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そんな事を考えはしたが、思考が如何にも纏まらない。儚い理屈が産まれては脳髄に溶けていく。
「あ、それ。私と同じ鞄。」
と、聞こえて隣に人が居たことに気がついた。見覚えのない少女であった。但だ私と同じ制服を着ていることは確かで、後は色素の抜けた様な色の髪と不健康な程白い肌が目立つ、そんな少女だった。
すると、そんな私の戸惑いを察した様に
「嫌だなぁ、忘れちゃったの?同じクラスなのに。私、鏡花って言うのよ。化野鏡花。思い出してくれた?」と。ああ、そう言えば、そんな人間が居た気がする。話したことは無かったけれど。しかし、どうしてこんな特徴的な少女を忘れていたのだろうか?どうやら今朝から脳が上手く動いていないらしい。
全てが夢の理屈の様に現れては倒壊していく。思索は像を結ばない。不明瞭なイメェジを脳内に残していくばかりで。
「如何したの?早く行かないと遅刻するよ?」という声と私を引っ張って行く手が私の思考を遮ってしまった。
どうやらこの化野という少女と私は友好的な関係にあるらしい。学校の始業…の時刻は思い出せないが化野によると急がねば学校に遅刻するような逼迫した事態にあるらしい。学生にとって遅刻をするという行為は当然恥ずべき行為である。私の級友の一人、若狭という男子生徒はよく遅刻するのだが、彼は教室に入る時にはいつも鼻に汗を乗せ、肩で息をしている。彼だけではなく急いで教室に来た生徒は一様にあの落差の大きい階段を急いで登るのだから玉の汗を浮かべることは必至である。私は彼ら彼女らを見てする、心の底からの嘲笑を平凡な顔に貼り付けていたのだった。彼らのように無様な姿を晒すことは少なくとも平凡な知性体である私は許容できない…の…だが…これらの記憶は私の記憶だろうか………もどかしい。