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第6話「生きる意味・進む意味」


「遅くないか?」


 アンコが自宅の扉を開けた時。心配していたのかマロンが仁王立ちで出迎えてくれた。

 遅くなった理由としては買い出しの途中にハプニングが起き、帰るのが遅くなってしまったからだ。


「ちょっと色々あって……そのーえへ」

「軍に鉢合わせたんだな?」


 秒でバレた。その後、マロンに買い出し先での事や足を挫いた事など洗いざらい吐いた。

 話をしている途中、マロンの眉間にシワが段々と寄っていく。


「軍人が酔っ払ってても飛び蹴りするなよ!!」

「仕方ないだろ!子どもが泣いてたからついイラッときたんだよ!」

「それはバカがする事だ!この短気!」

「何も言えません!!」

「しかも、足挫くだけならまだしもなぜ気絶するんだ!」

「やめて私の心が削られる!!」


 圧倒的にアンコが不利な喧嘩が始まった。

 一通り終わった後2人が同時にため息を吐く。どちらも今日一日いろんな事がありすぎて疲れを感じていた。何もやりたくない……でも、やるべき事は沢山ある。動かなければ。

 2人が疲れの色を出す中、何故だか疲れを感じていない人が一名。


「ご飯……つくる」

「ツインは今日1回作っただろ。私がやるよ」


 アンコがキッチンへ行こうとするとツインが止めようと、服を掴んでずっと首を左右に振る。それを見たアンコは諦めてゆっくりと座る。

「いいのか?」

「いい……」


 買い物袋を手に取ってツインはキッチンへと向かう。本当に料理が好きな人だ。

 アンコはせっかく料理をしてくれるのだったら2階で休むとマロンに一言言って階段を登っていく。



「はぁ……疲れた……」


 2階の自室。1日前と同じような静けさが続いていた。アンコは、机の上のアクセサリースタンドにかかっている銀色の物を指で弾くと、月の光を反射させながらクルクルと回る。

 2人と暮らし始めてアンコは怖い事が2つあった。1つはアンコ自身が軍の捜索に追加される事。2つは過去を知られる事。

 アンコには忌々しい過去がいくつもあった。きっと口に出せば遠ざけられるだろう過去。消したくても消せない。一刻も早く、消したくて消したくてたまらない。3人一緒に暮らしたい。


「クズ……」


 誰かに向けられた短い言葉。眉間にシワを寄せ、怒りを滲ませ発する。



 空腹を満す匂いが充満する1階のキッチン。ツインは綺麗な手捌きで黙々と料理をしていく。

 アンコも兄も「美味い」と言ってくれるが、ツインには味覚を感じとる事ができない。5歳の時からずっとだ。だから量と色の濃さで判断している。

 兄のマロンはこの事を知らない。悟られないようにツインが振る舞っているだけ。一度、親友にバレてしまったがマロンに言う事もなく秘密にしてくれた。


「ツイン、手伝ってほしい時は服を引っ張ってくれよー?もう暇で暇で……」

 

