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時間がありましたので続きをば
向けられる悪意に真っ向から向かい合うようにし、一つ優雅に一礼する。
上位貴族のそれと同じ立ち振る舞いに驚いたのか息を飲む声が聞こえた。
「魔術師団に席を置いております。副団長のシルヴィアと申します。真逆知らないとは言いませんでしょう?」
ゆるりと口元に笑みを浮かべ、不思議そうに首を傾げる。見ようによっては馬鹿にしていると思われるかもしれないけれど、隊長格でありながら知らないなんてありえない。もしそうなら怠慢もいい所だろう。ジークフリード殿は私の事が分かったのだから。
「私用でディリスの大森林に行ったのですが傷だらけのジークフリード殿を見つけましてね。傷の様子から一刻の猶予も無いと判断して治療した次第ですよ」
「…随分と都合の良いタイミングで行ったものですね」
私に罪を擦り付けるつもりかな、これは。浅はかと言う他ないね。
「私がよく魔道具を作っているのは周知のことだと思いますが、その材料を採りに行っただけですよ。
そもそも危うかった人を助けたというのにそちらの言い分はまるで私を犯人にしたいかのようだ。
それに、疑われてるのは私ではなく貴方では?第九部隊隊長殿」
私に知られているとは思ってもいなかったのか歯軋りする。情報を集めていれば私に喧嘩を売ろうなんて考えはしないはずなのだから。本当に親のコネでその役職に就いただけの人間のようである。
誰に気をつけるかなんてまともな貴族なら知っているはずだ。貴族の武器は本来剣や魔法といった目に見える力などではなく、話術と情報なのだから。
「そんな証拠がどこにある!」
「そうですね。私は知りませんわ。持ち合わせてなどおりませんもの」
私の言にまだ何とかなると思ったのか瞳が喜悦に染まるのが分かる。
「貴方が疑わしいという証拠がないというのと同様、私にも証拠がないというのはご理解下さいね」
「っ!」
私の主張に目に見えて憤怒の表情を纏いこちらを睨めつける。こちらは正当な主張しかしていないというのに。
「そもそも今回の討伐は失敗した!責任は第三部隊隊長だろう!」
「はて、討伐失敗、ですか?それは何故?」
「魔物の討伐は出来ず、その男を攫った!興奮状態に陥った魔物の討伐なんぞ出来ないだろう!」
ああ、甘い。本来貴方が知るはずのないであろう事実を自分から言ってくれた。貴族であれば言葉の端まで気をつけなければならないと言うのに。
けれど、先にこちらを片付けようか。
「おかしいですね。私は討伐された魔物の死体を見ましたのに。お疑いならここに出しますわ」
そう言葉を続け、しまっていた魔物の死体を取り出す。反応は3つに別れた。
1つは今回の任務に当たっていなかった他の部隊員の驚きの声。
1つは第三部隊の実際に相対した彼らの感嘆と賞賛の声。
そして最後は第九部隊の忌々しげな声。
憎々しげに睨みながら第九部隊隊長が私を見る。
「…これは貴方が討伐したので?」
「いいえ、まさか。私が見つけた時には既に息絶えておりましたよ。ジークフリード殿によって、ね」
「馬鹿な…あんな状態で出来るはずがない」
「私も彼が目を覚ますまで多少検分したのですよ。すると大きな傷が2つありました。
1つは目の傷。恐らくは剣によって片目を潰したのでしょうね。
そしてもう1つ、こちらが致命傷でしょう。喉から体内にかけて切り裂かれていました。
残っている魔力も考えてジークフリード殿が倒したのだと私は判断しました」
実際倒したかどうかだけを聞いて詳しい話を聞いてはいなかったのだけれどジークフリード殿を見ると頷いた事から私の予想は当たっていたのだろう。
「そもそも、普通魔術師は騎士のように近接で戦う術を殆ど持ち合わせておりません。このように体内から殺すような殺し方は魔術師では無理なのですよ」
「…貴方は魔導師なのでは?」
「ええ、確かに私ならばこの殺し方は出来るでしょうが態々危険を冒してまでこんな殺し方をする必要はないのですよ。魔導師なのですから他のやり方など幾らでもありますので」
「だが!そんなもの幾らでも詐称出来るだろう!」
その言葉に思わず私の目も纏う魔力も鋭くなるのが分かる。
「私が嘘をついたとでも?」
酷く冷えた声が漏れた。
「それ、は…」
多すぎる魔力は威圧へと変わる。普段抑えているものでも解放してしまえば意味がない。
「貴…様」
「そこまでにして下さるかな、シルヴィア殿」
その声を聞くと同時に威圧を解除する。近くに感じる見知った魔力に【誰】を巻き込んだのかを察知し、心の中で拍手を送った。
【誰】かは次回
その人を巻き込んだのはあの方です