第2話「訳あり兄妹」
いつもは静かな家の中、今日はバタバタと忙しい足音がなっている。住民が計3人になったため、空いた部屋を順に掃除しているからだ。全部、少女が1人で。
階段を登ったり降りたり。扉から出たり入ったりを2時間ぐらい繰り返している。
それでも茶髪の黒メッシュの少女───アンコは息を切らさない。しかも、手慣れてきたのか徐々に作業スピードが速くなっていく。
だが飽きてしまったのか、手が止まりそのまま、
「休憩するか」
と休憩モードへと入る。
少しの休憩時間の間、アンコはタオルを持って風呂場に向かう。ある人物に渡すためだ。
目的の場所に着きノックもせず扉を開く。
「ノックをしろ!!」
筋肉質な男性に怒られた。しかも、裸を見たわけでもないのに顔を赤らめている。
「マロンさ、裸じゃないんだからいいだろ」
「裸かもしれないのに、何故ノックをしないんだ!」
そう、ある人物とはこの男性の事だ。名前はマロンと言うらしい。見た目にしては、可愛らしい名前だとアンコは思う。
「はいこれタオル」
「ありがとう……じゃなくて!」
こんな会話をしているがマロンとは数時間前にあったばかりだ。でも、2人とも自然とタメ口で話している。
「風呂しっかり入れよ。そこにあるものなんでも使ってよし。その間、君が連れてきた黒長髪の女の子の面倒を見てる」
「ありがとう、助かる。ここまでしてくれるなんて……」
「いいから早く入って」
ダァンッと乱暴に扉を閉める。扉越しでマロンに怒られながらリビングに向かうと、黒く長い髪をフードで隠している、無気力な女の子が見える。
「……」
家に入れてから2時間が経つのに、錆びて動かなくなった機械のように1人で静かに座っている。
何かきっかけを作ろうとアンコから話しかける。
「君がマロンの妹、『ツイン』で合ってるよね」
返事が返ってこない。
「私はアンコ。よろしくね。妹ちゃん!」
返事が返ってこない。本日二回目。ニューレコード(新記録)。
これでは埒が開かない。馴れ合いは以上、終了。
アンコはコップに水を入れて、それをツインに出す。
「飲みたかったらどうぞ飲んでね。私は料理し始めちゃうけど、何か聞きたい事や困った事があれば聞いてな」
キッチン横の冷蔵庫へ向かう。向かう途中、エプロンを手に取り、慣れた手つきで着る。
冷蔵庫の野菜室とチルド室を開け今ある食材を確認する。
冷蔵庫に入っている物は十分な調味料とじゃがいもとカボチャ、チーズに豚肉だけだ。
「嘘だ!!これをどうしろと言うんだー!!」
少しの種類しか食材がない。量はあるが、レシピが思い付かないと言う緊急事態。今すぐにでも市場に行かないと料理ができない。
市場に行こうと準備をする。
その時、キッチンからトントンと音がする。気になってキッチンへ戻ると、さっきまで動かなかったツインが……包丁を持って調理をしている。
アンコは何も言わず隣でツインが調理する所を見る。
カボチャとじゃがいもを鍋に入れ、蒸す。フライパンに豚肉を入れて焼く。蒸したじゃがいもとカボチャを別々に潰す……。
その後もツインは流れるように調理をする。でも表情が動かないため、どうしても調理専用メカのように思える。
「君の原動力は料理……か。覚えておくよ。ありがとう。ツイン」
30分後、テーブルの上には3人分のカボチャスープとじゃがいもと豚肉のチーズ焼きが並ぶ。出来が良すぎて、よだれが垂れそうだ。
丁度マロンも風呂場から出てきたようだ。そして、マロンは料理を見るたびに美味そうしか言わない。
マロンに補足として、ツインが作ったとアンコが言うと驚いた顔で「本当か!?」と言うだけ。
もっといい感想があるだろとツッコミたいぐらいだ、とアンコは思った。
そして3人でテーブルを囲み、食べ始める。
「美味しい。泣きそう」
とアンコが言うと
「俺の自慢の妹だ!」
とシスコンが滲み出るような事をマロンが言う。
そして、マロンとアンコは笑い合う。
ふとツインの顔を見ると、少しだけ笑っているような気がした。
食事の時間はあっという間だった。
「何年ぶりなんだろう。他の人とこうやって食事するの」
アンコはつぶやく。何年もずっと1人。何をやっても言われない自由はあったが、アンコ自身が気付かない所でどこか寂しいと思っていたのかもしれない。
「楽しかったな、ツイン」
「……」
兄のマロンがツインに問いかけるがやはり返事が返ってこない。そこも含めて、アンコは本題に入る。
「数々の質問をしていいか?君達が何故脱走して、何故ツインがこうなっているのかを。答えられる範囲でいい。教えてくれないか」
この発言で今までの和やかな雰囲気は消え去り、ここへ来る前の事を思い出した兄妹からは凍った殺気だけが漂っていた。
そして、マロンが怒りで震えながら口を開く。
「まず前提としてだ。この国はイカれてると言うことだけを覚えていてくれないか」
この後、アンコは質問しなければ良かったと後悔する事になる。
それはあまりにも悲惨で、無知なアンコには耐えられないぐらいだったからだ。