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イヴの世界  作者: あこ
二章 王都招来
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姫の交流会・2

 絢爛な通路を抜けると、そこは豪華な飾り付けをされた大広間だった。

 ミズキとリリィはエステル教会愛の席ラマンに交流会に招待され王宮に訪れていた。

 王宮の門前で王宮の使いの人物に連れられ大広間に足を踏み入れた。使いの人は寡黙な方で、仕事のことだけをこなすと大広間から姿を消した。

 使いの人の寡黙さに驚いたが、何より王宮は全体として静かであった。

 大広間に入ると、そこは祈祷師が複数見受けられた。中には王宮の使いらしい人もいて、交流会の支度を終え構えていた。

 祈祷師はエステル教会の指示で来てるものだろう。みな愛の席の派閥を表すクローバーの徽章を記した金色のロザリアを首から下げている。

 ここにルナリアがいるかと思ってなんとなく視線を潜らせるが彼女はここにはいないようだった。

 知り合いが一人いないことにしゅんとなるミズキ。隣でリリィが広くて豪華だね、と他愛のない感想を漏らすところに後ろから声がかかる。

「まぁた突っ立てんのかアンタは」

 聞き覚えのある勝気な声。遠慮のない不躾な言葉の正体は振り向いて視線を下げればそこで少し笑みを崩して立っていた。

 カシュ・ミミ。姫の一人だ。その隣は長耳が特徴的なエルフの亜人で近侍のファルマが控えている。

 ファルマはリリィの方に会釈して口を開く。

「リリィ様、初対面でミミが大変失礼しました」

 ファルマは大層礼を尽くして話す。

「いえ、……でも、私の近侍と仲良くしてるみたいで嬉しいわ。すでにミズキと知り合いみたいなのね」

「はい、何度かお見かけして昨日も少しお付き合いをして頂きました」

「へー、そう……。ミズキ言ってくれればいいのにー」

 と、リリィの矛先はミズキにいく。

「え、いや、別に、そんな親しいわけじゃ……」

 取り繕うミズキにカシュがイタズラな笑みを浮かべちょっかいをかけてくる。

「なぁにぃ? 一緒に酒を交わした仲でしょ?」

「え? そうなの?」

「そ、それは違うよ!? ただ無理矢理……」

 余計な誤解が生まれていく中、リリィは柔和な笑みをこぼしていた。

 和やかな雰囲気に不意に横槍が刺す。

 それはリリィたちとカシュたちが大広間の中談笑してる時だった。

「あら、これはすでに私たちの入る隙はないかしらねぇ」

 感情の乗らない透き通った声。その声に皆が一斉に振り向いた。

 真っさらなホワイトドレスに身を包んだ女性。そのドレスを模したように真っさらな瞳がこちらを見据える。

 その隣は対照的に真っ黒な礼服似た衣装に身を包む女性が主を立てるように控えている。彼女の存在が引き立てているのだ。

 虚をついて、カシュが下を向いて小さく舌を鳴らす。先ほどは幼女の風貌に相応しい無邪気な笑み浮かべていたのに、その顔には腹立たしさが刻まれていた。

 彼女の近侍であるファルマがそれを察しているのか、キリッとした瞳が相手の二人を睨んでいた。

 そんな二人の反応と違って示していたのはリリィだ。ミズキが当惑する中、リリィは憧れを感じたみたいに目線をキラキラさせていた。

「アリゼル・フイカさん! こちらに帰っていたんですね」

「ええ、王位を継がれる大切な儀式のためです。まあ、久しぶりに王都に帰ってきて、半分は羽を伸ばしに来たようなものですけどね」

 と、アリゼルはくすっと笑みを作る仕草をする。

「そうなんですね」

 リリィは心地よく反応を示した。

 アリゼルとリリィが会話している中、カシュが気に入らなそうにしている。

 ミズキはカシュに倣って睨むファルマに小声でかけた。

「ね、ねぇ、二人はアリゼルになんかされたの?」

「なんかされたというよりはミミが一方的に不服に思ってるだけですよ。私もあまりよくは思ってませんが」

「一方的?」

 ファルマは小声で答えてくれたが、詳細はわからなかった。

 なんだろう、と思ってると当の本人がカシュに声をかけてきた。

「カシュ、久しぶりね」

「……ふん」

 カシュはあしらうように鼻を鳴らした。その姿は駄々を捏ねた幼女みたいだ。

 視線に笑みを乗せたアリゼルはそのままミズキの方を向く。

 ミズキは反射的にビクッとするが、軽く会釈して誤魔化した。

 アリゼルはミズキには何も言わず、こほんと咳を鳴らして言葉を紡ぐ。

「こちらも一応自己紹介しましょうか」

 と、息継ぎして話す。

「アリゼル・フイカよ。改まることもないけど、ほら、あなたも」

 その言葉は背後の黒い礼服の女性に向けられる。

「はい。アリゼル・フイカ様にお仕えしている。アリマ・スレートと申します」

 作りきっていない笑みで淡々とした文章を述べる。聞き覚えのある文章にミズキは忠誠心の高さを覚えた。

 そして、アリマに応えるようにミズキとファルマが一緒になってぎこちのない首を垂れるのだった。

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