姫の交流会・1
ミズキは屋敷に戻ってから物思いに耽っていた。
酒場での出来事を反芻するかのように頭で何度も思い出していた。
ただ何度も思い出して考えたとして自分からどうすることもできない。この王都での出来事を眺めることしかできない。
ミズキは所詮、傍観者でしかなかった。
屋敷にはカシュとファルマが一緒になって送ってくれた。ちょうど屋敷の前庭にて草木の手入れをしていたアヤチに遭遇し、そこでメグチの所在を騎士団に任せたことを話した。
アヤチは驚くと思ったが、ミズキに探し出せる確証はなかったらしく最もな判断だと冷静に語った。
それでもメグチが見つかってないことには残念そうにはしていた。
それからしばらくして、リリィと合流した。ササキは一緒ではなかったみたいで、また一人で王都を彷徨いているそうだ。
ササキは姫の付き添いの仕事以外で何をしているのかは全くの謎だ。王都で飲み歩いているなんて話を聞いたことあるけど、ササキの風貌からそうなんじゃないかとミズキは勘繰っていた。
リリィにササキのことを聞いても、彼女も何か事情があるんだよ、と流すだけだった。
ササキは自由な人だ。というのがミズキの認識だ。
ササキの自由奔放さや、メグチの所在不明。ミズキの中でモヤモヤが募る中、リリィと一緒に愛の席が催す交流会へと向かう。
会場は王宮の方だという。
馬竜で向かう算段だったが、リリィの意向で徒歩で向かうことになった。
王都の移動は馬竜や徒歩が一般的だ。ただ王都に来てからの移動はずっと徒歩で、馬竜を使ったことはない。それはリリィが公務で各所を回る際も使ってなかったそうだ。
リリィは自分の足で王都を見て回るのが好きらしく、ミズキもまた彼女と同じようにこの世界の風景を自分の足で感じ取ることは嫌ではなかった。
朝から王都の方を徒歩で練り回って疲労感はあるものの、今度はリリィと一緒ということで苦にはなってない。
「ミズキ、行こうか!」
準びを終えたリリィが屋敷前で待っていたミズキに声がかかる。
ミズキは若干照れた様子で頷くと、早速王宮の方へ足を運んだ。
王宮への道路は人で溢れていた。夕方近くは露店が活発になっていて、店売りの声がどこもかしこで響いていた。
王宮に向かうはずがどうにも目移りしてしまう。リリィと一緒に、目新しい品々を見定めていた。またそれを話題に、足取りを遅く会話を楽しんでいた。
店にあるのはアクセサリーや食べ物、この世界で独特な魔法石や使い魔といった商品が並べられている。どれも見飽きたりないものばかりだ。
何度か王都の出店の様子は見ているはずなのに、まだ新鮮さは残ってた。
石畳の街並みに、煉瓦造りの家屋が立ち並ぶ。大きな通りで、様々な人が店に立ち寄り活気立っている。ここがファンタジーの世界であることを再認識する。
一つ常識と違うことを挙げれば、ここは女性しかいないということだ。
途端に、現実感が脳裏を掠める。
ミズキはここにいていいのだろうか。そういう疑問が浮かぶ。そして、隣のリリィと一緒にいていいのか、と。
ミズキの背後には『宮崎瑞季』が常に張り付いている。二十七歳の無気力で怠惰でどうしようもない過去の自分がすぐそばにいる。
張り付いているそれはまだ消えない。まだピタリとくっついている。
拭えない過去はまだ隣にいる。リリィを見た時に、その過去がちらつく。
こんなに楽しい状況なのに、ミズキの過去は消えない。異世界に来たとて、消えるものではない。
リリィが物憂げなミズキの顔を覗き込む。ミズキは無意識に視線を逸らす。
それは気恥ずかしさからではないものではない。後ろめたいものがあるからだ。
ミズキはまだリリィと向き合えてなかった。




