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少し遅れました
「お待ちしておりました。騎士団長殿、ラドルフ」
視線の先に立っているのは騎士団長とラドルフの二人
ラドルフが逃げ道がないように手を打ったと言ったのは騎士団長を巻き込んだことだろう。
「不快な思いをさせてしまい申し訳ない」
「構いません。私こそ騒ぎを大きくしてしまいましたもの」
「謝るべきはこちらですので、貴方は間違ったことを言っていない。
…それにしても随分と恥を晒したものだな」
「私は何もっ!」
「黙れ!!証拠は全て揃っている。お前の部屋から魔物を興奮状態に陥らせる香が出てきたのだぞ!全くラドルフ殿から話を伺った時は一体何の冗談だと思っていたが、詳しい話を聞いてお前達ならやりかねんと思ったぞ」
あらら、アイダからの情報受け取って真っ先に騎士団長の所へ行ったのね。そりゃあ、あいつら逃げ場がないわね。
騎士団長の叱責が聞こえる中ラドルフが私の元へやってきた。
「大分時間がかかりましたね」
「あいつが隠そうとしていたからな。俺のグレイには隠し通せなかったさ。
まあ、ジークフリード殿の従魔のおかげでもあったがな」
「それはどういう…?」
「いくら従魔と言っても魔物用の香はきついだろうに、現物をこちらまで運んでくれた。いまは休んでいるがな」
「それは…得難い相棒がいらっしゃるのですね」
「ああ、後でお前も魔力を渡してやれ。俺達の魔力は従魔にとっての栄養であり薬だからな。勿論主人にもやってもらわなければならないが」
「ええ、分かりました」
二人で話している間に向こうの話も終盤へと近づいている。それでもまだ悪足掻きをしている様子を見て一つ毒を振り撒いた。
「知らないとはおかしな事を仰いますね。第九部隊隊長殿。」
「貴様…」
「先程貴方ご自身が仰っていたでは無いですか。
興奮状態に陥った魔物…と。
鉄鷲はその性質上興奮状態の有無は判断しづらい魔物なのですよ。
貴方はどうして分かったのでしょうね?」
事実鉄鷲は平時の状態と興奮状態の見分けがつきにくい。他の魔物のように見ただけで分かる変化が殆どないのだ。それによって対策を取れず命を落とす者も少なくない。
騎士団長が険しい顔をしながらも言葉を発する。
「そもそも騎士団は元は第八部隊までしか無かった。お前達がその席に居るのはお前達のお父上達が能力のある若者を腐らせている、日の目を見ないのはおかしいと陛下に進言したからだ。
活躍の場を増やして欲しいとのことで第九部隊と第十部隊が発足したのだったがなぁ?結局お前らは足を引っ張ることしかしなかったな。
陛下も大事が起きない限りは目を瞑って下さったが、今回の件は隠し立てのしようもない。全て報告させてもらうぞ。
勿論今回の件には関係していなかった第十部隊も見直しの対象だ。周りから散々報告は受けているから言い逃れはできん」
我関せずとばかりに傍観に徹していた第十部隊の隊員であろう者達が慌てだす。
「何、探されても疚しい事など無く、普段から堅実に過ごして評価されているのなら問題はないはずだ。
今回の件によって第九部隊と第十部隊は無くなるだろうが評価を得られた者は別部隊に配属されるだろう」
「まさに自業自得といったところですね」
「自身の行いによってこの先の未来が変わる。本当にその通りだな。
これで騎士団の膿はある程度取り除けたか」
「恐らくは殆ど残らないでしょうね。残るのは何も出来ない小物ばかり。
それにしてもこうなるのが分かってお膳立てするとは本当に恐ろしい人ですね」
「お前には言われたくないな。察して乗ってくるだけではなく、俺達が来る前にお前もお膳立てしていただろう」
「それはそうですけど…」
私が情報を集め、それを知ったラドルフが今回のシナリオを描き、この結末になるように騎士団長を巻き込んだ。
騎士団の膿を取り除きたかった騎士団長はラドルフの策に乗り、それを感じ取った私も乗った。
私からの情報を受け取ったラドルフがどういう決着に持っていくか予想して動いた私も私ではあるけど。
相手を怒らせ、口を軽くし、逃れられない言葉を話させる。本当に貴族社会というのは恐ろしい。
「実際あいつらは少しずつ問題になっていたからな。今回ことで今まで見逃されていた奴らもお終いだろう」
「騎士団長が言っていた通り、真面目に働いていた者にはそれ相応の評価が上がっていますものね。
何はともあれ私達の役目は終わりですか」
「そうだな。そろそろ退場するとしよう」
話に区切りがつくのを待ち、騎士団長に退出の旨を話す。
演習場での喧騒を後ろにそこから立ち去る。塔へ二人並んで向かい始めた。
「シルヴィ、お前からも詳しい報告書を書く必要があるのを忘れるなよ」
「分かってますよ。はぁ、面倒…」
この後増えた予定外の仕事に一つ溜息を吐いた。
騎士団の問題解決回