる。

 あんな風に扱われる言われはないはずだ。

 

「やだ! いっけなぁ〜い! もうこんな時間!」


 慌てて門を出ると、息を切らせながら、駅へと急ぎ足で歩いた。



 学校に到着すれば、さらに悩ましい事態が私を待っている。


 クラスメイトのほとんどが、附属の中学から進学してきた生徒ばかりで、すでに仲間の輪が出来上がっているのだ。

 昼休みに机を向かい合わせて、難なくグループを作る様を見ると、取り残されたような焦りを覚えた。

 とりあえず、隣席のおさげの生徒に声をかけることにした。


「あの……一緒にいいかしら?」


「……あ……あの……」


 もじもじと言葉を濁している。


(嫌なのかしら? 突然距離を縮めて引かれちゃった?)


 それでもめげずに話しかける。


「お名前聞いていいかしら? 私、有宮沙羅というの」


「き、桐谷……桐谷紬きりたにつむぎ……」


 消え入りそうな紬の声。

 気のせいか、自分を避けているような気がする。

 無理強いをするのは嫌なので、他の人を誘うことにした。


 ――でも、私と距離を置こうとするのは、紬だけではなかった。

 

 誰に話しかけても視線を外され、取り付く島もない。


(おかしいわ……)


 自分は人に嫌われるタイプではない。

 今までも上手くやってきたつもりだ。


 ……それなのに……。


 クラスメイトが楽しそうにお喋りをする中、私は初めて一人で昼食を食べた。




 ばふん!!


「あーん! もう!」


 家に戻ると一日の疲れがどっと出て、すぐにベッドにダイブした。


「ふみゅー! あの学校でやっていけるのかしら?」


 前の学校も女子高だったから、なんとなく様子はわかっている。

 自分が何かやらかしたとは思えない。

 まだ初日なのだ。

 焦らず様子を見ることにした。


 翌日になっても皆よそよそしかった。

 でも、嫌われてはいない気がする。

 むしろ怖がられているようだ。恐る恐るこちらを伺っているのが分かる。

 

 でも……なぜ? 自分が何をしたというのか?


 昼食を一人で食べているのは、私一人ではなかった。

 静かに食べる紬をチラ見する。


 紬は可愛らしい少女だった。

 色白の肌に苺のような唇。

 静かな夜の湖のような瞳。

 小柄で華奢な体つきに細い指。

 おさげにして置くのが惜しいほどの艶やかな黒髪。

 まるで、精緻に組み立てられた人形のようだ。


「桐谷さん。あだ名ってある?」


「……いいえ……」


 紬が小さく首を横に振る。

 

「じゃあ、紬ちゃんって呼んでもいい? 私のことは、沙羅って呼んで欲しいな?」


「……そ、そんな……そんなことしたら、貴女まで……」


(私まで?)

 

 彼女に話しかけると、自分に何が起こるというのだろうか?


 放課後、再び紬に話しかける。

 他のクラスメイトは視線も合わせてくれないけど、彼女は返事をしてくれるから。


「紬ちゃんの家は学校の近く?」


 紬がこくりと頷いた。


「一緒に帰らない?」


「……ぇ……ぇぇ?」


 相変わらず引き気味。

 だが、放って置いてはいけない。

 理由は分からないがそんな気がした。


「それにね。今度、家に遊びに来てね」


「い、いいの!?」


 突如身を乗り出す紬。表情に力が入り、語気も強い。


「……え!?」


 今度はこっちが引いてしまった。何が起こったのだろう?

 アップダウンが激しすぎる。落ち着いた子だと思っていたのに。


「……ごめんなさい……」

 

 いつもの囁くような声。


「ううん。本当に遊びに来てね。でも、少し先かな? 引っ越しの片づけが終わっていないの」


「ありがとう……」


 紬が嬉しそうに言いかけた時だった。


「有宮さん! 一緒に帰らない!?」


 甲高い声に振り返ると、三人くらいに囲まれた、綺麗だけど気が強そうな子が立っていた。


「自己紹介がまだだったわね。私、松坂麗奈まつざかれな! よろしくね!」


「ごめんなさい。今日は紬ちゃんと帰るわ」


 強引過ぎる誘いを、やんわりと断る。

 私は紬と話しているのだ。断りもなく入ってくるのは失礼だと思う。


 だが、


「さ、さようなら!」


 紬が逃げるように教室から出て行った。

 顔は青ざめ、苺のような唇をきゅっと噛みしめている。

 何が起こっているのか?

 唖然とする私の手を麗奈が強引に掴んだ。


「さあ! 一緒に帰りましょう! あんな人放って置けばいいのよ!」


「で、でも……」


 断る理由が見つからないまま、私は麗奈に手を引かれて教室を出た。


ここまで読んで頂きありがとうございました。

少しでも面白かった、続きが読みたいと思われましたら、

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― 新着の感想 ―
[良い点] 紬ちゃんかわいいです! 麗奈もカースト上位の悪玉感を一瞬で醸し出しているのがテンポがよくてよいです [気になる点] はみ出し者である沙羅と紬がどうなっていくのか非常に気になります。沙羅の義…
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