序章 「夢の中」
満月の日の真夜中。少女は夢を見た。
上を見れば、灰色の空が広がっている。真っ直ぐ見れば、木々は生えているものの葉は枯れ、枝が真っ黒になっている。
そして、下を見れば……血の海を作る死体の山。
そんな中、少女は1人。
言われなくてもわかる、酷い悪夢だ。
「昔からの国の現状が夢に出てきた……のか」
少女はポツリとつぶやく。
夢は浅い眠りの中、脳が記憶整理を行なっているものを映像化し再生するというのを本で読んだ事があった。
ならこれは……この夢は、少女自身が悲惨な現状を過去に目の当たりにしたという事だ。
しかし、少女は軍人でもなければ政府でもない。ただの一般的な国民。こんな状況を見る機会がない。
「考えても仕方がない……ねぇ、歩いてみようよ」
勇気を振り絞って立ち上がる。心の中でせーのと言って立ちあがろう。
せーの───
急に動きを止める。
今誰に歩こうと言った。今誰と一緒にいる。自分は1人のはず。一体、誰。
「そうね。気分転換に歩きましょう」
よく耳に入ってくる高く澄んだ声。
振り返ると赤い世界に白い人型が立っている。顔は分からない。はっきりわかる特徴といったら、綺麗に整えられた長い髪とあの特徴的な声。
得体の知れない人型の事を深く考えていると、何故か遠くにさっきの人型がいる。置いてかれた。人型に向かって走って追いかける。
「君は誰なの!」
走りながら大声で問いかけてみる。着いてからなんて聞けない。何故か急に消えてしまいそうだったから。
「わたしはいつかあなたに会うかもしれない。その時は───」
追いついた。待ってと人型の腕を掴もうとする。
「わたしと一緒にこの国を変えて!!」
腕を掴んだと同時にパリンッと鏡が割れるような音がした。そこで自分の夢は再生がとぎれた。