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暗闇の隊舎

建物の中は聞こえてきた悲鳴に反して静まり返っている。

ミーグの話では宿舎兼衛兵待機所のはずだから、一切物音がしないというのはあり得ない。燭台の火はすべて消され、寧ろ瘴気と荷積みの明かりに照らされた外の方が明るいくらいだった。


「もう、大丈夫」

「…よシ…俺ガ前ヲ歩こう」


敵がいるかもしれない場所でいつまでもミーグの背に乗っているわけにはいかない。

大きな背中を滑り降りて、地面に足が付いた途端に身体の重さで膝が崩れそうになる。だが、そんな弱音を吐いている場合ではない。杖を構え、空いた右手で壁に摑まりながらミーグの後を追う。

元はといえば全部自分が蒔いたような種だ。


イルミナバーテ(灯を燈せ)…そのナイフ、燃えろって念じれば燃えるよ」

「…燃えロ…便利ダな」


リィルが呪文を唱えると、杖の先から温かな橙色の光が溢れ出した。

ミーグも剣を構えながら、左手にナイフの火を掲げる。外より暗い建物の中では光源が手元にあるだけでも十分に心強い。

建物に入る前に幽玄のローブを脱いでおく。隠密行動には向いているが、戦闘にはあまり向いていない。同士討ちの危険もあるし、そもそも相手に注意を向けられていたらそこまで大きな効果は期待できない。なにより、今後の旅でも必要になるローブが破れてしまったら一大事だ。


「…開けルゾ」

「気を付けて」


ミーグが廊下の一番手前にあった扉を開く。廊下と同じように部屋の中は暗闇が広がっているが、明かりに照らされた部屋には分かりやすく違いがあった。


「…手遅れカ」

「死霊術は…かかってないみたい」

「……」


部屋の中には複数人の魔族の死体があった。死霊術の死体が貪ったのだろう、腹部には食いちぎられたような穴が空き、ぐちゃぐちゃにかみ砕かれた骨と臓器がそこら中にまき散らされている。それでも精一杯抵抗したのか、部屋の中は剣や槍で裂かれたような傷がそこら中についていた。ミーグは何も言わず鎧の奥に隠れた表情は何も分からなかったが、壁についた大きな拳型の凹みが全てを物語っている。


「行こう」

「………」


黙り込んでしまったミーグの手を引いて、次の部屋の扉を開く。

木製の床には真っ赤な水溜りが広がり、壁や天井まで飛沫が広がっている。その中心には鎧ごと切り刻まれた魔族が二人横たわっていた。


「…ここも、ダメかな…」

「…イや…生きテいルっ…!」

「あ、だめっ」


リィルを押しのけるようにしてミーグが魔族に駆け寄ってしまう。咄嗟に制止しようとするが、巨体相手では敵わなかった。

ミーグは魔族の身体を抱き起して傷口を塞ごうとするが、全身からの出血はそう簡単に止められるものではない。


「おイ…しっかリシろ!…何ガあった!」

「……ぅ…」

「身体を傾けちゃダメ!鎧を外して布で傷を抑えて!」


口の端から血を垂れ流す魔族を見て、思わず声を上げてしまった。

ミーグはすぐに我を取り戻して近くにあった布で傷口を止血する。それでもこの魔族が死に向かっていることは変わらない。ミーグが手当てをする様子を、何処か現実離れした景色のように眺めながら無意識に薬鞄の瓶を握りしめていた。


「くソっ…出血が多イ…何とカデきなイのカ!?」

「…へっ?…あ…」


出来るか出来ないかで言えば、出来る。

今握っている魔法薬が、まさに治癒の魔法薬だから。

けど、今ある分を使ってしまったらもう作れない…材料もないし、採取できる場所もない。

今はまだ東大陸の真ん中。

ここで貴重な治癒の魔法薬を失ったら、西大陸まで生きて帰れる確率は一気に下がる。


「人間ニ…こンナことヲ頼ムのガ…烏滸がマしイのは…分カってイル…ダが…」

「あ、いや、そうじゃなくて…」


ミーグの反応を見て、自分の事しか頭にない思考回路が嫌になる。

人間全体の事を考えても、確かに魔族を助ける理由はない。だが、()()()()()は全く考えていなかった。

何と返事をしたらいいのか分からず、代わりに作りたての魔法薬を鞄から二瓶取り出して傷口にゆっくりと垂らしていく。一気にかけると骨や筋肉が奇形になってしまう場合があるからだ。


