第13話 Let's dance
いよいよレッスンが始まります♪
――レッスンは一番ポジションから始まる。
左右の踵をつけ、膝を伸ばしてまっすぐに立つ。
そして、ドゥミ・プリエ。
膝をゆっくりと曲げる。膝は爪先と同じ方向に。踵は上げない。
次にグラン・プリエ。
今度は踵を上げる。腰は完全に落とさないように。
足のポジションは五番まであり、それぞれでドゥミ・プリエとグラン・プリエを繰り返す。
ピアニストの美和は伴奏に慣れているようで踊りやすい。
前の教室ではピアニストはたまにしか来なかったから、生演奏で練習することは滅多になかった。
バットマン・タンデュ。
五番ポジションから片方の足を床の上を滑るように動かす。
――シュッと、
爪先が床をする感覚。
(久しぶりだわ!)
瞬時に蘇る記憶。
懐かしいなんて生易しいものではない。
もっと力強く鮮明で、私の中で生きて息づくもの。
(もうバレエは止めようと思っていたのに……)
「はい! ドゥ・ヴァン(前)。ア・ラ・スゴンド’(横)。デリエール(後)!」
牧嶋の発する声にハッとする。
(いけない! レッスンに集中しなくちゃ!)
ロン・ドゥ・ジャンブ・ア・テール
足をタン・デュし、第一ポジションを通りながら爪先で半円を描くように動かす。
爪先は床に付けて。
前から後ろへ。後ろから前へ。
足を自由に動かすためには、軸足でしっかり立たなくてはならない。
体を支えるための筋肉が震え汗が噴き出す。
(……きつい……練習を休んでいたから筋力が弱っているんだわ……)
でも、そんな甘えは許されない。
ひとたびバーを握れば、私は一人のダンサーなのだ。
最善を尽くさなくてはならない。
(背筋を伸ばすのよ!)
腰から背中、首筋へと意識を集中する。
雑念が消え去り、思考がクリアになっていく。
踊りに集中する準備が整ったのだ。
(レッスン不足を取り戻せそう!)
今私がすべきことは踊ること。
それだけなのだ。
練習は緩やかな動きから、徐々に激しいものへと移行していく。
グランバットマン
膝を伸ばしたまま足を空中に放り出す。
ドゥ・ヴァン、ア・ラ・スゴンド、そしてデリエール。
次はバーを離れてフロアレッスンだ。
アダージョという移動の無い動きや、ジャンプの練習の後、回転が始まる。
「次はピケターンね。やるからよく見ておいて。左足プリエ。右足の爪先で円を描くみたいに横に出して立って、その足に左足を前に寄せて爪先立ち」
これが“シュス”。
足は五番ポジション。二本の脚は隙間がないようにクロス。
腕は胃の高さで籠を抱くように丸く輪を作る。
「後ろにある右足の爪先を伸ばして左足の踵につけて」
シュル・ル・ク・ドゥ・ピエ。
軸足の足首にもう片方の足をつける。膝は横、爪先をしっかり伸ばして。
次のポーズへ移行するためのポジションだ。
「爪先を左足の膝まで引き上げて」
ルティレ。
膝は耳の方向に開いたままにする。
「そしてターン! これを繰り返してスタジオを横切るの」
“ピケ”は、“突き刺す”という意味で、軸足を床に刺すように立って回ることを“ピケターン”という。
生徒達は準備のポーズの後、次々と回り始める。
スピードは無いけどフォームが綺麗。
(レベル高っ! 初心者クラスじゃないみたい!)
見事な回転に見とれるも、気付けば列の先頭だった。
(やだ! 私の番だわ!)
慌てて位置に付きプレパラシオン。
左足をプリエ、出した右足に重心を素早く移し爪先立ち。
そして両足を揃えてシュス。
シュル・ル・ク・ドゥ・ピエした足を軸足の膝まで引き上げる。
腕の動きを利用し体を巻き込む。
――そしてターン!
(上手くいったわ!)
回転が決まると気分が良い。
「沙羅ちゃん! その調子よ!」
牧嶋の掛け声に合わせて私は回る。
「ほら! みんな! 沙羅ちゃんの動きをよく見るのよ!」
(……ちょ、ちょっと! お手本にしないで!)
恥ずかしいけど私は回転に集中する。
くるり。
風が起こり、風がたなびく。
くるり。
心が昇る。螺旋のように。
くるり。
いつまでも回れる。
くるり。
疲れなんて感じない!
フィニッシュでポーズをすると、ぱちぱちと手を叩く音。
誰かが拍手をしたのだ。
ふっ、ふみゅー!!
(ただの練習なのに! 回っただけなのに!!)
照れくささと申し訳なさで冷汗が出そうだ。
最後はジャンプや回転を組み合わせた“グラン・ワルツ”を踊り、クールダウンで呼吸を整える。
締めくくりはお辞儀。
背筋を伸ばしたまま左足を後ろにし、両足をプリエ。
腕はプリマ・バレリーナのように優雅に。
「ありがとうございました!」
「今日もお疲れ様!」
挨拶する生徒を牧嶋が労う。
レッスンは一時間半。
あっという間だった。
(飛ばし過ぎかしら……?)
久ぶりだから抑えた方が良かったかもしれない。
だが、疲労感さえ心地よい。
タオルで汗を拭い爽快感に浸れば、ブランクが嘘のようだ。
着替えを終え更衣室を出ると牧嶋が待っていた。
「沙羅ちゃん……ちょっと……」
呼び止められる。
「……えっと、……なにか……?」
初日から何事かと思いながらも私はスタジオに残った。
牧嶋の話は何でしょうか?
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