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第23話 地に落ちた名誉を挽回する計画を実行する件について

 【左側】に戻っていく結翔を見送ってすぐに、クラスメイトを招待したいと母に相談をする。


「あら! 素敵! 沙羅ちゃん学校の話を全然しないから、心配していたのよ…呼びましょう! お友達。ケーキを焼くわ…!」


 ふみゅー。

 隠していたつもりだったのに。

 母親の勘は侮れない。


 母の許可を得た後は、誰を誘うかを思案する。

 招待客をガゼボに招いて、偶然来た結翔と鉢合わせるという計画だ。

 ガゼボのテーブルは四人席。だから二人を誘う。

 おとなしくて、いつも友達と一緒にいる子。

 佐々木と小川。二人のクラスメイトの顔が思い浮かんだ。

 

 それからの私は、まるでスパイか忍者みたいに、教室の様子を探り続けた。人のいないところを見計らって、目的の相手に声をかける。

 何だろうこの罪悪感。


 苦心の末、ようやく二人を誘うことができた。迷いはあっても、好奇心の方が上回るようで、誘いを受けてくれた。

 

 決行の日は、その週の土曜日だった。

 天気が良くて助かった。きっと、いい印象を持ってもらえる。


 ――ピンポーン。


 インターフォンが鳴り、どきどきとしながら玄関へ向かう。


「いらっしゃい!」


「お招きありがとうございました」


 【右側】を通って、空中庭園のガゼボにたどり着いた。


「……飲み物とお菓子を取りに行くから、ベンチに座って待っていてね……」


 ピッチャーとグラス、焼き菓子をトレイに乗せてガゼボに戻る。


「グレープフルーツ・フレーバー・アイスティーよ。それから、これが母の焼いたケーキ……」


 ほんの短い間、アイスティーとケーキの話で盛り上がったが、普段話をしていないのだから、共通の話題などほとんどない。

 しかも、二人が誘いに応じた目的は【左側】の様子を探ることなのだ。

 今も話しながら、ちらちらと覗き見をしている。


(……もう限界だわ。早く来てくれないかしら……)


 会話を繋ぐことに疲れ果てた頃、ようやく【左側】のドアが開き、二人が素早くそちらを見た。


 結翔が歩いてくる。


 端正な顔立ち、長い睫毛、育ちの良さが伺える仕草。

 白いシャツが光を弾いて、天使の羽のように見えた。

 風のような軽やかな足取りでこちらに向かって歩いてくる。

 スローモーションがかかったように時間が長く感じられた。


 佐々木も小川も、ぼーっと結翔に見とれている。


「やぁ! 沙羅ちゃん! お客様?」


 結翔が天使の笑顔を向けると、客達がそわそわし始めた。


 佐々木と小川を紹介すると、


「はじめまして! 沙羅ちゃんの家の間借り人の塔ノ森結翔です……」


 と、とびきりの笑顔を二人に向けた後、


「医者の勧めで環境を変えるために、沙羅ちゃんの家で暮らすことになったんです……」


 憂いを帯びた貴公子のように目を伏せると、客達は心配そうに、「もう大丈夫なのですか?」と、同情の言葉をかけた。


「長い間外出もままなりませんでしたが、今はすっかり元気です。……学校にも行っているんですよ!」


 一転して、晴れやかな笑顔を見せると、二人の表情がスイッチを入れた電球みたいにぱっと明るくなった。


「沙羅ちゃんとのことは妹のように思っているんです。いつも仲良くしてくれてありがとう!」


 ――これは切り札だ。

 

 礼を言う振りをして、二人に釘を刺しているのだ。

 

 “沙羅ちゃんと仲良くしてね”と。

 

 でも、カードをチラリと見せただけで、結翔はあっさりと話題を変えた。


「あ! これ沙羅ちゃんのお母さんが作ったアイスティーだよね? 喉が渇いたんだ。飲んでもいい?」


「あ……グラスがありません。あと、ケーキを切り分けるお皿とフォークを持って来ます……」


 グラスとお皿を持ってガゼボに戻ると、三人が打ち解けた様子で話をしていた。

 おとなしい二人が声を立てて笑う姿を、私は初めて見た。


「……お待たせしました」


 グラスにアイスティーを注ぐと、


「美味しそうだなぁ!」


 そう言って、結翔はグラスを掴むと、中身を一気に飲み干した。

 気持ちがいいくらいの豪快な飲みっぷりに、一同唖然となる。


「あ〜! 美味しい! これ、何の味だろう? さっぱりしているよね。あれ? 皆はストローで飲んでいるの? いやぁ〜ごめん。俺、ムードないよね?」


 と、笑うと、「ううん」「そんなことないわ」と、二人揃って結翔を擁護する。

 気どらない態度に好感度爆上がりだ。


 私は、その様子を呆気にとられて眺めるだけだった。

 

 結翔は聞き上手で、話し手のガードを解くのが上手い。

 話が進むうちに、二人の表情が晴れやかになっていく。

 

 私は、スペイン語の勉強に悩まされていたことを思いだした。

 結翔が励ましてくれたから、私は慣れないスペイン語を楽しみながら勉強できたのだ。


 こうしてお茶会は和やかな空気の中、無事に終わった。

 この家に怪人が住んでいるという誤解は、これで徐々に解けていくと思う。


 結翔って凄い!


 自分で落とした評判を、自らの力で回復した。失敗を挽回する力がある人間なのだ。

 自分と三つしか年が違わないなんて信じられない。


 私は、彼の新しい顔をまた一つ見たような気がした。


ここまで読んで頂きありがとうございました(*^_^*)

少しでも面白かった、続きが読みたいと思われましたら、

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― 新着の感想 ―
[良い点] 大人しいクラスメートの子達も明るく打ち解けてしまうほど結翔の社交性が見えて、沙羅も好感度上がっちゃいますね(*^^*) 沙羅が困ったり悩んだりしたときはいつでも手助けをしてくれそうな結翔に…
[一言] 結翔君 すごい (´⊙ω⊙`) かっこいいうえに 社交的 (◍′◡'◍)
[良い点] 外堀から埋めていく感じか。クラスのミーハーな適した性質の子を呼んで印象操作。結翔にときめかせることでwなんとか怪奇スポットに住む沙羅ちゃんの印象を回復できそうな流れね。 結翔は己のモテ度を…
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