香具師
ある香具師が恋の病に落ちた女に、毒薬を渡した。女には心臓が二つあった。毒蜘蛛とクロアゲハ蝶の刺青を、心のどこか、たとえば左右にある二つの心臓に彫り上げており、そのどちらも恋した男には知られていなかった。しかし男は女に好感を持っていたし、上手くいけば、付き合うことになりそうだった。もちろんそれは毒薬がもたらした、香具師の力が多いにある。
ある日、男の身体の中に、女の心臓から離れた毒蜘蛛が入り込み、その神経と血のニオイを高ぶらせた。それから男は女の心を凍りつかせた。尖りついた氷山の塊が女の心臓にめり込み、やがて穴を開けて回った。そこから漏れ出す、煙のニオイは魅惑的で、男を女から離れないようにした。女もまた男から離れないようになった。残った心臓に彫られたクロアゲハ蝶の刺青が優雅に宙を舞い、その指先を漂わせた。それ以外にも、女の表情や胸元、背中から腰、性器や太腿などあらゆる身体の箇所に含まれ、その蝶は毒蜘蛛と同じように意志を持つようになった。
ある夜、月に照らされた男女の影から立ち上がった毒蜘蛛とクロアゲハ蝶は、腹話術人形のように、その糸を引きちぎる動作とそれを理性で戻そうという動作を繰り返した。その何度目かのこと、糸同士が絡まり合い、綱のようなたぐり糸が出来上がるところまでいった。その薄闇で出来たカーテンをめくり、香具師は彼らのニオイを取り出して新しいクスリを作ることにした。心を凍結する代わりに、恋を成就させる新しいクスリの小瓶の溶液には、まだ小さくともサナギの骨がはっきり見える。