絶望への入口・3
気だるい焦燥感が募る。
無気力に閉じられた扉の音が耳から離れない。リリィの姿を見てから方向性を失っていた。
今夜、ミズキは死ぬ。
その恐怖は今朝から変わらないが、リリィの涙がミズキの心境を大きく揺さぶった。
何を考えればいいか思考は一切放棄している。
喉がひたすら渇いて全身が落ち着かなくて仕方ない。
とめどない複雑さがミズキを苦しめる。死ぬ結末は変わらないから苦悶はひたすら極めている。
逃げるようにベッド上に戻り伏すミズキ。薄暗い部屋の真ん中で目を見開く。天井の光の魔法の石の灯りが点灯し薄くその場を照らしてた。
一旦目を瞑る。入眠はできそうにない。揺さぶられた感情がそれを否定する。様々な思考がそれを邪魔する。
今朝から変わらない。夢には誘われていない。こちらから伺うこともできない。
夢に思いを馳せてる中、ミズキは目を途端に見開いた。
「え……」
驚いて声を出す。その所在は隣の部屋から鈍い音が鳴ったからだ。
身体を恐る恐る起こす。
隣の部屋の壁をじっと見る。すると、音がまた一撃。今度は壁から鳴ったように聞こえた。
隣の部屋はリリィがいる。
まさかリリィが暴れたりはしないだろう。何かあったと考えるべきだが、ミズキの思慮とは別に身体はすぐの隣の部屋に駆けつくことはなかった。
むしろ、死に対して恐怖煽られたようで身体は臆病にも音の鳴る壁に近づけ声を潜めた。
もう一度音は鳴らないのか。怖い想像もしていた。
リリィによからぬことがあったのではないかと。
無意識に首元に手が触れる。汗の伝った柔肌が指先を濡らす。
「……え」
声は霞んで飛び出る。背筋が強張ってくる。
指先が何度も首元を確認する。爪を立てて確認する。
首がゆっくりベッド上を確認するように捻られる。そして、そこにあるものがミズキの動悸を、鼻息を荒くさせる。
その場で膝をつき、胸元と首元を手で抑える。
目には涙を浮かべ、過呼吸気味の身体をいなそうとする。
それは治らない。そこにある事実が身体を、精神を蝕む。
「はぁ、はぁ……。なんで、どうして……」
悔やむような声が呟いて出る。
空虚にベッドの所に伸ばされた空の手。力なく掴もうと試みる。当然、壁からペタリと座り込んでいるミズキにそれ掴めるわけがない。
虚しさだけゆえに、まるで希望を掴もうと願いそうしたのだ。
意味がないのはわかってる。
ベッド上に転がった、ローヤルチョーカーは事実を押し付けるようにそこにある。
ミズキの首元から離れたローヤルチョーカー。
その意味はいま、リリィがこの世からいなくなった事を意味していた。
ミズキの絶望は止まない。




