美術館デート2
美術館に入ると、葉子は人が変わる。
飽きっぽい、いつもの行動パターンからは全く外れる。
ひとつひとつの絵とじっくり向き合い、時間を掛けて見る。
なので友人と美術館に来るときは、別行動を提案する。
だいたいの人は音を上げるくらいの時間が掛かるからだ。
葉子は雄介に言った。
「ということで、別々に廻っていいですか?」
もちろん、と雄介は言った。
特別展の中心は、印象派だったが結構幅広いジャンルの絵が展示されていた。
私、バルビゾン派から印象派までが一番好きなのよね。
シスレーとかモネとか、見飽きないわよね。
各フロアを順にじっくり見ていく。人出はそこそこだが、展示位置が良いのでこの美術館は見やすい、といつも葉子は思う。フロアが分かれているから、見たい絵だけを行ったり来たりして見るのが面倒だけどね。
雄介は印象派からキュビズムとかフォービズムの絵が好きだった。ピカソも好きだった。
モネもいいし、ブラックとかヴラマンクも普通に格好いいよな。
各フロアをまずは、さっと流して、最初に戻って気に入ったのをじっくり見直す流儀だった。
一時間半後に、一応出口付近に集まると約束をしていた。
閉館時間まで20分くらいの余裕がある時刻だ。
約束の時間までに、葉子はのびのびと絵を満喫した。
やっぱ、パリのオルセー美術館にまた行かなくちゃだな、と思う。
あとオランジェリー美術館のモネの部屋。
約束の時間まで、雄介はのんびりと絵を眺めて廻った。いいもんだな。
そう言えば、以前仕事でパリに行ったときにポンピドゥ・センターは閉館だったから今度は行きたいな、と思う。ルーブル美術館もじっくり見たいな。一週間くらいエジプト館とかも見てみたい。
約束の時間の5分くらい前に、出口に繋がる部屋で二人はお互いを見つけた。
同時に手を振る。
雄介に近づいて葉子は言った。
「お待たせしました!」
もう一度、戻って一緒にさっと見て回ろうか、と雄介は提案した。
それは嬉しい、と葉子は思って賛成した。
二人はエレベーターで1階に降りて、入口すぐの部屋から復習で見て回った。
この部屋だと、どれが良かったですか?と葉子は尋ねる。
雄介は、うーん、意外に最初の肖像画、と答えた。
ああ、確かに。私はこの小品が好きです。それ良いよね。
ゆっくりと各部屋でそんな会話を交わしながら進んでいく。
一番人気、今回の目玉であるルノアールの絵には、二人とも否定的であった。
ルノアールならもっと良いのがあるよね、と言うのが一致した意見だった。
ああ、堪能しました!と葉子は雄介を見上げて言った。
良かったよね、と雄介はにっこり笑って答えた。
じゃあメシ食って帰りましょうか、と雄介は続けた。
いいですねえ、なににしましょう?
ラムとか大丈夫?ええ、全然OKです。ラムチョップが美味しい店があるんだけど。
じゃあそこにしましょう。
ということで、二人は大満足で羊の臭いを周囲に振りまきながら、帰りの高崎線に乗り込んだ。
葉子は雄介に言った。
「ワイン、飲みすぎました」
雄介は笑って言った、寝ていけば?
あはは、そうも行きません、と葉子は言ったものの睡魔には勝てず、
いつの間にかいつもの体勢になって、雄介の右肩に頭を載せて眠ってしまった。
やれやれ、いつもどおりの「眠り姫」だな、と雄介は心の中で笑った。
そしてカバンから文庫本を取り出して読み出した。
雄介が降りる駅に近づいて、葉子に合図をする。
葉子は、ハッと気がついた。また私寝ちゃってた。
樋口さん、ごめんなさい。
雄介は笑って冗談ぽく言った。
「乗り過ごさないでね。籠原まで行くと戻るの大変だから」
そして付け加えた。
「今日は楽しかったです。また月曜日に」
葉子は笑顔で答えた。
「私もすごく楽しかったです。また月曜日に!」




