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『無事か』
『誰に聞いてるんですか。それで、そちらの状況は?」
『予想通りだろうさ。戻ってきた第三部隊の連中が第九部隊に食ってかかってる。第三の奴らは損傷が激しいな。なんでも第九の奴らが魔物を活発化させる香を使ったとな』
『物騒なことで。それにしても妨害はそれでしたか。それで、うちのアイダは役に立ちましたか?』
『ああ、1時間もしないうちに証言からある程度の証拠まで集めてきたぞ。流石だな』
『私の従魔ですから』
『それを元手に逃げられない程にまでこちらも固めている』
となると、叩こうと思えばもう叩ける状態だということか…
目を瞑り再び横になって体力の回復に務めている彼をちらりと見る。最初に比べれば大分血色も良くなった。薬の効き目も現れている。そろそろ大丈夫だろう。
『今すぐにでも戻った方が良いですか?』
『まあ、王手をかけるにはいい頃合いだろう』
『彼に説明してから向かいます』
『ああ』
さて…と。
「話が終わりました。今城の方では第三部隊が第九部隊に抗議しているそうです。まあ、予想通りといったところですね」
「それ、はっ!」
顔色を変え体を起こそうとするのを片手で押し留める。
「慌てないで、私は貴方を連れて城へ戻るつもりなのだから。本当なら先に医師の元へ行ってほしいけれど、それは無理でしょうし諦めます。
その代わりだけど手を貸してほしい。私の魔力を循環させて枯渇してる魔力を回復させる。激しく動かなければ大丈夫になるでしょう」
その言葉と同時に自身の手を差し出す。
「頼みます」
「ええ、承りました」
彼の手を取り自身の魔力を循環させる。これは思ってるよりも枯渇してるな…
気絶するまで使っていたから予想はしてたけど…
魔力回復剤も飲ませた方が良かったかな。でも、回復剤も薬の類いだから使い過ぎれば毒となる。
回復させるには自然回復を待つか、回復剤を飲む。そして今行っているように他人の魔力を循環させることに回復速度を早めたり、量を多くしたりする方法がある。急ぐ時にはこれが一番安全でもある。まあ、安全な場所でしか通常なら出来ないのだけど。
ある程度回復するまで循環をし続け、その量に達した時点で手を離した。
「そろそろ大丈夫のはず。ゆっくりでいいから立ってみて、立ちくらみが起こらなければ問題はないから」
「ああ」
しっかりとした足どりで立つ姿を見てもう大丈夫だろうと結論づけた。
「それでは行きましょうか。転移で飛びますのでしっかり掴まって。後、ジークフリード殿が倒した鉄鷲も証明のために持ち帰りますよ」
言うと同時に鉄鷲を空間魔法で仕舞う。
「何から何まで世話になる」
私の使う魔法を見て驚いた顔をしながらも律儀にお礼を言う彼に少しばかり笑みが零れた。
「シューもおいで、帰るよ」
『はい、主様』
「見張りありがとう。今夜は多目に魔力をあげるわ」
『ありがとうございます』
嬉しそうにシュミーが一振尾を振った。
「その蛇は…」
「私の従魔です。それでは手を離さないで下さいね…それとここからはお互い貴族対応で参りましょうか」
「…ええ、心得ました」
次の瞬間視界が切り替わる。
「ここは、王都の門ですか」
「流石に門を素通りして城まで飛ぶことは出来ませんので」
出来ないことは無いけど問題行動にはなるからね…
急いで貴族用の門へと足を進め、門番と話す。
「急いでいるのだけれど大丈夫かしら」
「シルヴィア様遅かったですね」
「ちょっと色々あってね」
「その方は…」
一瞥し門番は察したようだった。貴族門の門番はある程度理解のあるものがついているから当然とも言えるかもしれないけど。
「半刻ほど前にその方と同じ服を纏った方々が急いで来ましたがその関係なのでしょうね。分かりました。お通り下さい」
「問題があれば私まで」
「分かりました」
門を抜け王都へと入る。出た時とは変わらない賑やかな風景が目に入った。
「もう1回飛びますよ。時間が勿体ありませんから」
了承を得ると同時に再び飛んだ。視界に飛び込んで来たのは見慣れた王城。
「…凄いですね。あっという間です」
確かに転移となると使える者が少ないから驚くのも無理はないかもしれない。
それはともかく行く場所を聞かなければいけない。
『ラド、城に着きましたよ。騒動は何処ですか?』
『騎士団の演習場だ。そろそろ実力行使に走りそうだから急いでくれると助かるな』
『派手に登場した方が良いと?』
『そういうことだな』
『はぁ…責任は取って下さいよ』
『ああ、任せとけ』
「ジークフリード殿、そろそろ衝突しそうなので急ぎます。後、目立ちますけど狼狽えないようお願いします」
『分かりました。これでも騎士団の第三部隊を預かっている者です。遠慮はしないで下さい」
「では行きますよ」
再び視界が切り替わる。居るのは演習場の上空。真下で今にも接触しそうな光景を目撃し、咄嗟に結界を張る。
実力行使するにしても武器は使うなよ。騒ぎ大きくしてどうするのさ…武器を持ち出しているのは言わずもがな第九の連中だけどさ…
「騎士団の者が申し訳ありません」
「大丈夫ですよ。ですが皆頭に血が昇ってますね」
「誰だ!!」
咄嗟に武器を構えた人が大半だけど睨むだけで突然現れた不審人物に対処していないのが結構いる。恐らく第九部隊の人員だとは思うけど…これだけで実力の差が伺い知れるな。
「上ですよ。第三部隊隊長殿をお連れしました」
「隊長!」
「心配をかけたな」
「いえ、ご無事で何よりです!」
第三部隊の面々が落ち着きを取り戻すのを見てもう大丈夫だろうと判断し下へと降りた。敬愛する隊長の帰還に喜びに沸いているのを微笑ましく思うけれど釘を刺す。
「嬉しいのも分かりますが、あまり近づきすぎないようお願いします。後一歩遅かったら間に合わなかったであろう状態から持ち直したばかりなので…本当なら医師に見せたいところなのですから」
そう言った瞬間全員が悪戯の見つかった子供のようにぴたりと動きを止めた。
「た、隊長!」
「怪我は全て治しているのであくまで異常がないかの確認です。素人判断では怖いですから」
「そう、ですか」
酷く安堵した表情を見せる彼等に本当にジークフリード殿は慕われているのだろうと分かる。
「それで、貴方は一体誰なのですかね」
表面上は取り繕っているけれど強く悪意のある目でこちらを睨んでくる人物になんて迂闊なんだろうかと内心でほくそ笑む。
お会いしたかったですよ黒幕さん。
問題解決に向けての一歩