「……」

「!…コれは」


なけなしの材料で作った魔法薬だが効果は覿面。

出血は止まり、新陳代謝が促進され、千切れた筋繊維や皮膚が再生していく。細胞の増殖が活性化し失われた血や肉が補われる。数分もしない内に血まみれだった魔族は安らかな寝息を立てていた。


「スまなイ…」

「…気にしないで…この治癒薬、一本あげる…飲むか、ゆっくり掛けるかして使ってね」


私一人が魔族数人を助けた程度で、きっと勇者たちの動きに何も支障はない。

今はただそう信じるしかない。

そして何より、目の前で苦しんでいる人を放置することの方が耐えられなかった。

部屋の隅に二人を寝かせて別の部屋に移る。

隊舎の中はどこもひどい有様で、どの部屋にも魔族がいるのに死んでいないのは最初の二人を除いても数人だった。


「やっぱり、おかしいよ…なんで死霊術がかかってないんだろう…」

「どういウことダ?」


宿舎棟を抜け、最奥の広間に続く扉にゆっくりと手をかける。ここまで遭遇しなかったことを鑑みれば、敵がこの部屋にいるのは間違いないだろう。

一方で、リィルの頭の中は疑問で満たされていた。死霊術は死体が増えるほど兵数を増やせる、というのが最も大きい利点だ。まして、ここにいるのは訓練された魔族の兵隊。死体兵士にする価値は十分だ。

それを聞いたミーグもまた、険しそうな顔で剣を握りしめる。


「…コの先ハ…待機所ダ…っ!ジェンキンス!」


突然声を張り上げてミーグが物陰に横たわる魔族に走り寄る。四つ腕に棘の生えた軽装備の魔族が血塗れで抱きかかえられた。声しか聞いたことがないが、彼がミーグを慕っていたジェンキンスなのだろうと思いつく。

他の魔族に比べて装備が少なかったからか、傷が深く、両足は完全に切り落とされてしまっている。しかし幸いにも両の腕は()()()()()()()()


「…脚は…後遺症が残るけど、腕はちゃんと治りそうだね」

「ホっ…本当カ!」

「うん。傷口にかけたらすぐに腕を高い位置で固定して…脚は、まあ傷口を合わせてゆっくりかけて、後は本人の回復力に任せよう」

「わ、分カッた」


ミーグに細かく指示しながら止血と固定を手伝う。助ける義理など全くないというのに、しかし見捨てるわけにもいかなかった。

この行いが、もしかしたら、万が一にも、未来の礎になるのかもしれないのだから。

後方支援隊の隊長という名に恥じず、ミーグはリィルの思っていたよりも手際が良く、舌を巻くほど素早く処置が終わった。


―――……カタッ


「「!!」」


―――……


待機所と魔族の言語で書かれた大きな扉の奥から小さな物音が響き、ミーグと二人で得物に手を置いて身を固くする。しかし身構えていると音は聞こえず、二人で顔を見合わせてゆっくり静かに扉へ近づいていく。

リィルは生唾を飲み込み、ミーグが剣を構えながらゆっくりと扉を開けた。


ヒョォオオオォォオオォオオォオオオ

「!?…フンッ!」


扉を少し開いた瞬間に黒い影がミーグに襲い掛かる。

相手がどこから来るのかわかっている分、対処をするのは難しいことではない。ミーグが左手に構えていた長剣で叩き切ると、相手は待機所の中へ簡単に吹き飛んだ。


「早く燃やさないとすぐに復活する!」

「分かっタ」


ミーグは燃えるナイフを転がった死体兵に近づける。リィルが肩越しに覗いたその姿には、ミイラ化してカラカラになっても確かな見覚えがあった。


路地裏で私を蹴り飛ばした魔族!


