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東大陸の中央都市

「げホッがェっ…薬ぃ~…」


森の中、北西側に進むにつれて瘴気は僅かにだが薄くなっていく。しかし、滋養強壮剤の影響か、或いは、ポーションで酷使した副作用か、リィルの喉は出発前よりも悪化していた。それに加えて、森の中を進んでいる間に魔獣に襲われる事も多かったのが問題だった。

修復薬も血肉薬(ちじくやく)も足りない…かすり傷くらいは放置しないと…

体中に泥がこびりつき、至る所に小さな傷や包帯が残り、元々長かったボサボサの銀髪も今や腰の下まで伸びていた。滋養強壮薬の効果は既に数日前に切れてしまっている。副作用の全身筋肉痛を押し通してようやく今この森の西端、つまり大陸の中央に達していた。しかし、これまでの過酷なたびに比較してリィルの声はどこか明るかった。


「この先に町がある…これでゆっくり休める…なんでこんなに遠いの!…ゲホッ…」


この先にはかつて東大陸で最も大きかった都市がある。北西のルートで大陸を渡る場合この都市はどうあがいても避けられない。その都市の北側には古代の巨人が振るった戦斧による巨大な大地の裂け目が大陸の端まで続いており、南側には雲を貫く霊峰が立ちふさがっていて南の大陸まで続いている。それにゆえにこの都市が交易路として発展したわけでもあるのだが、魔族の後方支援拠点となっている現在では厄介な事この上ない。


「やっと…都市の城門が見えてきた…!…さて…どうやって門番の目をくぐるか…」


そんな危険な場所であるにもかかわらずリィルは全くの無策であった。


てってれー!便利道具鞄~!何かいい道具ないかな…


城門まである程度の距離があるうちにここを潜り抜けるための方法を考える。リィルの肩掛け鞄は幽玄のローブをはじめとする旅の中で集めた便利道具が詰まっているのである。


逃げ蜘蛛(ワルゲン)の抜け糸…は切れてるし…真似妖怪(ボガード)の仮面…は上半分割れてるし…アルプのハープ…は弾けないし…もう!ゴミばっか!げほっ…喉も痛いし…」

「おい誰かいるのか!?」

「!?」


ガラクタばかりの鞄に文句を言っていると森の中から警戒色の強い声がする。直ぐに足音が聞こえ始めリィルのいる場所に近づいてくる。


しまった…城門の近くなんだから見張りがうろついていても仕方ない…ぬかった…とりあえず隠れなきゃ


「おい、なんだこれは?ゴミか?なんにせよ誰かいたようだな。よし、お前先に城門警備所に報告しろ。俺はこいつを持って行く」


咄嗟に木の陰になった窪みに身を隠す。しかし、先ほどまで散らかしていたガラクタまでしまう時間はなかったせいでその場に置きっぱなしになっていた。


二人組…既に一人はもう城門に向かったみたい………!!いいこと思いついちゃった!


小さくポンと手をたたくと、長い髪の毛を残った警備兵に見えるように木の陰からはみ出させる。


「………」

…気づいてよ!!鈍いな!よくそんなんで警備兵やってるね!!


仕方なく髪をチロチロと揺らすと警戒しながら警備兵の近づく足音がする。


「……っおい!貴様そこで―――」

「ごめんね!」

プシュッ


案の定近づいてきたのは鎧と兜をかぶった魔族の見張りだった。その顔に薬品を吹き付けると、糸が切れたようにその場に倒れ込む。


「あ、なっ…にをっ」

「大丈夫、それはアカグミムカデの神経毒から作った麻痺薬だから明日になればすぐに動けるようになるし、アカグミムカデの毒は危険だから動物は寄ってこないよ。…はい、これ飲んで」

「や…めろ…来る…な…」

「記憶が数時間飛ぶだけだよ、それとも何……本物の毒で口封じされたい?」

「……」

「起きたときには肩こり、冷え性、頭痛、腰痛、眼球疲労も治ってるから、許してね」


魔族の男は一変したリィルの冷たい脅しに屈し、薬を飲みこむと眼球が裏返り、そのまま気を失う。男を引きずって窪みに隠し、鎧と兜を男から剥ぎとり、そのまま身に着ける。しかし


「でかいよ!いや、私が小さいのか…」


リィルの身長は150㎝弱、大柄な魔族サイズの鎧はリィルにとって若干どころではないレベルで大きかった。それでもとりあえず鎧を身に着けて、杖を取り出す。


小さくなれ(クレナーレ)


魔法のかかった鎧はすっと小さくなり、リィルの身体に合うサイズまで縮小する。しかし、今のサイズはどう見ても目の前で失神している魔族とは見た目が違いすぎる。もう一度杖を取り出すと、今度は鎧を着た状態で身体に魔法をかける。


惑え(ヴァビラーデ)


認識阻害魔法。熟練者ならば魔法の対象を全く別の存在として認識させることができる強力な魔法だが、リィルには初級程度、認識を曖昧にする位の効果が精々である。それでも鎧と兜、そして状況さえ揃っていれば十分誤認させることも可能である。


「よし…行くぞぉ…」


できるだけ怪しまれないように堂々と胸を張って城門に近づいていく。リィルはバクバクと鼓動する心臓を落ち着かせながら入門した。




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