お土産
次の日もいつも隣に座る男性は、乗車してこなかった。葉子は少し心配になった。知らない人だけどさ、毎朝くっついて過ごしていると愛着がわくというものよね。風邪引いたんだろうな、一人暮らしかな?実家とかなら家人がいるからいいけど。結婚してるのかな?年の頃は後ろ姿からすると、私と同じくらい?奥様がいるなら安心ね。でもどうなんだろな。私も風邪引いて高熱だして一人で寝ている夜は、かなり心細い。大丈夫かしら?
雄介は夕方仕事終えて、金沢駅で北陸新幹線のホームに登る。やれやれ、疲弊した。一人出張だと話し相手がいないのが、いいような悪いような。駅弁つまみにビールでも飲んで帰ろう。本を読む元気も無いし。週刊誌でも買うか。そうだお土産を買っていかなくちゃだ。小分けにしてちょっと多めに買うか。話のネタにもなるし。
金曜日の朝、いつものように葉子は「ハゲ天」様の後に座ったのだが、なんだか緊張していた。今日来なかったら、ずうっと来ないかも。まさか入院とか。
次の駅から隣の婦人の前に長身の男性が立った。あ、この人だな。良かった、入院とかじゃなかったのね。横目で葉子はそっと見上げる。へー、私と同じくらいの年齢ね。精悍な顔つき。ふむ正直好みだ、どうでもいいけど、と自分で自分に突っ込みを入れる。手に金沢土産とおぼしき紙袋を持っていた。あ、出張だったのかしら。良かったわ。
雄介は視線を感じた。ん?いつも隣に座っている女性がこちらをちらちら見ている。俺と同じくらいの年齢だな。髪の毛はふわっと後ろに結んで可愛らしい。小柄で顔も、うーん好みだな。へー、この子が俺の肩を毎日枕にしているのか。雄介は少し笑ってしまった。
二人の視線が交わった。
葉子はあわてた。いつも隣でお世話になっているとはいえ知らない人だしな。寄っかかられて怒っているかもだし。
雄介はあわてた。いつも隣で本を読んでいるだけとは言え、東京駅でどうしても起こすしな、気を悪くしてないといいけど。
どちらからともなく、会釈をする。
二人は同時にちょっと照れくさそうに笑いあった。
隣駅について、葉子の隣席の婦人が降車した。雄介がその後に座った。
雄介は小声で右側に座る葉子に声を掛けた。
「おはようございます!」
葉子も笑って挨拶を返した。
「はい!おはようございます」
そして思わず続けた。
「金沢に出張だったんですね」
雄介は、軽く頷いて言った。
「泊まりでね。結構疲れました」
葉子は言った。
「私は出張とか無い部署だから。出張は大変ですね」
雄介は答える。
「僕もたまにだから」
そう言って、ああそうだ、と言ってから紙袋の中に手を突っ込んでごそごそとした後に、
小さな小袋を取り出して、葉子の方に差し出した。
「これお土産です、どうぞ」
葉子は慌てて言った。
「そんな、単に電車で隣に座っているだけなのに」
雄介は、どうせ余るから、と言って葉子に持たせた。
葉子は言った。
「ありがとうございます、なんだか申し訳ないですけど、いただきます」
そして思い切って続けた。
「あの、いつも眠っちゃって寄っかかってると思います。ごめんなさい」
雄介は笑って言った。
「軽いから大丈夫ですよ、存分に寄りかかってください。それより東京駅で起こしちゃってこちらこそすみません」
葉子は答えた。
「私、新橋なので丁度いい目覚ましになっていて感謝してます!」
二人はクスクスと小声で笑い合った。