ミーグがナイフを突き立てようとすると、驚くべき速さで横に逸れ、千切れかけた身体をグラグラと修復しながら立ち直る。その再生力もさることながら、動きの俊敏さは夕刻のものと比べ物にならない。その上、干からびた身体はその膂力に反して細く歪んでいて攻撃が当てづらい。


「こイツは…厄介だナ」


ミーグは重たい長剣と逆手に持ったリィルのナイフを二刀流にして前に立つ。

リィルが不調である事を知っているからなのか、或いは前衛と後衛の立ち位置をわきまえているからなのか、ともあれリィルとしてはミーグが前に出てくれるのは願ってもない事だ。


守れ(トゥエレ)固く守れ(ハルト・トゥエーレ)…気休めかもしれませんが」

「十分ダ」


ミーグの鎧に杖先を当て呪文を唱える。リィルが使えるのは所詮初級呪文だが、それでも相手は鋼鉄の鎧を裂く死体兵士、無いよりはあった方が戦いやすいだろう。

一方で、リィルの魔力は既に限界。必死で我慢してはいるが、防御呪文を掛けただけで膝が笑っている。そう何度も魔法は使えそうにない。


ヒォオオォオォォ

「来ルぞ!」

「はい!」


蛇行するように迫る死体兵士にミーグが長剣で切りつけた。

しかし死体兵士を操作している術師も馬鹿ではないらしく、ミイラは腕を盾にして長剣を受け止めると硬質化した爪で鎧を引き裂こうとする。

ミーグは逆手に持ったナイフで咄嗟に身を守るが、小さなナイフ一本では力負けしてしまう。


燃えよ(ヴァブレ)!!」


ミーグの影から慎重に狙いをつけて魔法を放つ。

杖先から出る赤い光はミイラの右足に命中すると弾けて乾いた肌を燃やし始めた。

しかし――


フシュウゥウゥゥ…

「う、嘘…火が…」


死霊術にとっては弱点であるはずの炎は吸い込まれるように消えていく。理由はすぐに思いついた。

除血薬で死んだのならば体温はほとんど失われない。つまり温熱が弱点とならない。


「隙だラケだ!」

「下がって!」


鈍い音と共にミーグの剣が魔族のミイラを袈裟切りにする。しかし身体を真っ二つにしたところで死体が止まるはずがない。

しかし、火が効かないのは予想外でも、ミイラに効果的な物は予想してある。


「っえい!」


リィルが投げつけた大きめの丸底フラスコにはたっぷりと水が詰まっている。

除血薬と死霊術の媒介薬を解毒した樽の水だ。

薬の瓶を投げるのは手慣れたもので、奇妙な軌道を描きながらフラスコはミイラの身体に命中して砕け散った。


ゴ…ゴォ…


濁った鳴き声と明らかに悪くなった再生力。水を浴びた身体はドロドロになりながら崩れ落ちていく。見立て通り水が効いているようだが、即座に停止するまでには至らない。


「往生際が悪イ!」


ミーグの長剣がミイラの首を跳ね飛ばし、転がった首は笛のような音を吐き出して暗闇の中に消えていく。それでもなお溶けた身体で襲い掛かろうとするミイラに、ミーグは長剣で四肢を切り落とし、骨を砕き、徹底的に解体していく。

仲間を死体に殺され、もはやただの道具と化したミイラを殴るミーグのやるせなさは背後に立つリィルにまでひしひしと伝わってきた。これが生身の相手なら少しは納得もできたかもしれないが、操られていた死体ではどこに怒りをぶつけたらいいのかも分からないだろう。


やがて体が細切れになったころ、ようやくミイラは動きを止めた。リィルは杖を、ミーグは剣を構えたまま、静かになった待機所で残心を続ける。完全に動かなくなったことを確認して、周囲に散らばったミイラを覗き込んだ。

