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第19話  睫毛の距離 2

 やがて“広瀬”と呼ばれた人が私に目を向ける。


「……あの、そちらの人は……?」


「……あ、ああ……有宮沙羅ちゃん。俺の家主のお嬢さんだ!」


「可愛い家主さんね……」


 広瀬がクスリと笑う。


「沙羅ちゃん。この人はね広瀬綾女ひろせあやめと言ってね、俺の同級生だったんだ。……今は大学生だよ……」


 大学生。

 結翔も本当は大学生になっているはずだった。


 私も自己紹介をする。


「……有宮沙羅です」


 第一印象が大切なのだ。

 とびっきりの笑顔を作らなくてはならない。

 結翔の大切な友達なら尚更だ。

 

 ……でも、それが出来ない。


 強張った顔のまま目の前の人を見る。

 白いブラウスにチェックのプリーツスカート。

 ナチュラルメイクにグロスを塗っただけの唇、透明な桜色のネイル……。


(……私も……爪を伸ばしたかった……でも、校則が……)


 正体不明の競争意識がむくむくと芽生える。


(服装がラフ過ぎたかしら……もう少し女の子っぽい恰好して来ればよかった……)


 結翔のクラスメイト。

 結翔は進学校に通っている。

 彼女も秀才に違いない。


「可愛らしい人……綺麗な髪。カフェオレ色ね?」


「……ミルクティーです……」


 無意味な訂正をする。

 カフェオレだろうとミルクティーだろうと、見る者が判断する事なのに。


「ごめんなさいね……」


 目の前の女性ひとが優しく微笑む。

 

「……それじゃあ……塔ノ森君の元気な姿が見られてよかった……今度皆で会いましょうね」


「……ああ! またな!」


 二人は約束を交わし、綾女が立ち去ると後には私と結翔が残された。


「……結翔さん……ごめんなさい……」


「えっ!? 何突然!?」


 謝罪の意味が分からず結翔がたじろぐ。


 広瀬に失礼な態度をとってしまった。

 もっと笑顔で接するべきだったのに。

 結翔に恥をかかせてしまった。


「……あの……いえ……もう少しきちんと挨拶をすればよかったと思って……」


「なんだ、そんなこと気にしてたの? 無理もないよ……突然声をかけられたら、とっさには反応できないさ!」


 結翔が笑う。

 私の後ろめたい気持ちに結翔は気づくことさえない。


(よかった……気にするほどじゃなかったのね……)


「広瀬さんは結翔さんの同級生だったのね?」


「ああ、学校一の才媛さ! 男を入れると俺が一番だけど!」


 結翔は滑稽に話すが本当のことなのだろう。


「……で、現在学年三番だった秀才と付き合っている」


「会話に順位を入れるの止めません? 数字で人を評価すると品性を疑われますよ?」


 笑いを堪えながら結翔をたしなめる。

 

 結翔のジョークは私をリラックスさせるためのものだ。

 初対面の私の緊張を気遣ってのことだろう。

 いかにも結翔らしい。


 そのせいだろうか。

 見る見るうちに気持ちが楽になっていく。


 ……理由は他にもあるかもしれないけど……。

 「広瀬には結翔以外に恋人がいる」

 結翔の一言で安堵する自分がいた。


「でもなぁ……俺のことなんて忘れてると思ってたよ……。ドロップアウトした落ちこぼれだからね。……進学校ってね……いろいろ競争激しいんだ……下級生と一緒に勉強するのは恥ずかしいけど、同級生が卒業していて気が楽だった……」


「……落ちこぼれだなんて!」


 私の知らない結翔の過去と現在。

 「過去は関係ない大事なのは現在だ」

 そんな風に人は言うけど、彼等だって経歴や地位で人間を判断するのだ。

 いくら成績優秀と言っても、留年したことは結翔にとってプラスにはならない。

 結翔に生涯ついて回る事実だ。

 彼はいろいろな思いを抱えているのだろう。


 結翔は自分の気持ちを打ち明けられる人間がいるのだろうか?

 医者にかかっていると聞いたが、心許せる相手なのだろうか?


 ――私は?


 ……でも……今は聞かない方が良さそうだ。

 きっといつか話してくれる。

 ……そう信じたかった。

 

 テラスの向こうに緑が広がる。

 目の前には結翔がいて長い睫毛が見える。


 こうして結翔を間近に見ることができるのが私だけかもと思うと、顔がにまにましてくる。


「どうしたの? 沙羅ちゃん?」


 結翔が覗き込む。


「え……あ……あの……」


 また睫毛に見とれてましたなんて言えない。


「顔が赤いよ……熱でもあるかな……?」


 ふわりと前髪が上がり、結翔の手が額に触れた。


 ふっ、ふみゅー!

 衝撃の瞬間!

 突然額に触れるなんて!

 頬が熱を持ち、それは耳へと伝わっていった。

 私は今、真っ赤な顔をしているに違いない。


 どきどき。


 温かいてのひら


 どきどき。


 少し冷たい指先。


 どきどき。

 

 鼓動が伝わらない様に私は胸を押さえた。


「……熱はないみたいだけどな……風邪かな……? 沙羅ちゃんには無理させちゃってるから……ごめんよ。今日は早く帰ろう……」


 と、自分の上着を私の肩にかけた。


「あ、……ありがとう……でも、大丈夫です……」


 礼を言うと結翔がくしゃりと笑った。


「……今日は温かくして休むんだよ」


 上着のかかった肩が温かく、私は言葉もなく頷いた。


 空に浮かんだ仄白ほのしろい月が夕暮れ時を教える。


 私達は並んで駅へと足を運んだ。

 


ここまで読んで頂きありがとうございました(*^_^*)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 沙羅ちゃんの嫉妬……か、かわいい(´;ω;`)!! でも気持ち、わかる。デート(と私は思います!!!!)しているときに急に見知らぬ女性が親しげに結翔に声をかけてきたらどぎまぎしちゃうよおお…
[良い点] 結翔の元同級生広瀬綾女に対抗意識を燃やす沙羅ちゃんがかわいいわね。 [気になる点] おそらく優秀で慕われていたであろう結翔。ドロップアウトした過去。当時の結翔がどういった人間だったのか気に…
[良い点] 結翔くんの元同級生広瀬さんと出会ったことで、沙羅ちゃんの対抗心が芽生えたようですね。 沙羅ちゃんは自分の気持ちをはっきりと自覚できたのかな(*´∇`*) 恋も勉強もバレエも頑張れ〜!!!…
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