 マロンがリビングから顔を出す。服を引っ張って合図してほしいと言っているのは、あまり喋る事のできないツインへの配慮だろう。

 ツインはマロンに手招きをする。すると妹に呼ばれた嬉しさなのか、ニッコリした顔でマロンが来る。


「これ……好きなようによそいで……」

「ならまずアンコ呼んでくるよ。すぅ……助けてぇぇ!!」


 部屋に行く事もなく、ツインの近くに立ったままアンコを呼ぶ(?)。2階から勢いよく扉が閉まり階段の段数を飛ばしながら目をまん丸にしたアンコが出てきた。


「何があったんだよ!」

「ご飯だ。自分の好きな量を食べろ。あぁ、さっきのはコールだ安心しろ」


 マロンのドヤ顔。それを見たアンコは笑顔のままキレる。


「はは!ツイン、切れ味のいい包丁ってない?」

「ここに……」

「待て待てツイン!もしかして同盟組んだの!?」

「覚悟しろーー!!このアホーーーー!!」


 外は冷たいぐらい静かなのに、中は暖かく賑やか。

「ずっと続いてほしいな……でも……」

 でも、深い傷が残る心と軍はそれを許さないだろう。



 深夜帯、ツインは大きな窓の近くに椅子を置き、星を見ていた。

 アンコとマロンはそれぞれの部屋でぐっすり眠っている。それに対して、ツインは睡眠をする事ができない。だから長い夜を潰すように星を見ている。


「どうしてあの人は……ずっと話しかけてくれるの……」


 アンコは返事もしないツインによく笑顔で話しかける。友好関係を築きたいのだろう。話題は、自己紹介程度の質問ばかりだ。

 まるっきり性格が親友に似ている。アンコがリンと重なってしまい心が痛い。このままマロンとアンコで家族のように暮らしていけば、また親友のように失ってしまうのではないのか。

 どんな風に失うのか、想像をしてしまう。


「遠ざけないと……もっと遠くに」


 実兄も同居人も全部遠くに……。でもそれでいいのか。周りを自分から遠ざけているのではなく、自分が過去に止まったままだからなのでは。

 ──行こう進まないと意味がない。


「両親と親友を失った私は……生きる意味も進む意味も本当にあるのかな……」


 ふと、ツインは自身の苗字を思い出す。


「……フィライト……」


 小さく呟いたこの苗字。ツインとマロンはシュバルツ国全ての政権を握る者の中の1人。そして、ツインの嫌いな苗字でもあった。仲間に言えば距離を置かれるからだ。

 誰にも教える事もなく過ごしていたツインだが唯一の親友に一度だけ明かした事がある。自分から遠ざけるために。

 でも、相手はニコニコしながらこう言った。


「じゃーお兄さんと一緒にこの国と戦争は大きく変わるね!」


 ずっと先の未来を誇らしく言うこの言葉。この苗字で初めて言われたこの言葉。とても嬉しかった覚えがある。

「私が逃げ出した理由……そして進む意味……」


 そう呟きながら再度、星に目を移す。昨日は雨だったはずが今日は雲が1つも無い。赤や白と光る星がよく見える。

 ツインは星を見ながら長い夜が開けるのを独りで持つ。


「ツイン、起きてる?私さ眠れなくって……」


 扉の向こうからアンコの声が聞こえる。扉を開けると急に抱き締めてきた。同じ身長、正反対な性格だからなのかもう1人の自分が抱き締めているように見える。アンコはツインより体温が高いのか、暖かい。思わず自分の手をアンコの背中に添える。

「あの……」

「ツインは私の事どう思ってる?」

「どうって……」


 いきなりの質問に対応ができない。ツインはしばらく考え込む。

「いきなりだよな。どうしても気になっちゃって。私はツインのことは妹だと思ってるから、全力で君達の目的達成まで支えてく」

「……私は……」


 赤の他人だと言いたいが何故か口に出せない。

 ツインが最初に受けたアンコの印象は赤の他人ではなかったからだ。でも、これを言ってしまうと失う怖さが襲ってくる。

「変な質問してごめんね。大人しく寝るよ。おやすみ」


 ツインの答えを聞く事もなくアンコは自室へと帰っていく。ちゃんと答えないと。


「お姉ちゃん……」

「ん?……私の事?」

「世話好きのお姉ちゃん……」

「あははーてっきり赤の他人かと……。私が死んでも、辛い思いをしないから」

「死なせない……」

「そうか。でもまだ君は過去からちゃんと進んでない。無理しなくていい。

 安心しろ私は死ぬ気なんてさらさら無いから」


 そう言ってツインの部屋から抜けていく。

 また、独りとなった部屋。ツインは前髪に留めてある真っ赤なピンを取り外しじっと見つめる。


「あなたが望んでいる国に……変えてみせるから……」


 変わらなければ親友を裏切る事になる。それだけは絶対に嫌だった。それが、沢山の事を教えてくれた親友への恩返し。

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