ただでさえミイラ化していた身体は腐ったチーズのように乳化して溶け出し、鼻が曲がりそうな異臭を放っている。


「フぅ…こレで大丈夫カ?」

「た、多分…ねぇ、見て…」

「なんダ…こレハっ…!」


リィルが指さした先にあったのは死体の山。それもこれまでの比ではない。ついさっきミーグがそうしたように、死体が細切れになるまで引き裂かれ、食い散らかされ、苦悶の表情を浮かべたまま死んだ魔族の身体が荒らされた部屋中に散らばっていた。

たまたまこっちを見ていた死体の顔は眉が吊り上がり、目元は歪み、口は今にも悲鳴が聞こえてきそうなほど大きく開かれている。仲間を殺されたミーグは言わずもがな、リィルでさえも正視に耐えず目線を逸らしていた。


「念のため…水かけておこうか」

「待テ、俺ガやる」


ミーグは薬鞄から取り出した水のボトルをひったくると、『シュポン』と小気味良い音を立てながらコルク栓を親指で軽く弾いた。念のために剣を構えながら近づいていく。


「…ミイラの良い所は乾かしゃ何度でも使える事だ『乾け(トルネント)』」

「「…っ!」」


暗闇の中から響いた声に二人が身体を硬直させると、切り刻んだはずのミイラの手が二人の首に絡みついた。


「っミ…グ」

「…っグ……く、ソっ」


ミイラの腕はリィルの身体を押し倒し床に縫い付けると、万力のように首を絞めつける。

ミーグは背後から飛び付かれたことと、当人の腕力もあって自分の気道をギリギリ確保できるが、正面から受けたリィルは首の骨が折れそうなほどの力で絞め上げられる。


「…っ…っ!…」

「オ、い…しっカり…しロっ」


ミイラの細腕からは想像もつかないほど強く、片腕が杖で塞がれたリィルがいくら必死で振り払おうとしてもビクともしない。ミーグもリィルを助けようとするが、生憎腕を引き剥がすために水のボトルは取り落とし、自分の気道を確保するので精一杯。

気道を確保しても血管は圧迫され、呼吸すらままならないリィルは既に意識が飛び始めている。

自力脱出が出来ないと分かった瞬間、リィルの杖先はミーグに向けられていた。目線でやりたい事を伝えようとするが、正しく伝わっているかは分からない。


「ヘ…と…ヘル、ト…ヘルト、激しく燃えよ(ヘルト・ヴァーブレ)!!」

ゴォオッ


藻掻いているミーグの動きが鈍った瞬間を狙って魔法を放つ。

杖の先端から迸った()()()がミイラの腕に突き刺さると首を掴んでいた腕全体を豪炎が包み込み、広い待機所が見渡せる程碧く輝く緑の柱を吹き上げる。その緑光に照らされ、暗がりに沈んでいた鮮血の色で床や天井がはっきりと浮かび上がっていた。

緑の炎は消えることなくミイラの腕を焼き尽くし、ミーグを戒めから解放する。ミーグも金属の鎧が溶けて変形し、首に火傷を負ったが死んではいない。直ぐにリィルに駆け寄りミイラの腕に油をかけて残っていた緑の炎を延焼させる。

魔力の籠った緑の炎は勢いよく飛び移り、ミーグの時同様に燃やし尽くした。


「シ…しっかリしロ!」

「……ぅ」


ミーグはミイラの腕から力が抜けた隙にリィルの首から引き剥がし、残っていたミイラの身体の方へ油の瓶と一緒に放り投げた。緑の炎は僅かな油で燃え広がりバラバラになったミイラの全身に延びていった。


