表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/220

第12話  バレエ少女・オペラ座風

突然現れた男性は何者でしょう。

「……貴女バレエやっているわよね……?」


 目の前の男性が私に問いかけた。 


「まっ、待ってください牧嶋さん!……沙羅ちゃんには、まだ何も話してないんです!」


 結翔が“牧嶋さん”と私の間に入った。


「この人はね、牧嶋洋一まきしまよういちさんと言って、店の常連さんなんだけどアルバイトを探しているんだ……」


「……アルバイトですか?」

 

 私に何ができるというのだろうか? 働いたことなどないから役に立てるとは思えない。


「ごめんなさ〜い。いきなりじゃ驚いちゃうわよねぇ。……あのね、アルバイト代を払うから、私のバレエスタジオの生徒になって欲しいの……」


 柔らかい話し方に繊細なしぐさ。時折、細身の体をしならせる。

 ある予感が私の中に生まれた。

 この世界はこういう人は少なくないのだ。

 よくある話だから、それほど気にならない。

 それよりも、アルバイト代を貰って生徒になるという事の方が奇妙で不自然だ。


「大丈夫。この人昔ダンサーで、今はスタジオを経営しているけど、有名な振付師でもあるんだ。……信用はできる人だよ……」


 訝る私に結翔が説明するも、納得がいかない。妙な話だと思う。


「どこかバレエ教室に通っているの?」


「……いいえ。怪我をしてお休みしていたんです。受験もあったので……」


「まぁ! ならいいわよね。今週の土曜日にスタジオに来て欲しいの!」


 牧嶋が体をしなっとさせる。


「ねっ! お願い! 俺の顔を立てると思って!」


「……で、でも……」


「お願い! 沙羅ちゃん!」


「……」


 迷う私に天使の笑顔で結翔が迫る。

 これは天然なのだ。何だかずるい……。


「は……い」


「やったー! 一生恩に着るよ!」


(一生のお願いにしてはずいぶん軽くない?)


 それでも私は断り切れずに承諾してしまった。



 バレエスタジオでのアルバイトは、その週の土曜日から始まった。

 まずは身支度を整えなくてはならない。


 鏡台の前に座る。

 ムースを髪に馴染ませ髪を梳かし、一つに結んだ後シニヨンに結う。

 細かい髪をコームで整え、仕上がりを鏡で入念にチェックする。


 この髪型にするのは久しぶりだ。

 

 その後練習着とバレエシューズ、タオルなど道具一式を携えスタジオへ向かう。久しぶりのレッスンだからトゥシューズは持たない。


 最寄り駅から十分ほどの場所にスタジオはあった。

 三階建ての建物で、一階はバレエ用品店、二階がスタジオ、三階が牧嶋の住居になっている。

 二階窓の下に『牧嶋バレエスタジオ』と看板が架けられていた。

 店舗の横に階段があり、そこからスタジオに入ることができる。


 私は階段を上り恐る恐る金属製のドアを開いた。


(わぁ! かわいいスタジオ!)


 床はリノリウムで、壁に敷き詰められた鏡が曇り一つなく磨かれていた。

 入口の右手にアップライトのピアノ、奥にオーディオ機材が置かれている。


 更衣室で水色のレオタードに着替え、同じ色の巻きスカートを腰につける。


 ……まだ、誰も来ていない。

 着替えが終わると壁に添えられたバーでストレッチを始める。

 バーの感触がひんやりと心地よい。

 体が温まってきた頃、がやがやとお喋りをする声が近づいて来た。

 生徒達だ。

 新参者の私は思わず緊張する。

 振り返ると、肩にレッスンバッグを掛けた女の人達が戸口に立っていた。


(第一印象が大切よ沙羅! しっかり挨拶しなくちゃ!)

 

 と、笑顔で構えるも、


「しっ……失礼しました!!!」


 生徒たちは、私を見るなり回れ右をして逃げるように立ち去ろうとした。


「待ってください!」


 慌てて呼び止める。私がいてはいけないのだろうか?


 生徒たちがひそひそと囁きあっている。

 そして、そのうちの一人が私に向かって、 


「……今日は初心者クラスじゃないんですか?」


 と言った。


「え?」


 私がきょとんとしていると、


「あの……この時間は初心者向けのクラスだと思っていたんですけど……」


 おずおずと尋ねる女性の影から小声で呟く声がする。


「……か、髪も目も明るい色で、……パリ・オペラ座にいる女の子見たい……」


 誰かの言葉に皆がうんうんと頷き、羨望の眼差しで私を見つめる。


「そ……そんな……」


 視線の熱さに溶けそうだ。


 そこへ牧嶋が入ってきた。

 シャツにストレッチ素材のトレーニングパンツに、ヒールのあるバレエシューズを履いている。

 横には色白のふっくらとした女性を連れていた。


「みなさぁ〜ん。どうかしましたぁ〜? ……あら、沙羅ちゃんいらっしゃ〜い」


 そして生徒達に向かって、


「びっくりしちゃうわよねぇ。……こんないかにもって感じのってバレエ少女がいたら……。無理ないわぁ〜」


 牧嶋の言葉に生徒たちが再び“うんうん”と頷く。


「沙羅ちゃんは怪我でレッスンをお休みしていたの。だからリハビリがてらに初心者クラスから再スタートするんですよぉ〜」


 なーる。と納得する生徒達。


 説明の前半は合っているけど後半が捏造されている。

 リハビリなんてするつもりはないのだから……。


 それにしても私がここに呼ばれた理由がわからない。


「さぁ! レッスンの時間ですよ! 今日はピアニストの方がいらしています。……沙羅ちゃんにも紹介するわね。若草美和わかくさみわさんよ」


 牧嶋が連れていたのはピアニストだった。


「……は、初めまして! 有宮沙羅です!」


 慌てて自己紹介をすると、 “こちらこそ”と、美和。


「さあ! 今日も頑張りましょう!」


 掛け声とともにレッスンが始まる。


 ピアニストの指がそっと鍵盤に触れる。

 音楽がスタジオを満たし、私達はそれぞれのバーへとついた。


 




ここまで読んで頂きありがとうございました。

少しでも面白かった、続きが読みたいと思われましたら、

ブクマ、評価★等お願いします♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 麗奈ちゃんのこと。絵美ちゃんのこと。学校の友人に対して思うところのある沙羅ちゃん。 今度は結翔くんの頼みでバレエの世界に再び触れることになるのですね。 牧嶋さんのバレエ教室で、これから何が…
[良い点] ひょんなことからバレエの初心者クラスに入ることになったベテランダンサー沙羅ちゃん。さてこれから何が起こるのか。いよいよ物語にダンスが! [気になる点] わりと飄々とした結翔が一常連の元振付…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