「リィル!?」

「…うぶっ!…おぇっえ゛ぇ…」

「ど、どウシた!?」


水っぽい血痰まじりの胃液を吐き出して転げまわる。

傍らでミーグが何かを言っているのは聞こえるが、耳鳴りが酷くて何と言っているのか分からない。

吐き気・幻聴・手足の痺れ・横隔膜の痙攣。

身体も魔力も限界の状態で魔法を使った副作用だ。

緑の炎は魔法の炎。意識もはっきりとせず渾身の力を込めて使ったが、その分魔力の消費量は多い。


気持ち悪い、気持ち悪い…気持ち悪い…


「み…ぐ…水を…と、どめ…を…うぇええ…」

「わ、分かっタ」


身を案じるミーグを押しのけてミイラのとどめを優先させる。この隊舎には助けた魔族もいるし、もしかしたらまだ生存者がいるかもしれない。それに緑の炎は燃焼物がなくてもしばらく燃え続けてしまう為、このまま放置すれば火事になりかねない。


息…空気…ゆっくり…


「はっ…はぁっ…はぁーっ…はぁー…はぁー」


明滅していた視界が色を取り戻すが、身体はもうガタガタだった。平衡感覚はリィルの知らないどこかへと旅立ち、意識して呼吸していないと酸欠で死にそうになる。鞄の中にあった安定剤を飲み込んで吐き気は収まったが、身体を起こそうにも手足にどうやって力を入れたらいいのか分からない。

近くにあった椅子にしがみ付いて無理やり立ち上がると、少し離れた所でミーグがミイラに水をかけていた。


「コれで…本当ニいいノカ?」

「…」


声を出せない代わりにコクコクと小さく頷くと、それだけで眩暈がぶり返す。

塵になったミイラを蹴散らすと、ミーグが肩を貸してくれた。生まれたての小鹿のように膝を震わせながら、なんとか自力で身体を支える。


「本当に大丈夫カ?」

「ぅ…ん…ゲホっ!…はっ、はぁっ…でも、もう…魔法は…使えな…」

「…分カっタ…分かっタかラ喋るナ」


情けない。なんと情けない。

自分の失態を拭うどころか、行き当たりばったりの手段で見知らぬ魔族の手を借りて…

本当に、勇者たちに付いて行かなくて正解だった。

いや、或いはもっと早く別れるべきだったのかもしれない。

優秀なみんなにとって、私はお荷物でしかなかった。


「…はぁっ…それより…多分っ、まだ…黒幕が…」

「案ずルな…見エテいル」

「……?」


ミーグに言われて顔を上げると、暗闇の奥にゆらりと黒い影が立ち上がる。


「おかしいぜ。何で人間と魔族が仲良くしてんだ」

「…貴様ガ犯人か…楽ニ死ネるト思うナよ」


ミーグは長剣を低く構えて暗闇に潜む何者かに剣先を突き付ける。

リィルの霞む視界では暗闇の中にいる者の正体が分からないが、魔力が見えると言っていたミーグにはその姿がはっきり捉えられているのかもしれない。


「ふんっ…もう遅いぜ『死体よ、(エルワ・ローズ)目覚めよ(・レイチェル)』」

「何ッ!?」


男が呪文を唱えた瞬間、建物中の死体が動き出した。

バラバラになった死体が独りでに動き出し、巨大な人型の塊へと変貌していく。


「な…なに…これ…」


リィルよりも数倍大きいミーグですら、その巨体に比べれば一回り小さい。

巨体は死体を溶かして取り込み、魔族の骨や肉が中途半端に人の形へと変わる。なによりも嫌悪感を引き起こすのは、死の間際の苦痛に歪んだ魔族の顔が身体の至る所から飛び出していたことだった。


「コんナ事ノタめに…」

「はははははははははははは、最高の芸術品じゃないか!!!」


隊舎中の死体に死霊術が掛けられていなかった理由がやっとわかった。

あれは『掛けられていなかった』んじゃない。

『掛けられていたけど単体で動かなかった』だけだ。


「さあ死体屑(レイチェル)、魔族共を食らい尽くせ!」


死にたての死体故か、或いは自分のものか、屍のゴーレムは生々しいほどの死臭を放っていた。


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